メルセデスのフラッグシップオープン「Sクラス カブリオレ」に試乗|Mercedes-Benz
CAR / IMPRESSION
2016年6月10日

メルセデスのフラッグシップオープン「Sクラス カブリオレ」に試乗|Mercedes-Benz

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

さまざまな楽しみに満ちたクルマ

2015年秋、フランクフルト自動車ショーでお披露目となったメルセデス・ベンツ「Sクラス カブリオレ」。1971年の「220SE」以来となる実に45年ぶりとなる、メルセデスのフラッグシップオープンに小川フミオ氏が試乗した。V型8気筒の「S 500 カブリオレ」、V8エンジンにフルタイムAWDの「S 63 4MATIC」を試す。

Text by OGAWA Fumio

45年ぶりの試乗

メルセデス・ベンツが、「Sクラス」のカブリオレの試乗会をニースで開催した。2015年秋のフランクフルト自動車ショーでお披露目して話題を呼んだ、大型サイズの車体をもつ豪華なフルオープンモデルだ。

「2016年はドリームカーの年です」。試乗会場にドイツからやってきた、「Sクラス カブリオレ」の開発責任者、ドクター・ヘルマン=ヨゼフ・シュトルプはそう語った。ドリームカーとはメルセデスの場合、フルオープンモデルを意味しており、現在ラインナップは、先ごろビッグマイナーチェンジを受けた「SL」をはじめ、「Eクラス カブリオレ」、「Cクラス カブリオレ」、「SLK」からマイナーチェンジして名称変更を受けた「SLC」が揃う。

なかでも頂点に位置するSクラス カブリオレ。特徴は、フル4シーターのオープンというところにあり、エア コンディショニング システムなど最新の装備が揃う。Sクラスのカブリオレは伝統的にメルセデスのラインナップに存在してきたが、しかし、1971年に「220SE」が発表されて以来、じつに45年の年月を経て、僕はステアリングホイールを握ったことになる。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

「ドリームカーと呼ぶべきクルマのラインナップを拡大しているのは、エモーションとドライビングプレジャー、2つの面に働きかけるモデルの重要性を感じているからです。カブリオレやロードスターは、そのためにとても重要な役割をになっています。ニースとモナコは、スーパースターとも呼ぶべきクルマも多く、最新のカブリオレをじっくり体験していただくのに最適な舞台だと思います」

前出のドクター・シュトルプの言葉にあるように、Sクラス カブリオレは、余裕あるサイズのボディに、余裕ある排気量のエンジンを特徴としている。全長5,027mm(欧州値)のボディは、2,945mmのホイールベースを持ち、大人が後席にも座っていられる。長いフードに18インチのリム径を持つタイヤが装着されて、とくに幌を開けた状態だと前後の長さが強調されて、いかにも“走りそう”な印象を受ける。もちろんその期待は裏切られない。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

S 550 カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

S 63 4MATIC カブリオレ

今回用意された車種はメルセデス・ベンツ「S 550 カブリオレ」と、メルセデスAMGの「S 63 4MATIC カブリオレ」の2台だ。その上には受注生産になるがV12搭載のメルセデスAMG「S 65 カブリオレ」がある。S 550は4,463ccV型8気筒エンジンを搭載した後輪駆動。最高出力は335kW(455ps)/5,250-5,500rpm、最大トルクは700Nm/1,800-3,500rpmとなる。メルセデスAMGのS 63 4MATICカブリオレはさらに上をいく。5,461ccのV8エンジンにフルタイム4WDシステムが組み合わされ、430kW(585ps)/5,500rpmと900Nm/2,250-3,750rpmという、超ド級な数値が発表されている。

試乗は、高価そうなヨットのマストが林立する優雅な海岸線からはじまり、すぐに山道へと入っていった。じつは楽しい道がたくさんある。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

さまざまな楽しみに満ちたクルマ (2)

クーペよりも快適重視な足回り

メルセデス・ベンツS 550(現地名はS 500)は、Sクラス カブリオレのラインナップにあってベーシックなグレードだ。最高で335kW(455ps)のパワーを持つV8搭載のこのモデルが“ベーシック”とはなんともぜいたくな話である。だからこそ、本当にぜいたくということもできるかもしれない。もちろん乗れば、ベーシックなる言葉はまったく似合わないモデルだと、一瞬といっていいぐらい、すぐ分かる。

メルセデス・ベンツ S 550のよさは、低回転域からの豊かなトルクと、しなやかな乗り心地にある。最大トルクは1,800rpmから発生しはじめる設定ゆえ、ほんの少しアクセルペダルを踏み込んだだけで力強く加速する。一瞬の遅れも感じられず軽快な印象がある。かといって、飛び出すような軽薄さはみじんもない。力強く前へと出ていく。上手なセッティングなのだ。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

走り出してすぐに“いいな!”と思わせられるのは、サスペンションの設定とステアリングのコンビネーションの良さもある。メルセデス車オーナーにはおなじみの独特の重さと操舵感をもったステアリングは、一瞬にぶいかなと思わせるが、じつは中立付近でも反応がよい。わずかに切り込んだだけで、クルマは正確に動く。

といって神経質でもないし、直進安定性が犠牲になっていることもない。このステアリングのおかげで、1,899mmという車幅の大きさを感じることもなく、車線が東京の7割ぐらいの幅しかないニースの混雑した道でもきびきびと走ることができるのだ。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

ボディシェルに関する部品の約60パーセントは2014年に発表された「Sクラス クーペ」と共用といい、実際、ホイールベースは同一だ。しかし後席フロアは新設計のアルミニウム製となることに加え、サスペンションの味付けは専用。

足回りの開発担当者によると、「セダンとクーペと(この)カブリオレという3つのモデルのなかで、最もハード寄りなのがクーペ。安逸なのがセダン。カブリオレはクーペ寄りだが、少し快適方向に振りました」ということだった。サスペンションアームのストロークはたっぷりしている。加えて、標準装備のセミ アクティブ エア サスペンション システム「エアマチック」による自動ダンピングコントロールも、しなやかな乗り心地に貢献している。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

さまざまな楽しみに満ちたクルマ (3)

南仏の強めの陽光を浴びながら

ニースはコトダジュール、日本語でいうところの紺碧海岸で知られるように、あざやかな海の色と、海岸線に沿って作られた白い壁のリゾートで知られている。しかしほんの少し後ろには山並みが迫っている。そこをS 550 カブリオレで走ると、たっぷりしたトルクで、上りだろうが、曲率のきつめのカーブだろうが、速いペースでこなしていける。

はっきりいうと、後輪駆動(ベース)のメルセデスの一般的な実力ぶりから、走りのよさは、ある程度予想していたことだった。でも実際に距離をこなしていくと、このクルマと離れがたく思えるように。操縦者の気持ちにいっさい抗わない、自然な感覚のドライブができるからだ。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

5層にして耐候性と防音性を高めたソフトトップをフルオープンにして、南仏の強めの陽光を浴びながらの走行は、同じSクラスでもメタルルーフのセダンやクーペでは味わえない爽快感に満ちている。前席シートには乗員の首元から暖気もしくは冷気を吹き出す「エアスカーフ」が備わっていて、オープン走行時にかなりの効き目がある。個人的には、どうせオープン走行をするなら、サイドウィンドウも下げてしまい、風の巻き込みも楽しさの一部と考えるのが好きだ。

パッセンジャーがいるさいは、「エアキャップ」を使えば、風はほとんど室内に入ってこない。スイッチ一つで、ウィンドシールド上端のスポイラーが持ち上がると同時に、後席背後のスクリーンが立ち上がるのだ。春や初夏なら暖かさだけ享受することができる。さらにオープン走行時でも快適性を追求するフルオートマチックのエアコンディショニングシステム「サーモトロニック」も搭載されている。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

さまざまな楽しみに満ちたクルマ (4)

ソリッドなS 63 4MATIC

メルセデスAMGのS 63 4マチックは、輪をかけてぜいたくなクルマだった。

メルセデス・ベンツ S 550カブリオレと同じタイミングで、メルセデスAMGのS 63 4マチック カブリオレが登場した。スペシャルなモデルはある程度時間を空けて紹介するというメーカー(ポルシェが好個の例)も少なくないが、メルセデスは同時というケースが多い。限られた時間で行われる作業の密度には感心せざるをえない。それほど出来のよい内容なのだ。

S 550との違いは大きい。S 550の335kW(455ps)、700Nmに対して、S63 4MATICカブリオレは430kW(585ps)、900Nm。しかもフルタイム4WD(左ハンドルのみ)を組み合わせている。通常は後輪に67パーセントのトルクが配分される設定になっている。高出力モデルは前後の駆動力を使って、というのがメルセデスの常識になりつつある。

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

印象をひとことで書くと、ソリッドという感じだ。剛性感の高いシャシーと、やや固められたサスペンションシステム、それに反応の早いステアリングを持つ。2トンを少し超える車体は数値からすると軽くはないが、正確なハンドリングと、コントロールしやすいフットワークで、ふた回りぐらい小さなクルマの感覚でドライブを楽しむことができる。

現地仕様で全長5,027mm、全幅1,899mmのボディにもかかわらず、まるでスポーツシューズのような感覚で操縦できるのだ。軽量素材を使いつつ車体のねじれ剛性は高く、どんな道でもみしりともいわないし、オープンでもクローズでも、ハンドリングに影響を感じることはなかった。

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

「ダイナミックセレクト」では「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+(プラス)」それに「インディビデュアル」(個別)が設定されている。ドイツからニースの試乗会にやって来たメルセデスの開発担当者のお勧めは「スポーツ+」。走行中にダイヤルで「コンフォート」から「スポーツ」「スポーツ+」とモードを切り替えていくと、明確にキャラクターが変わっていくのがわかる。とりわけアクセルペダルへの反応が鋭くなり、かつエンジンの回転域も上のほうを使うせいで4人乗りのスポーツカーみたいな感覚なのだ。

Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

さまざまな楽しみに満ちたクルマ (5)

オープンらしく楽しさを前面に出したSクラス

単にエンジンのパワー感が上がるだけでなく、ステアリングの速度は速くなり、かつ車体のロールも抑えられる。9時15分の角度で握ったステアリングホールをわずかに動かすだけの感覚でカーブを曲がっていく。S 550のところで触れた「エアマチック」サスペンションによるダンピングコントロールの恩恵も大きいはずだ。

Sクラスは言うまでもなく後席も重視した大型セダンだが、その派生車種であるカブリオレは、流麗なスタイルだけでなく、ドライブでも、楽しさが前面に出ている。メルセデスAMGはたんに価格が高いモデルではない(S 550が2,145万円であるのに対してメルセデスAMGのS 63 4マチックは2,750万円)。スポーツモデルとして楽しまないと本当にもったいない。

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ

ダッシュボードの造型は、セダンやクーペに準じており、小さな曲率で湾曲させた立体的な造型を可能にした精度に感心させられる。見た目の華美さより作りのクオリティを追求するメルセデスのコンセプトの究極だ。内装色はホワイト系、ベージュ系、ブラウン系、レッド系と、ブラックに加えて数多くのバリエーションが用意されている。

シートも、立体的な造型に加えて表皮の仕上げも、パーフォレーテッドレザー(小さな孔が無数に開いている仕様)があったりで、通気性やからだへのフィット感がよいうえに、見た目の豪華さの演出にもなっている。ソフトトップもレッドやブルーなど色を選べるうえに、上げているときのスタイルがクーペのようでスタイリッシュだ。しかしオープンで走ると、周囲に与えるぜいたくな印象は絶大だ。ニースに来る人たちはオープンを選び、その効果を楽しんでいる。要はさまざまな楽しみに満ちたクルマなのだ。

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Mercedes-Benz S Class Cabriolet|メルセデス・ベンツ Sクラス カブリオレ
ボディサイズ|全長 5,027× 全幅 1,899 × 全高 1,417 mm
ホイールベース|2,945 mm
エンジン|4,663 cc V型8気筒 直噴DOHC ツインターボ
圧縮比|10.5
最高出力|333 kW(455 ps)/5,250-5,500 rpm
最大トルク|700 Nm(71.3 kgm)/1,800-3,500 rpm
トランスミッション|9段AT(9G-TRONIC)
駆動方式|FR
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ベンチレーテッドディスク
トランク容量|250-350 ℓ
タイヤ 前/後|245/40R20 / 275/35R20
ハンドル位置|右/左
価格|2,145万円

Mercedes AMG S 63 4MATIC Cabriolet|メルセデスAMG S 63 4マティック カブリオレ
ボディサイズ|全長 5,044× 全幅 1,913 × 全高 1,428 mm
ホイールベース|2,945 mm
エンジン|5,461 cc V型8気筒 直噴DOHC ツインターボ
圧縮比|10.0
最高出力|430 kW(585 ps)/5,500 rpm
最大トルク|900 Nm(91.8 kgm)/2,25-3,750rpm
トランスミッション|7段AT(AMG Speedshift MCT)
駆動方式|4WD
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ベンチレーテッドディスク
トランク容量|250-350 ℓ
タイヤ 前/後|255/40R20 / 285/35R20
ハンドル位置|左
価格|2,750万円

問い合わせ先

メルセデスコール

0120-190-610(9:30-12:00、13:00-17:30、年中無休)

           
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