アウディS8に試乗|Audi
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2015年1月27日

アウディS8に試乗|Audi

Audi S8|アウディ S8

アウディ究極のサルーン

アウディS8に試乗

アウディのトップモデル「Audi A8」を、さらに磨き上げた「Audi S8」。走りの性能が強化され、よりスムーズで快適になった、アウディブランドのフラッグシップセダンである。S6、S6アバント、S7スポーツバックの試乗につづき、今度はこのS8という、Sモデル最高峰をテストした小川フミオ氏。はたして、その評価やいかに?

Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki

「エイト」を買うなら「S」がいい

「Audi S8」は、「Audi A8」をよりスポーティに仕上げたモデル。エンジンは4リッターV8で、インタークーラー付きターボチャージャーを2基付けて、520psの最高出力と、650Nmの最大トルクを発生する。「Audi A8 4.2TFSIクワトロ」は、それぞれ372ps、555Nmだから、比較すると数値だけでも差が大きい。

価格は、「Audi A8 4.2 FSI クワトロ」が1,171万円であるのにたいして、「Audi S8」は1,580万円だ。試乗の結論を先まわりすると、「A8」が購入できるひとなら、価格差を乗りこえて「S8」を買うべきだとおもうほどの完成度だ。

Sモデルの外観上の特徴は、フロントグリル、バンパー、アルミホイール、リアスポイラーといった専用パーツが与えられていること。あとはバッジ以外、目立つものはない。その控えめなところがアウディの美学なのかもしれない。

「S8」の「S」とは、アウディがスポーティなモデルに与えてきた記号だ。メルセデスには「AMG」が、BMWには「M」があるが、そちらに対応するアウディのモデルは「RS」(日本未発売)となり、今回の「S8」のような「Sモデル」は、厳密なライバルが存在しない独自のポジションをマーケットで勝ち得ている。

Audi S8|アウディ S8

アウディ究極のサルーン

アウディS8に試乗 (2)

ひかえめな存在感

ボディ寸法は、2,995mmもの長いホイールベースに、全長5,145mm、全幅1,950mm、全高1,455mmのボディをのせている。「A8 4.2 FSI クワトロ」とほぼ同寸だが、「S8」は全高で10mm低くなっている。これにフルタイム四輪駆動の「クワトロシステム」が組みあわされている。

「S8」ならではのメカニズム的特徴は多い。ひとつは、ターボチャージャーを2基備えた強力なパワープラント。しかしパワーだけではない。8気筒のうち4気筒を休止させる「シリンダー・オン・デマンドシステム」、アイドリング時にエンジンを停止させる「スタートストップシステム」、それに「エネルギー回生システム」も組みあわされている。

「A8」の特長である「ASF(アウディ・スペースフレーム)」と呼ばれる総アルミニウムの軽量ボディも受け継がれ、経済性と操縦性ともに高いレベルを狙っている。

専用チューニングされた「アダプティブ・エアサスペンション」をはじめ、ホールド性と快適性を併せ持つとされるコンフォート・スポーツシートや、逆位相の音波で騒音をうち消す「アクティブ・ノイズキャンセレーション」といった快適技術もSモデル専用だ。21インチの専用アルミホイールが外観上の迫力を生んでいるが、全体の印象はおとなしめ。ひかえめな存在感がアウディSモデル共通の特徴となっている。

 

(編集部註:この原稿執筆後、マイナーチェンジをうけたAudi A8が日本に導入され「Audi A8 4.2 FSI quattro」が「Audi A8 4.0 TSFI quattro」に置き換わると同時に、S8の技術的特徴の一部がA8にももたらされた)

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アウディS8に試乗 (3)

A4ぐらいのサイズにおもえてくる

「S8」に乗ってみると、意外ともいえるほど、スポーティな雰囲気がうち出されているように感じた。そもそも4.2リッターV8エンジンは低回転域から太いトルクを発生するキャラクターだが、「S8」のV8エンジンも4リッターという大排気量による強みを活かして、3ケタの回転数からモリモリとトルクを出す。そしてターボチャージャーがききはじめる2,000回転の上からは、また一段とパワフルに。

ステアリングの感覚も、切りこんでいくときに独特な重さを感じるし、メルセデスと似た感覚をまとっている。Sモデルすべてが同様のフィールではないので、ステアリングフィールという、ブランドの統一的な価値にかかわる部分でちがいが出ているのはなぜだろう、とおもう。

ただし嫌いかといわれると、切り込むときの適度な重みは嫌いではない。中立付近ではブレがないし、安心して操縦できる。路面のインフォメーションの伝わり方は、そう積極的ではないので、これは個人的につまらないとおもう点だ。

アクセルペダルをわずかに踏みこんだだけでクルマの動きは鋭いし、ハンドルに反応して動く速度もはやい。「S8」は5mを超える全長なのに、「A4」ぐらいのサイズにおもえてくる。これはとても大事なポイントで、大きすぎると感じるクルマはステアリングスピードとか加速性が、ドライバーの感覚にあっていないから、乗らないほうがいいというのとおなじ。「S8」はよく出来ていて気持ちがよい。

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アウディS8に試乗 (4)

徹底的にスムーズ

時速25kmを超え、エンジン回転が960から3,500rpmの範囲内で、ギアが3速以上に入っていて、油温が50℃以上、水温が30℃以上といった条件をクリアすると、「シリンダー・オン・デマンドシステム」が作動する。走行中に8気筒のうち4気筒への燃料供給が停止するのだ。それによって燃費をかせぐ。

メーター内、速度計と回転計のあいだに、4気筒走行中のメッセージが表示されるが、気筒休止を知覚するのはむずかしい。それほどスムーズだ。これによって、市街地では5パーセント、高速道路では10パーセントもの燃費改善をみたそうだ。

スムーズさは最高級モデルだけあって、徹底的に追求されているようだ。ひとつは、エンジンマウントに電磁コイルを設けて、とくに4気筒時に出る振動を乗員に伝えないように吸収している凝ったメカニズムが採用されている。

「S8」は足まわりにも特筆すべき点がある。サスペンションシステムにはエアダンパーがもちいられ、スポーツ走行と快適走行の両立がはかられている。実際に乗り心地はとてもよい。硬くなく、ふわふわでもない。しっとりしていて、このクルマを志向するひとの好みとも合致するはずだ。

ワインディングロードも意外なほど楽しい。ハンドリングはクイックで、車体の追随性も高い。ドライバーが楽しむクルマとなっている。

適度にスポーティな「S8」は、このクルマが潜在的に持っている、ドライバーのためのクルマというキャラクターを明確なかたちで具現化したものだ。その意味では、「A8」のラインナップに組み込まれていても不思議でないといえる。

Aモデルが安逸で快適性重視、長い距離を疲労度すくなく走り、かつモデルによっては後席乗員のためのクルマであるのにたいして、「S8」は運転しての楽しさが強調されている。それでも、スポーティに寄りすぎることなく、「A8」の持つさまざまなキャラクターが全方位的に拡張され、結果、より完成度が増しているのだ。

たとえばメルセデス・ベンツ「Sクラス」では、現在ロングホイールベース版にしか「AMG」の設定がない。ロングホイールベース車が必要ないひとにとって、「S8」の存在価値は高い。また、1,580万円の「S8」と価格的な競合関係にあるのは、540psの5.5リッターV8エンジン搭載の「E63AMG」(1,495万円)となる。ラグジュアリーさや、ある種の特別感において、「S8」は上位にある。なかなか得難い存在感をもつモデルだ。

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Audi S8|アウディ S8

ボディサイズ|5,145×1,950×1,455mm

ホイールベース|2,995mm

トレッド 前/後|1,635/1,625mm

エンジン|3,992ccV型8気筒DOHCツインスクロールツインターボ

最高出力|382 kW (520ps) / 5,800-6,400rpm

最大トルク|650 Nm(66.3kgm) / 1,700-5,500 rpm

重量|2,080kg

トランスミッション|8段オートマチック(ティプトロニック)

駆動方式|クワトロ(フルタイム4WD)

トランク容量|510リットル

燃費|9.6km/ℓ(JC08モード)

CO2排出量|242g/km

サスペンション 前|5リンクサスペンション ウィッシュボーン アンチロールバー エアサスペンション

サスペンション 後|トラペゾイダル ウィッシュボーン アンチロールバー エアサスペンション

ブレーキ|ベンチレーテッドディスク

タイヤ|265/35 R21

価格|1,580万円

           
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