ボルボV60 T4 R-DESIGNに試乗|Volvo
Volvo V60 T4 R-DESIGN|ボルボ V60 T4 R-デザイン
北欧 スポーツ クール
ボルボ V60 T4 R-DESIGNに試乗
2012年春、「S60」をベースにスポーティに味付けされた限定モデル「S60 T4 R-DESIGN」が日本に上陸。これにつづいて、ワゴンボディの「V60 T4 R-DESIGN」も販売開始となった。これまでのブランドイメージに、スポーティでクールなキャラクターをくわえ、人気上昇中のこの「V60 T4 R-DESIGN」に青木禎之氏が試乗!
Text by AOKI Yoshiyuki
Photographs by ARAKAWA Masayuki
ジェット戦闘機!?
自動車メディアの仕事をしていて「よかったなァ」とおもうことのひとつが、実際にクルマを開発している人たちと接する機会があることだ。初代ボルボ「S60」が日本に上陸して九州でプレス試乗会が開かれたときのことだから、もう10年以上前のことになる(……ちょっと調べてみたら、ウワッ! もう11年も経つのか!!)。当時ボルボのデザインを統括していたピーター・ホルバリー副社長も来日して、プレス関係者を前にちょっとしたデザインの講義をしてくれた。
「かつてスポーティなクルマとは、こういうカタチをしていました……」と言いながらホワイトボードに描いたのは、典型的なロングノーズ・ショートデッキのシルエット。いうまでもなく長いエンジンが入ったフロント部とキュッと締まったキャビンを持つFRスポーツで、われわれ日本人なら無条件に“S30”フェアレディZを思い浮かべるカタチだ(カッコいいもんな、S30)。
「つづいて、レースフィールドではミドシップカーが登場して……」ここでは天地に潰した平たい凸の字の輪郭線があらわれる。フェラーリ「250LM」だろうか(これを「スポーティ!」と断定するには、じゃっかんモータースーポーツの知識が必要かも)。
「そして今の“スポーティ”はコレです」と描いたのが、キャビンフォワードなスタイル。乗員のスペースがギリギリまで前に出たFF車のスタイルだ。それはスポーツというより空間効率を優先した結果では……と考えるコチラの意図を見透かしたかのように、ボルボのデザイン担当副社長は手を動かしつづける。短い鳥のクチバシのような線が描かれ、その根本上部には半分に切った卵型。立派な体格のデザイナーが、いたずらっぽく笑いながら振り返ると……、ジェット戦闘機だ!
S60から本格的に始まった「スポーティ」を旗印にしたボルボのデザイン革命は、あれよあれよという間にラインナップ全体に広がり、熱心なボルボフリークの心配をよそに、いまではユーザーのあいだでもあたらしいイメージがすっかり定着したようだ。朴訥で気のいいクルマをつくるメーカーから、スタイリッシュなスカンジナビアンデザインを前面に押し出した、温かいけれどクールなブランドへ。
2010年のジュネーブショーで、ボルボS60の2代目がデビュー。2年後の春には、スポーティに装った100台の特別限定車「S60 T4 R-DESIGN」がアッという間に売り切れたとか。10年一昔。つづいて、日本におけるボルボ車販売台数の1ヶ月分にあたる、1000台もの「T4 R-DESIGN」が販売されることになった。300台のセダン(S60 T4 R-DESIGN)にくわえ、今度は700台のワゴンボディ(V60 T4 R-DESIGN)が用意された。
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ボルボ V60 T4 R-DESIGNに試乗(2)
北欧にプラス
ボルボS60/V60 T4 R-DESIGNは、その名の通り、ボルボS60/V60の“R仕様”である。日本で販売されるボルボS60/V60は、機関で分けると、おとなしめの「DRIVe」(1.6リッター直4ターボ+デュアルクラッチ式6段AT)と、ハイパワーな四駆駆動モデル「T6 AWD SE」(3リッター直6ターボ+トルコン式6段AT)の2種類に大別される。
後者のT6 AWD SEをスポーティに装ったグレードが「T6 AWD R-DESIGN」、前者のそれがS60/V60 T4 R-DESIGNというわけだ。
S60/V60 T4 R-DESIGNの、1595cc直4ターボのアウトプット(最高出力132kW(180ps)/5,700rpm、最大トルク240Nm(24.5kgm)/1,600-5,000rpm)は、ノーマルDRIVeと変わらないが、ステアリングギアをクイックにし、スポーティに硬めた足まわりが与えられる。外観は、スペシャルなフロントバンパー、グリル、テールパイプ(デュアルタイプ)で飾られ、アルミホイールもやはり専用デザインとなる。履かせるタイヤは2インチアップ(!)の235/40R18だ。
インテリアもグッとスポーティに。シートはオフブラックの本革スポーツシートが奢られ、ダッシュボードのアルミパネル、青く発光するメーター類、そして本革のステアリングホイールが「R」を主張する。スカンジナビアンにクールな室内である。
価格は、トランクエンドにリップスポイラーを備えたS60が448万円、リアウィンドウ5面にダークティンテッドグラスを使ったV60が468万円。ただし両者ともカタログモデルではなく、S60が300台、V60が700台の限定販売だ。ボディカラーは、「黒」「赤」「白」「銀」が用意される。
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ボルボ V60 T4 R-DESIGNに試乗(3)
スポーツシートに座って走りはじめる
ちょっと前までは、日本でのボルボといえば850ワゴンでありその後継車種V70だったが、現行モデルは狭い島国で使うには少々育ちすぎた感もあり、販売は伸び悩んでいる。いっぽうであらたなハンサムシリーズ「60」が、当初のセダンボディに、ワゴン、そしてSUVがくわわり、なんとボルボ車販売の半分を占めるまでに成長した。セールス好調となれば、バリエーションの拡大を図るのは理の当然で、「お求めやすいR-DESIGN」として、1.6リッターターボ搭載のT4 R-DESIGNが企画された。
S60 T4 R-DESIGNにかんして言えば、先の限定バージョンより30万円ほど価格がアップしたが、オプション仕様のスポーツシートが標準となり、キーレスエントリー、ボディ同色ドアハンドル、さらにトランクのリップスポイラーが追加された。エレクトリックシルバーメタリックも新色だ。
ドアを開けてボルボのなかへ。サイドサポートは勇ましいが、座り心地は柔らかいスポーツシートに座って走りはじめる。ステアリングホイールのロック・トゥ・ロックは2回転半と少し。ステアリングギアがクイックになっているからといって、もちろん小回りが利くわけではなく、むしろタイヤが2インチアップの弊害で、回転半径は5.5から5.8mに大きくなっている。ボルボのFR時代を知る“ちょっと古い”ボルボファンには、ちょっぴり残念なところだ。
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ボルボ V60 T4 R-DESIGNに試乗(4)
矢のように直進
若々しい青いメーターにチラと目をくれて加速すると、これはノーマルDRIVe試乗の際にも感じたことだが、なかなか力強い。出足がいい。1,600rpmという低回転から最大トルクを発生する1.6リッターターボだが、まわしてやるとそれなりに快音を発して吹け上がる。デュアルクラッチによるギアの受け渡しもスムーズで、T4 R-DESIGNはスポーティな装いに負けない“ファン”がある。
サスペンションはブッシュの強化にとどまらず、スプリング、ダンパー、スタイビライザーが強化される。通常のDRIVeと比較すると2段階スポーティな(「ツーリング」→「ダイナミック」→)専用セッティングが施される。プレス試乗会の日はあいにくの雨。いきなりフルスロットルをくれてやると、ときに前輪が暴れることもあって、なかなかハードな足まわりだ。
ただT4 R-DESIGNは、たとえば峠で狙ったラインを鋭利なナイフのようにトレースする、というよりは、ロングツーリングで「高速道路を矢のように直進する」使い方のほうが向いているとおもった。ドライバーをむやみにせかさないのは伝統的なボルボの美点で、最新モデルもその例に漏れない。
安全装備もますます充実しT4 R-DESIGNにも、スリップを検知するとエンジン出力を絞る「エンジン・ドラッグ・コントロール」、コーナリング時に内輪のトルクを(結果的に)外輪に移す「コーナー・トラクション・コントロール」、ロールレートをパラメーターに組み込んだ「アドバンスト・スタビリティ・コントロール」と、さまざまな電子安全デバイスが装備される。
また、前方車両をレーザーで監視して車間距離を調整し、ときにブレーキまで踏む「CITY SAFETY」は標準装備。レーザーにプラスしてデジタルカメラで前方を監視して、クルマのみならず、人をも検出して衝突を未然に防ぐ「HUMAN SAFTY」もオプション設定される。これは10万円というリーズナブルな価格設定だから、付けない手はないだろう。
ドイツ御三家と比較して、相対的に廉価で安全装備も充実したT4 R-DESIGN。限定1000台が払底する前に、一度販売店で試してみても損はない。
ボルボV60 T4 R-DESIGN
ボディサイズ|全長4,630×全幅1,865×全高1,480mm
ホイールベース|2,775mm
車両重量|1,560kg
最低地上高|135mm
トレッド 前/後|1,580/1,575mm
タイヤ|235/40R 18
エンジン|1,595cc直列4気筒DOHCターボ
最高出力|132kW(180ps)/5,700rpm
最大トルク|240Nm(24.5kgm)/1,600-5,000rpm
トランスミッション|電子制御6段ATギアトロニック
燃費(JC08モード)|12.8km/ℓ
車両本体価格|468万円