アウディ A6アバントに試乗|Audi A6 Avant
Audi A6 Avant|アウディA6アバント
2.8FSIクワトロおよび3.0TFSIクワトロに試乗
軽くてスポーティを謳う、アウディA6アバントに試乗した。プレミアムアッパークラスに属するステーションワゴンで、印象は実際に軽やかで、運転が楽しめるクルマだった。
Text by OGAWA Fumio
Photographs by ARAKAWA Masayuki
「美しくなければアバントと呼ばない」
「アウディ A6 アバント」は、2012年2月に日本市場に導入されたモデル。先行発売されている「A6」をベースに、荷室容量を拡大してテールゲートを設けているのが特徴だ。アバントの名称は、アウディにとって伝統的なもので、1976年の「100」から市場に登場している。
ステーションワゴンといわずあえて「アバント」と独自のネーミングにこだわる理由はなにか。
「美しくなければアバントと呼ばない」とアウディ自身のコメントがあるように、あえてテールゲートの傾斜を強くすることで、荷室容量は多少犠牲にしてもスタイリッシュなデザインを採った点で、競合他社の製品とは一線を画す。そもそもアウディという社名にはじまり、クワトロやアバント、どれもラテン語由来のネーミングを採用しているところに、南ドイツに本拠地を持つアウディのしゃれっ気が感じられる。
日本に導入されるのは、2.8FSIクワトロ(640万円)と、3.0TFSIクワトロ(865万円)の2本立て。共通する特徴は、「クワトロ」というフルタイム4輪駆動システム、アルミニウムと超高張力鋼板を組み合わせて軽量化をはかった「ウルトラ」なるボディ構造、それにダウンサイジングといって、従来型より排気量を抑えながらトルクは同等以上というエンジンだ。
Audi A6 Avant|アウディA6アバント
2.8FSIクワトロおよび3.0TFSIクワトロに試乗(2)
走りやすい―2.8リッターモデル
プレス向けの試乗会では、2つのモデルを順番に乗ることができた。まず乗ったのは、2.8リッターFSIモデル。最高出力150kW (204ps)の自然吸気・燃料直噴式V6エンジンを搭載。フルタイム4WDシステムであるクワトロと、Sトロニックと呼ばれるデュアルクラッチシステムに7枚のギアのトランスミッションが組み合わされる。まずはこのクルマの印象を。
2.8FSIクワトロ(640万円)は、ひとことでいうと、よくできている。気に入った点を列記すると、以下のようになる。
- 走りやすい
- 快適
- 扱いやすい
順番に詳しく説明しよう。まず、走りやすさであるが、これはエンジンの特性によるもので、280Nmの最大トルクを3,000rpmから5,000rpmで出す設定という数値から想像するより、低回転域で力強い。2,000rpm以下でもトルクをたっぷり出してくれるので、アクセルペダルの踏み込み量に対する反応がすばやく、気持ちがよい。過給がないエンジンだが、ふだんはこれで充分だろう。
全長4,940mmのボディサイズから想像するより出足もよく機敏。ドアが軽いのも特徴だ。おそらくアウディは「ウルトラ」と名付けた軽量化ボディを印象づけたいのではないか。ドアは、しかし、つくりのよさを感じさせるように開閉できる。この品質感は特筆に値する。
いっぽう、気になる点は、室内への透過音がやや大きいことだ。テールゲートという大きな開口部を持ったクルマの宿命かもしれない。セダンと比べて、ということなのだが、静粛性を強く求めるユーザーはセダンのほうが向いている。それとハンドルの味付けも、ダイレクト感に欠ける。パワーアシスト量が多く軽い。しかし、いっぽうでタイヤの反応は、中立付近で敏感でなく、多少ちぐはぐさがある。一般的にはこの味つけのほうが、気疲れがなくていいかもしれないが。
Audi A6 Avant|アウディA6アバント
2.8FSIクワトロおよび3.0TFSIクワトロに試乗(3)
快適、扱いやすい―2.8リッターモデル
2.8FSIクワトロは乗り心地にすぐれる。軽いといっても、1.8トンはあるボディの影響もあるのだろう。しっとりしていて、軽薄な感じがないのはよい。路面段差を越えるときの、いわゆるいなし方も自然で、乗員に突き上げはほとんどない。
室内は機能的で、かつハンドルやシフトレバーやコントロール類の質感が高い。ウッドとレザーとクロームの組み合わせは、視覚的に高級な感じがするだけでなく、実際の感触にもすぐれる。節度ある操作感を持ち、高級感を無意識のうちに乗員に体感させるものだ。
シートのつくりもよく、欧米人ほど体重が重くなく、かつからだに厚みのない日本人でも、おさまりよく、快適な気分でからだをあずけていられる。いわゆる「アウディ クオリティ」という概念にもとづいた作り込みが透徹している。 BMWのような大胆な造型美はないが、論理的に構成されたデザインで、これもひとつの魅力だ。
扱いやすさは、2.8FSIクワトロにかぎったことではない、A6アバントの特長だ。数値だけをみると、5mになんなんとする全長と、1.8mを超える全幅は、けっして小さなクルマではない。しかしそのぶん室内には広々感があり、クルマに余裕を求めるひとには、適度なサイズではないかとおもう。ハンドルの切れ角も比較的大きく、サイズをもてあますことはあまりないだろう。
Audi A6 Avant|アウディA6アバント
2.8FSIクワトロおよび3.0TFSIクワトロに試乗(4)
スポーティな操縦性―3.0リッターモデル
よりパワフルな3.0TFSIクワトロ(865万円)は、スーパーチャージャーを装着した3リッターV6を搭載。228kW(310ps)の最高出力を持ち、440Nmものトルクを2,900rpmから発生する。
2.8FSIクワトロとの差別化は、たんに数値だけでなく、味つけがよりスポーティなところにある。
ハンドルのパワーアシストが重めの設定であり、足回りもより硬められている。積極的に運転を楽しむひとには、こちらを、というキャラクターだ。エンジンを回していくと2,000rpmの手前から、車体をぐいぐいと加速させていくトルクの大きさを感じはじめ、それが途切れることなくつづいていくのは、ある種の快感だ。
フォルクスワーゲンのように1.4リッターに過給、というほど、エンジン排気量を抑えていないが、それでも、ダウンサイジングコンセプトにより、3リッター未満の排気量で、充分なパワーを実現しているのに感心する。「排気量は車体との関係も重要で、小さすぎても、エンジンによけいな負担がかかってしまうし、燃費に影響が出ます」と、かつてアウディ本社のエンジニアが、より小さな排気量を採用する考えはないのか、という質問に対して語ってくれたことを思い出す。適度な量のトルクがあれば、多少排気量が多いエンジンのほうが、低い回転域を使えて燃費にも影響が出にくいということだ。
車体の大きなクルマは低回転域のトルクが太くても、静止から動き出すとき、一瞬の間があるものだが、A6アバントはそれを感じさせないのが印象的だった。アルミニウムと超および超々高張力鋼板を組み合わせた軽量化シャシー、「ウルトラ」の恩恵だろうか。大ぶりなサイズだが軽快感とともに操縦できる。運転が好きなひとならここに快感を覚えるはずだ。エンジニアリングがきちんと目的を果たしている。ここが「技術による先進」を掲げるアウディの面目躍如たるところだろう。
アバントは荷物を積むためのクルマでなく、ふさわしい荷物を持っているひとのためのクルマ、とアウディでは定義を語ってくれたことがある。つまり、うらやましい生活を送るひとのためのクルマなのだ。