日産 リーフ長期リポート 最終回|Nissan
Nissan Leaf|日産 リーフ
最終回
リーフよ走れ
2011年10月からリポートをお届けしている、世界初の市販電気自動車「リーフ」が、ついにマイナーチェンジを果たした。変更内容はどれも、リーフユーザーの要望にこたえるものであり、着実に完成度を高めていこうという日産の姿勢がありありと見える。OPENERSでは、長期リポートの最終回として、ついに“従来型”となったリーフを総括する。明日のモビリティへの期待とともに。
Text & Photographs by OPENERS
未来のクルマだと感じる
6カ月を共にしたリーフを、編集部では、取材時の移動はもとより、実際に購入した場合を想定して、荷物の運搬や買い物などに、幅広く利用した。走行した場所のほとんどは、都市部の一般道もしくは都市高速道路だったが、すでにリポートしたとおり、長距離ドライブの挑戦や女子会というレジャー用途にももちいている。
リーフをクルマとして評価するならば、特筆すべきは低重心による走行安定性の高さだ。電池などの重量物が車体下部におさめられているため、スポーツカーでは苦労している低重心化を実現している。これは逆に、フロア下に重量物を抱えている感じをおぼえさせるが、それがゆえ、ブレーキング時のノーズダイブ(車体前方が沈みこむこと)やピッチング(車体の前後方向への細かいうねり)が抑えられており、乗り心地はフラット。
そして、モーターによる圧倒的なトルク。これもガソリンやディーゼルでは味わえない、独特の感動をもたらしてくれる。ダイレクトなレスポンスと、機械的な接合感が皆無な抵抗のなさは、慣れてしまうと、どんな優秀な内燃機関であっても古臭いとさえ感じさせてしまう。そんな近未来的な乗り物だった。
荷室容量も日常生活には必要じゅうぶん。ときには撮影商品の運搬用にも供してみたが、不満がでる場面は、いっさいなかった。
懸念となる航続距離については、OPENERSのみにとどまらず、あらゆるところで語りつくされた感があるので、いまさらあれこれを語っても仕方がないとおもう。もっとも、気温があがってくると、自然に航続可能距離が伸びてゆき、メーターに表示される走行可能距離は150kmから180kmくらいになった。どちらにせよ、日常、都内のアシとして使うぶんにはまったく問題がない距離だ。
不可解なるECOモード
長く乗っていれば、もちろん細かいネガを感じることもある。たとえば、ブレーキフィーリングの不自然さに不満が残る。とくに、アクセルオフ時のエンジンブレーキ的な抵抗力が、回生の要不要という条件からか、充電状態に応じて変化するのには、最後まで慣れることはなかった。
また、不可解なのは、走行モードに「エコモード」と「通常モード」があり、「エコモード」は、セレクターを二度、ドライブに入れないと選択できないようになっていることだ。
内燃機関であれば通常よりも“省燃費なエコモード”の存在意義は理解できる。しかし、エコロジカルであることを謳うリーフであれば、エコモード一択でも問題はない。というよりも、正しい運用におもえる。このクルマに乗ったうえで、電池残量を気にしながらハンドリングや動力性能を愉しむ、というシーンがどのくらいあるのかというのが疑問なのだ。
Nissan Leaf|日産 リーフ
最終回
リーフよ走れ (2)
ライフスタイルとの乖離をいかに解消するか
普段のバッテリー残量は、頻度をのぞけば内燃機関とおなじように管理すればさほど支障はないが、困ったのは急に出かけるときに電池残量が半分以下になっている場合。こういう際に、リーフが平置きの駐車場に充電設備を設置し、寝ている間にクルマを充電するという利用法が前提で設計されていることをおもい知らされる。
編集部では、駐車場が機械式の立体駐車場だから、充電時にはわざわざ出庫して電池を消費しながら充電設備のあるところまでゆく、という利用を強いられていた。そういう意味では、さきほどの“都内のアシとしては問題ない”というのと反対になるが、集合住宅の多い大都市圏での運用はとかく難しい。とくに都心に住まう高所得者層は、高層マンションに居を構えることも多く、そういう向きには設備面から受け入れられないというのは痛いところだ。
未来のモビリティを実現できるか
リーフは、乗っていると自然と、エコロジーへの関心がわいてくる。事実そうであるかどうかは別として、「自分は低エミッションで移動しているんだ」という意識を強くもてる。それは、移動している瞬間だけではなく、たとえばインフラ整備という点からしても、リーフに乗っていると参加している気になれる。
つまり、リーフなり、この際「i-MiEV」でもいいのだが、EV普及率を増やすことが、そのまま給電設備整備への社会的圧力となる。ユーザーの意向が高くなれば、コンビニやショッピングセンターといった商業施設、または娯楽施設も、単純な経済原理によって積極的に充電設備を導入するだろう。そうなれば航続距離という最大の問題が解決に向けて大きく前進する。
リーフの価格は400万円前後。補助金を活用しても300万円強。おなじ日産なら「ティアナ」や「セレナ」、「エクストレイル」が買える金額だ。常につきまとう航続距離の問題を考えると、シティコミューター的に使う2台めとして購入するひとも多いだろう。
そこにこの金額を払えるということは、環境に配慮できるだけの余裕のある生活をしているということだ。そういうひとびとが購入し、エココンシャスな生活をおくるということは、つまり、お金に余裕のあるひとが、自尊心を満たしながら間接的に社会のインフラの整備をするという形になり、それは、健全なサイクルたる可能性を秘めているとおもえる。
環境への配慮として次世代のクルマを世に送り出すことは、誰もが、やらなくてはならない、とおもっていることだろう。しかしながら、インフラも整わない現状において、利益を追求しなければならない企業がおこなうには、マーケティング調査の結果を見ずともかなり挑戦的なことは確かであり、ショーカーやデモカーとして発表はしても、市販化には二の足を踏んでしまうのも、もっともなことだ。
誰かがやらなきゃいけない。日産という会社はそこに手を挙げた。とにかく、その英断に惜しみなく大きな拍手を送りたい。航続距離をはじめとして、いろいろな矛盾をはらんでいるのは確か。しかし、いま、このクルマをクルマ単体で評価することにはあまり意味がない。将来、さらにエコロジカルなクルマが普通になった日に、「リーフ」がつけた足跡が、大きな意味を持つのではないだろうか。
ボディ|全長 4,445 × 全幅 1,770 × 全高 1,545 mm
ホイールベース|2,700 mm
トレッド(前/後)|1,540 / 1,535 mm
発電機|モーター
最高出力|80kW(109ps)/2,730-9,800 rpm
最大トルク|280Nm(28.6 kgf-m)/0-2,730 rpm
バッテリー種類|リチウムイオン電池
バッテリー総電圧|360 V
バッテリー総電力量|24 kWh
重量|1,520 kg
最小回転半径|5.2 m
タイヤ|205/55 R16
駆動|前輪駆動
電費(交流電力量消費率)|124 Wh/km(JC08モード)
電費(一充電走行距離)|200 km(JC08モード)