ART|東京フォト代表 原田知大氏に聞く 写真というアート作品がもつ可能性とは
ART|TOKYO PHOTO 2012
東京フォト代表・原田知大氏に聞く
写真というアート作品がもつ可能性とは
東京フォトを立ち上げて5年半。今回で第4回を迎えるこの展覧会は着実に大きな成長をしている。写真というアートをもっと身近に、そして生活に根付かせたい。そんな想いからこのプロジェクトを始動した東京フォト代表・原田知大氏に、立ち上げた経緯、展覧会への取り組みや、アートのある豊かな生活、そしてこれからの展望について聞いた。
Interview & Text by MATSUDA Natsuki(OPENERS)
アートはトータルで楽しむもの
――写真というアートをビジネスにしようとしたきっかけは?
原田 TOKYO PHOTOを発足させたのが2009年。きっかけは毎年11月に開かれている世界最大規模の展覧会のパリ・フォトが、2008年に日本の写真特集をしていたんです。日本からもたくさんのギャラリーが出展したし、以前からですが日本の写真というのは、欧米からはとくに注目されていたんですね。嬉しい半面、世界から注目されているこのコンテンツを、欧米主導で展開していることに疑問を抱きました。
そして前年の2007年、日本のミシュランガイドが出た。ガイドが日本で発表されたとき、かなり話題になったんですね。それを見たときに僕が感じてしまったのが、突然フランスからやってきたひとたちが勝手にきめちゃった、ということ。結果的には非常に良いことでもあるのですが、アジアで欧米の力が非常に強い。それに迎合してしまう日本の姿勢がとても気になりました。
そこで日本の写真、それから日本から発信していく仕組みをつくらなければいけないな、と。
海外で認められるほどのアーティスト、ギャラリー、そして環境があるのに日本には主体性がない。発信できるシステム、写真をプロモートしなければとおもいました。
偶然ですが、ミシュランとパリ・フォト、両者が日本の特集をした時期にぶつかり、第1回の開催までの1年半、経験もなくただ写真が好きという想いと、ビジネスとアートとしての可能性との融合を目指し「TOKYO PHOTO」が生まれました。
――ギャラリー、アーティストを選ぶ基準についてはいかがでしょうか
原田 世界でなにが一番なのか。これは評価しづらいものです。世界のアートフェア――スイスで開催されるバーゼル・アート・フェア、ロンドンのフリーズ・アート・フェア。このふたつが世界的に見てやはり一番勢い、権威があり格式が高く歴史も長い。こういったフェアに出展するというのはとてもハードルが高く、難しいことなんです。3年~5年のアート・ギャラリーとして機能しているという実績がまず必要です。これはお互い認められた存在でないと出展することができないというわけです。つまり、バーゼル・アート・フェア、フリーズ・アート・フェアに出ているギャラリーというのは世界的に評価が定まっているギャラリーなのです。バーゼル・アート・フェアでいうと、日本から出展できるギャラリーは5件ほどなんです。アジア全体でも6、7件しかない。ということはオリンピック並みに出展が難しい。まず我われが主要としているのがバーゼル・アート・フェア、フリーズ・アート・フェアそれからパリ・フォトに出ているギャラリーのなかで面白いものを東京で展開しようと。良いフェアに出ているギャラリーだから良いギャラリーであってそのギャラリーが出ているフェアはとてもいいものだ。これはアートギャラリー同士、それからコレクター、アーティストみんな知ってることなんです。ということは、必然的に出る側もやはり選ぶことになるのです。
例えば今回はじめて日本に来るガゴシアン・ギャラリーが、なぜ世界一なのか。やはり作品が、作家が、お客さんがいい。そして世界的なアート・フェアに出ている。そして彼らは世界11か所でアートギャラリーを運営しているんです。これは容易なことではありません。
3年もつということは、要するにいい作家がいていい作品が売れているという環境がある。それがないかぎり、アート・ギャラリーを運営することは難しい。ボランティアでは出来ないことなのです。市場に支えられるという第3者からの評価や露出があるからこそこれが成り立つ。それが評価につながるのです。それほど難しい世界なのです。
とはいえビジネス的には難しいですよ。当然、日本は欧米に比べると環境も整っていないですし写真がすごく売れません。
ただ、アート作品という心の教養の充実と生活の潤いを与えてくれる、いつまでも価値の薄れない文化を深く浸透させたいとおもいました。いうなれば長い付き合いができる「コレクションする文化」です。
(A-03.jpgを入れる)
人間は知識や教養というのは自分のなかにため、食事は食べてそれが血となり骨となり身体をつくっていく。アート作品は自分がいなくなったあとも存在してくれる。なくなるということ自体がない、というのが基本的にこの世のなかには絶対的に少ないんですよね。悲しいことに気に入っている服や靴も、5年10年経つと人間ってやっぱり自分の体形も変わるし、いくらこまめにメンテナンスをしても擦り減ってしまう。
――「コレクションをする文化」とはどういったことでしょう
コレクションをしていて、まず僕が常におもうのは、自分が死んだ時、あとに残るものなのです。アート作品というのは絶対に捨てないですから。そして、消耗されないのです。つまり壁に飾ってある状態できれいに保存してあれば、買って10年経ってたとしても心のなかでの消費はありますが、擦り減らない。
――作品を手に入れる喜びとは?
原田 以前、ポール・スミスが自身のコレクション展を青山で開催したことがありました。一番最初に購入したものはポスターだったそうです。僕も学生の頃に、1万円くらいのポスターを買ってインテリアとして家に飾るところから始まったので、とても共感を覚えました。月日が経ち、仕事を始め、もう少しいいものを、例えばヴィンテージのポスターなどを購入していくわけです。
最初はポスターから。成長するにつれて周りにアーティストが多くなっていき、成功するにつれてオークションで購入したり……そして少しずつ、50年くらいかけて集めていく。そうしていくものだとおもうんですよ。
「TOKYO PHOTO」では、特別展以外は販売目的なので7、8割は購入できる作品が揃い、展示をしています。その場で購入し、持ち帰れる。基本的に出展しているのは世界の市場で揉まれ、認められてきたギャラリーなのでいい作品が多すぎて困るとおもいます。
――「TOKYO PHOTO」の見どころは?
世界有数のアート・フェアのなかで「TOKYO PHOTO」は、とにかく“かっこいいイベント”でいたい。我われは写真というものに最高のステージを提供し、みなさんに見ていただきたいということです。とくにOPENERS世代の皆さん、クルマや時計、ファッションが好きなひとたちに間違いなく心から楽しんでいただけるイベントです。
ただ、こういうイベントもだれも買わないと海外からアートギャラリーも来なくなってしまいますし繁栄していかないのです。購入するひとがいて、初めて市場が成り立つ。高い買い物ですが、やはり世界で活躍しているフォトグラファーの作品というのは、自分への誇りとなります。なにかを犠牲にして買う必要もないし、かといって我慢する必要もない。欲しいものがあったら買ってみる。メンテナンスにお金もかからないですしね。気に入った作品があれば今回を機に、購入してみて頂きたいですね。
ぜひ会場に足を運んで頂き、写真というアートの可能性と自分の価値観や審美眼で買うというエキサイティングな、おとなの遊びを知ってもらいたい。みなさんにお会いできるのが、とても楽しみです。
原田 知大
TOKYO PHOTO代表
米国イリノイ大学アーバナシャンペーン校卒業。10年間の滞米中にアーサーアンダーセンなどに勤務。帰国後、日本オラクルに勤務したのち、2009年 9月、国内初の写真専門のアートフェアとして「TOKYO PHOTO」を開催。海外のアート・フェアでは日本の現代写真への評価が高まってきており、パリやニューヨークに匹敵する国際的な市場を日本にもあたらしくつくり出す。写真を撮る文化の根付く日本に「コレクションする文化」を浸透させるため活動している。
TOKYO PHOTO 2012
日程|9月28日(金)~10月1日(月)
時間|11:00~19:00(最終入場:閉会30分前)
会場|東京ミッドタウンホール
東京都港区赤坂9-7-1
入場料|一般1500円 学生1300円 前売り1200円
http://www.tokyophoto.org