プロダクトデザイナー 五十嵐 瞳の視点|LEXUS
LEXUS DESIGN AWARD 2014|レクサス デザイン アワード 2014
豊かな社会を作り上げる“DESIGN”作りのために
プロダクトデザイナー 五十嵐 瞳の視点
次世代を担うクリエイターを対象とした国際デザインコンペティションとして、昨年レクサスが創設した「LEXUS DESIGN AWARD」。72カ国からの参加者を集めた第1回目に続き、今年も開催が決定。10月15日まで応募を受け付けている。レクサスの考える“DESIGN”とはなにか。ここでは、第1回の受賞者である五十嵐瞳氏へのインタビューを通して、その世界観をのぞいてみたい。
Text by OGAWA FumioPhotographs by JAMANDFIX
流れるものを軸とした発想
国内外のアーティストから注目を集める「LEXUS DESIGN AWARD」。第1回の受賞者、五十嵐瞳氏の斬新な提案は、紙の型による磁器だ。
豊かな社会を作り上げる“DESIGN”作りのために、を標榜し、全世界の若手クリエイターを対象としたデザインコンペティションが「LEXUS DESIGN AWARD」。8月1日より第2回の募集がはじまっているが、いったいどのような賞なのか、第1回の受賞者である五十嵐瞳氏へのインタビューを通して、その企図を探ってみよう。
第1回のテーマは「Motion」だった。「私たちの日常生活に直接結びついた言葉であり、コンセプト」(レクサス)と説明されるこのテーマの下、あらゆるジャンルのクリエイターからの応募があったという。審査基準は「レクサスの考える“DESIGN”に対する、深い理解とその解釈の独自性」および「課題に対する着眼点とソリューションの独自性」と説明された。
五十嵐瞳氏の受賞作は「Making Porcelain with an ORIGAMI」(磁器を折り紙で作る)。応募当時は多摩美術大学生産デザイン学科に在籍していた五十嵐氏だが、このテーマのもと、紙の型を用いて磁器を焼くという、画期的なアイディアを提案した。
紙を使うことで、さまざまな形を作ることができ、従来の方法で作られたものにはない薄さを実現できる、という五十嵐氏のコンセプトは、「この技法は磁器生産にあらたな可能性をもたらすだろう」(レクサス)と、高く評価された。
LEXUS DESIGN AWARD 2014|レクサス デザイン アワード 2014
豊かな社会を作り上げる“DESIGN”作りのために
プロダクトデザイナー 五十嵐 瞳の視点 (2)
生産プロセスの提案
──五十嵐さんの作品は、一見本当の折り紙、つまり紙で作ったもののように見えますが、じつは磁器だというところに驚きがあります。
「持っていただけばおわかりになると思いますが、紙のように薄く出来るんですよ。紙を折って作った型に、粘土と水ガラスと水を練って作った泥しょうと呼ばれる原料を流し込み、焼成して作ります。なので紙のような折りや細部の皺などの表情も出るのです」
──紙に見える磁器を作ることに、どのような意味を見出していらっしゃいますか。
「私はアート作品を作ろうと思ったわけではないのです。そもそも理系な人間なので、美しい、美しくない、と主観で判断するものをどうとらえたらいいか分からないんです。“昨日は好き、今日は嫌い”なんていう感情的評価も得意ではありません。私が大学で勉強してきたのは、ものが生まれてくるまでの過程です。今回も、生産プロセスの提案なのです。型のコストが低減できるうえ、この技法を応用すれば保温性にすぐれた建築資材にもなりうるのではないかとも考えています」
──磁器に注目したのはいつごろからですか。
「プロダクトデザイン専攻ではクルマや家電も対象なのですが、私は当初それより、陶芸のような日本に根付く手工芸、プロダクトではあるが手づくりゆえのゆがみなどが美しいとされるものに興味をもちました。
でも、現状では、後継者が見つからないなど、工芸の世界には衰退傾向が出ています。アーティストが注目して商品になっているものもありますが、それで恒久的に盛り返したという話はほとんど聞きません」
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豊かな社会を作り上げる“DESIGN”作りのために
プロダクトデザイナー 五十嵐 瞳の視点 (3)
手によるゆがみや個体差の魅力
──このままでは、陶磁器がなくなってしまうかもしれない……。
「陶磁器が好きだったので、なんとか別のかたちでもいいから、将来に残す良い方法はないかなと考えていました。本来、規格がきちっと決まっているのが工業製品ですが、工芸に見受けられる手によるゆがみや個体差の魅力を取り込むことで、あたらしいプロダクトが生まれていくのではないでしょうか。これがこの作品のスタートです。そのうえで、“LEXUS DESIGN AWARD”で私のメンター(先導役)を務めてくださった建築家の石上(純也)さんと話をしていくうちに、ビジョンがより明確になっていきました」
──作品を画像で見ているだけではわからない仕上がりが興味ぶかいです。
「私の作品のむずかしさはそこです。アウトプットだけだと、生産サイクルシステムへの提案がベースにあることは、伝わりにくいですね。手に取って頂ければ、ぱっと見では折り紙のようで、でも磁器で出来ているというおもしろさは感じていただけるかと思います。ただ、そこに本質があるのではないのです。薄くて繊細な形状の磁器を作れる紙の型に秘められた可能性。それが、世のなかのためになるプロダクトへとつながっていくところに、私はとても興味をもっているということなのです」
──レクサスの乗用車にも使える技術でしょうか。
「どうなのでしょう(笑)。私は専門の技術者ではないので、磁器がクルマに合っているか、よくわかりません。使えると質感があるのでおもしろいと思いますが、衝突など安全面で難しい部分があるかもしれないですね。ただ、表情としての「磁器」ではなく、性質の観点から、他の素材よりも磁器が優れている部分とマッチングする新しいクルマの要素を見つけられたら面白いかもしれないです。レクサスには、2013年4月にイタリアで開かれたミラノデザインウィーク2013に今回の作品を出展した際に、乗せてもらいました。エンジン音が聞こえてこなくて、この静かさこそいまの高級車かと、とても感心しました」
IGARASHI HItomi|五十嵐 瞳
2013年、多摩美術大学美術学部生産デザイン プロダクトデザイン専攻卒業。
『Hitomi Igarashi Works』
クリエイターのためのワークショップを開講
『LEXUS DESIGN AWARD 2014-DESIGNER’S COLLEGE』参加者募集
本項でとりあげた『LEXUS DESIGN AWARD』の第2回テーマ「CURIOSITY」のオリエンテーションを通して、デザインについて話し合うワークショップイベント「DESIGNER’S COLLEGE」が、東京・青山にあたらしくできたレクサスの情報発信拠点「INTERSECT BY LEXUS」を会場に開催される。ゲストに作家の平野啓一郎氏、講師にアルスエレクトロニカの芸術監督を務めるゲルフリート・ストッカー氏を迎え、フィジカルな体験や参加者同士の対話を通して、デザインが内包するさまざまなテーマを横断的に掘り下げていく。
日時|2013年9月29日(日)
時間|10:00~14:00(受付け開始 9:30)
会場|INTERSECT BY LEXUS 2F
東京都港区南青山4-21-26 RUELLE青山A-WING
登壇者|ゲルフリート・ストッカー(アルスエレクトロニカ アーティスティックディレクター)
平野啓一郎(小説家)
実施内容|LEXUS DESIGN AWARDの紹介
トークセッション
昼食(ディスカッションを含む)
ワークショップなど
定員|25名
応募方法|下記URLよりエントリー
「LEXUS DESIGN AWARD 2014」公式ホームページ