ジャーマンプレミアム3ブランド 中核モデルの実力を探る!
Mercedes-Benz E Class|メルセデス・ベンツ Eクラス
BMW 5 Series|ビー・エム・ダブリュー 5シリーズ
Audi A6|アウディ A6
ジャーマンプレミアム3ブランド 中核モデルの実力を探る!
アッパーミドルクラス、いわゆるEセグメントに属するモデルは、各メーカーの稼ぎ頭であり、テクノロジーとノウハウを総動員して開発される。それゆえ、ブランドの製品思想や先端技術がもっとも色濃く反映されているとも言える。メルセデス・ベンツ Eクラス、BMW 5シリーズ、そしてアウディ A6──ジャーマンプレミアム3ブランドが誇る各モデルの真価を確かめるべく、自動車ジャーナリスト 島下泰久が比較試乗した。
Text by SHIMASHITA Yasuhiro
Photo by ARAKAWA Masayuki
実用性+αの魅力が重要
となれば、実用性が求められるのは当然として、やはり華やいだ雰囲気だって望みたくなる。自分の満足としても、あるいは体面的な意味でも。所有するよろこびだって期待したい。クルマとしての良さ、機械としての良さ、あるいはブランド体験の独創性。それらは当然求められるところだろう。
もちろん走りの楽しさは欠かすことのできないポイントである。いずれもリアシートに座るようなクルマではなく、オーナーみずからステアリングを握ることになるはず。その時間がかけがえのないものになる。そんなクルマであってほしいと願うのは当然だろう。
ここでは、そんな観点にてジャーマンプレミアムサルーン3台を比較してみることにしたい。用意したのはメルセデス・ベンツE250ブルーエフィシェンシー、BMW535i Mスポーツ、アウディA6 2.8FSIクワトロという面々。5シリーズだけが上級モデルとなってしまったが、ほかの2台はいわゆるエントリーグレードとなる。そんなわけなので、あまりグレードに特化し過ぎることなく比較を進めていきたいと思う。
Mercedes-Benz E Class|メルセデス・ベンツ Eクラス
BMW 5 Series|ビー・エム・ダブリュー 5シリーズ
Audi A6|アウディ A6
ジャーマンプレミアム3ブランド 中核モデルの実力を探る!(2)
デザイン&パッケージング篇
メルセデス・ベンツ Eクラス
──実直だがもう少し艶めきがほしい
では実用性やパッケージングの面から見ていこう。まずは、いつの時代にも、このセグメントのベンチマークとなってきたEクラスからだ。
時間の経過とともに目になじんできたとは言え、現行Eクラスのスタイリングは多少の色気を感じさせた先代から一転して、事務的とすら映るほどのコンサバティブな仕上がりとなっている。もちろんCLSが存在するからこそ、ここまで割り切れたにちがいないが、それにしてもフォルムは典型的なスリーボックスで、おもしろみは少ない。ただし、これはあえて狙っている部分もあるだろう。
インテリアも同様だ。直線基調のインストゥルメントパネルは、それこそ3代前のW124のころに帰ったかのよう。長年乗り継いできたユーザーがすぐになじめるようにとの配慮もあるようだが、さすがにもう少し艶めきがあってもいい気はする。
テレマティクスシステムとして用意されるCOMANDシステムも、あらゆるメニューや階層へとアクセスしやすいのはいいが、その分、操作に統一性がないのが残念。結局のところ画面を見ながらでないと操作は不可能と言える。
空間設計も実直そのものだ。前席だけでなく後席にも十分なスペースがあり、頭部周辺も足もともどこにも干渉することはない。純粋な室内寸法で言えば、ボディサイズ、ホイールベースともにほかの2台より小さい分だけ不利なのだが、絞り込みの少ないボクシーなルーフラインや、前席の背面部分を大きく抉るなどの工夫が活きていて、狭苦しく感じさせないのだ。
荷室の容量は540ℓ。容量は断トツに大きいが、これは後席とトレードオフした部分もあるかもしれない。荷室側からワンタッチで後席バックレストを倒せるレバーが備わっているのは実用的で有り難い。
BMW 5シリーズ
──走る時間を大切にするBMWならではのiDrive
そんなEクラスと比較すると、俄然セクシーに見えるのが5シリーズのエクステリアだ。前衛的だった先代よりもディテールはおとなしくなったものの、逆にフォルムは水平基調だった先代より躍動感を増していて、とりわけ走り去る姿が何とも美しいのである。
いかにもエモーショナルな印象を醸しているのは、インテリアも然りだ。BMWの伝統であるドライバーを取り囲むコクピットデザイン、大胆に使われたウッド、洗練されたスイッチ類の配置など、いかにもスペシャルな雰囲気に仕立てられていて、乗り込んだところから気分がアガッてくる。
今や周囲にサテライトスイッチを備えるiDriveだが、
画面を見ることなしに操作できるという本来の考え方は現在も踏襲されていて、慣れればかなりのところまで手先の感覚だけで使いこなすことができる。どのクルマでも、画面を注視しながら操作しているひとにとっては、逆にとっつきにくいようだが、走る時間を大切にするBMWだけに、ドライバーの負担を軽減すべくもとよりブラインド操作を前提に設計されているのだ。
テンションの高まるデザイン以上にオッと思わせるのが、シートの大きさである。とくに後席は、最初にドアを開けたときには随分狭く見える。しかし実際のところは、たっぷりとしたサイズの座面のせいで、室内が窮屈に見えているだけなのだ。実際に身体をあずけてみても、身体の包まれ感は段ちがいに良い。スペース自体も余裕があって、じつにリラックスして過ごすことができる。
荷室容量は520ℓと、数値的には3車のなかではわずかに少ない。しかも、左右の隔壁が張り出していて床のフラットな部分も少なく、あまり使いやすくないのは減点材料である。
アウディ A6
──極めてモダンな仕上がりのインテリア
2011年にデビューしたばかりのA6だが、基本的なフォルムは3世代踏襲されていて、ディテールこそ随分派手になったものの、エクステリアデザインの新鮮味はそれほどでもないというのが正直なところ。とは言え、今はまだ強力なブランド性の傘の下でプレゼンスを高めていく時期のアウディだけに、敢えて大きく変えていないという部分もあるのだろう。
インテリアは、きわめてモダンな仕上がりだ。大胆な曲線や曲面で構成される一方で、アウディに期待される精緻な印象を崩すことなくキープしているのは大したもの。ポップアップ式のMMI画面の動作なども、それだけで惚れ惚れするほどで、このインテリアでA6を選ぶひとがいても不思議ではない。
ただし、そのMMIは相変わらずシフトレバー後方に置かれたスイッチを凝視しながらでないと使いにくく、運転中には触れられない。それならべつに、こんなふうにスイッチを集積しなくてもいいのにというのが率直な感想だ。
指で文字をなぞることで入力ができるという、意欲的なアイデアのタッチパッドも、残念ながら実用性は低い。使おうとすると操作方法が簡潔ではなく、使いたくないときには手が触れてしまってラジオが鳴り出すといった具合。そもそも右ハンドルの場合、左手で文字を書かせるのにも無理がある。やはりこれも設置位置に問題アリと言える。
室内の広さには文句はない。クーペのようなアーチ状のルーフラインからは、後席のヘッドスペースなどに不満が出そうに思えるが、実際に乗り込んでみると、乗員を低く座らせるパッケージングによって頭上にも十分なスペースを確保。ホイールベースを長くとることで、足もとも余裕を感じられる。
ただし、とくに後席はシートが小さく感じられた。広く見えるのは、そのおかげでもあり、長い時間を過ごすにはどうかという部分では、少々疑問符がつくところではある。
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ジャーマンプレミアム3ブランド 中核モデルの実力を探る!(3)
走り篇
メルセデス・ベンツ Eクラス
──生活を供にする道具としてこの上ない存在
このセグメントのセダンの走りに求められる要素は数多い。快適性、安定性、そして操るよろこび。それらの要素をどのようにバランスさせるかが、すなわちブランドの色ということになる。
E250ブルーエフィシェンシーの走りは、やはりどこまでも実直な手応えに終始する。低中速域のトルクがしっかりと確保されたエンジンと、ようやく組み合わされた7G-TRONICのマッチングは上々で、つねに欲しいとき、欲しいだけの力が過不足なくもたらされる。かつてのメルセデスのように意図的に鈍いのとはちがう、正確なレスポンスは疲れにくく、そして良い機械を操っているという満足感をも生み出す。
乗り心地のしなやかさも文句のつけようがない。試乗車は18インチタイヤを履いていたが、それでも当たりはやわらかで、大きなうねりや段差を超えようと、入力をすんなり受け止める懐深さがある。この安心感に一度浸ってしまうと、ほかのクルマにはもどれないかもしれない。そんなことを思わされるのだ。
ドライバーを鼓舞するような要素は薄く、最初は素っ気ないとすら感じられるのだが、しばらく走るうちに良いクルマ、良い機械を操っているという満足感が涌き上がってきて、それが厚い信頼感へと繋がっていく。ボディはいかにもガッチリとしていて、守られているという感覚が心地良い。メルセデスの伝統で、驚くほど小回りが効くなど、使い勝手も抜群。新設定のレーダーセーフティパッケージもくわわって、持ち前の安全への配慮もさらに行き届いている。
率直に言ってときめきは少ない。しかし生活を供にする道具としては、やはりこの上ない存在なのがEクラスである。
BMW 5シリーズ
──引き締まったアスリートのような走りっぷり
視界に入るボンネットの大きさや、4輪アクティブステアの切りはじめのわずかにダルな応答性によって、街中での535iは、実際より大きなクルマに感じられるときがある。それが速度が乗ってくるにしたがってクルマがギュッと引き締まるかのような凝縮感が出てくるのがおもしろいところ。やはりBMW、走ってナンボのブランドなのだ。
直列6気筒3リッター直噴ターボエンジンは、力があるのはもちろん、緻密なフィーリングや心地良いサウンドなど情緒の面でも大いにソソる仕上がり。523i、528iが直列4気筒ターボになった今、ますます“このエンジンのためだけにお金を払ってもいい”という気にさせられてしまう。
スムーズに変速を繰り返してトルクの旨味を引き出す8段ATもマッチングは絶妙。新搭載の燃費コンシャスなECO-PROモードでも、地力があるため走りにはまだ余裕がある。やはりあらたに追加されたアイドリングストップシステムの動作もなめらか。精緻、上質、艶やか……と、いくらでもホメる言葉が浮かんできてしまう垂涎のパワートレインである。
Eクラスがガッチリならば、5シリーズはカッチリ。乗り味の印象を端的に表現すれば、そんな感じだ。金庫のようにひたすら堅牢というよりは、要所を押さえて頑強な骨格をつくり、あとは筋肉のような強靭なバネ感で支えているという雰囲気。それが、どこか繊細な、いかにもBMWらしい味わいに繋がっている。
Eクラスがすんなりいなす大きな入力に対して、キツめのハーシュネスを返すこともあるが、それをのぞけば乗り心地もBMWのイメージが一変するぐらい丸みがある仕立てだ。しっかりしているのに軽快で、かつしなやか。まるでよくトレーニングされ引き締まったアスリートのようだとでも表現したい走りっぷりである。
アウディ A6
──ライバルとは一線を画する走りの個性を獲得
TFSIによって過給によるダウンサイジングの先鞭をつけたブランドでありながら、エントリーグレードに2.8ℓという大きな排気量の自然吸気エンジンを積むA6。戦略はチグハグな感じがするが、その走り自体、過給ユニットにない自然なレスポンスと、十分なトルクのおかげで好印象なのは事実である。カタログ上、28.6kgmの最大トルクを発生するのは3000~5000rpmという回転域なのだが、走りの感触としては1000rpm前後からでも十分な力を引き出すことができるし、それでいてトップエンドでは心地良い伸びも堪能できる。7段S-トロニックの歯切れ良い変速感もスポーティ。結果的にE250CGIブルーエフィシェンシーや、523i/528iとは一線を画する走りの個性を獲得している。
一方のシャシーは、先代ではスタビリティも乗り心地もライバルに見劣りしたことは否めなかった。しかし年々熟成されてきたことも事実で、新型はそれを反映してあらゆる面で相当なレベルアップを果たしている。試乗車は見映え優先の20インチタイヤ&ホイールを組み合わせていたが、それでも街中を走らせているぶんにはゴツゴツ感もなく、印象はまずまず。しかし速度が上がるに従って、小さなうねりでも盛大に煽られるなど安定感を欠く動きも垣間見えてきたから、お薦めはやはり標準の18インチということになる。
フルタイム4WDのクワトロということもあり、スタビリティは高いにちがいないが、コーナーはどちらかと言えば不得手とみえ、それこそ交差点ひとつ折れるにしても、嬉々として曲がっていくような感じではない。それもふくめて全体に、奥歯に物が挟まったようというかロボット的というか、どうもクルマとの気持ち良い対話ができにくい感触があることは先代から引きずってしまっている。絶対性能に不満はなく、結果的には思いどおりに走っているのだが、ドライバーとしては意のままに走らせたという余韻が薄い。そんな感じなのだ。
Mercedes-Benz E Class|メルセデス・ベンツ Eクラス
BMW 5 Series|ビー・エム・ダブリュー 5シリーズ
Audi A6|アウディ A6
ジャーマンプレミアム3ブランド 中核モデルの実力を探る!(4)
総括
メルセデス・ベンツ Eクラス
──ホスピタリティ溢れる執事
極端に言えばEクラスは、もはやクルマについては達観しているひと向けかもしれない。ただし、クルマなんて何でもいいというわけではなく、高いクオリティや、プロダクトに透けて見える確固たる製品哲学などは求めるが、ファンであることより道具としての実直さを強く求める。そんなユーザーの姿が浮かび上がるという意味である。
一番“うるさい客”かもしれないが、メルセデス・ベンツの「一度乗るともうほかには乗れない」を思わせるホスピタリィ溢れるクルマづくりは、そんなユーザーには堪らないはずだ。垢抜けない見映えも、そういう存在として考えれば納得。執事だったり黒子だったりに目立つ必要などないのだ。
BMW 5シリーズ
──クルマに走りのよろこびやスタイリッシュな魅力も求めるひとへ
それだけではおもしろくない。クルマには走りのよろこびやスタイリッシュな魅力も求めたいというひとは、おのずと5シリーズに目が向くにちがいない。かつてのBMWは、そこばかりに注力した挙げ句、ほかの大事な部分にしわよせが出るようなこともなくはなかったが、現行5シリーズは快適性にせよクオリティにせよ極めてレベルが高く、もはやエクスキューズは不要である。
スタイリングも巧みだ。トンガッたディテールがまず目に入った先代とは逆に、一見するとコンサバティブでありながらじつは艶めきを内包しているというあたり、何度見てもさすがだなと思わされるのだ。
アウディ A6
──デジタルでドライな印象
話題のものに目がないというひとは、やはりA6が気になるのではないだろうか。今やブランドの勢いは一番。それに乗っかっておく手はある。
クルマとしては、とくに走りの面での対話感のなさが引っ掛かる。「クルマにそういう要素は求めない」と言われるかもしれないが、たとえば機械式時計がそうであるように、良い機械には本来そういうよろこびが宿っていて然りだ。それがさらに興味を深めることに繋がり、ブランドへの愛着を醸成していく。そうした観点からすると、A6はまだデジタルでドライだなと感じる。
結論
──個人的にもっとも惹かれたのはBMW5シリーズ
個人的にもっとも惹かれたのは5シリーズである。しかし、4輪操舵にはどうしてもなじめないし、同列で比較するならエンジンは4気筒になる。それはちょっと……と再度考えを巡らせると、すべてに素直で気に障ることのないEクラスに目移りしはじめてしまう。いやいや、さすがに落ち着き過ぎだろう。体面を考えれば、いっそA6を選べば、案外クルマとのあらたな関係性を築けるかもしれない。
こんなふうに考えていくと、このセグメントのクルマ選びはやはり、ひと筋縄ではいかないと言っていいだろう。考えてみれば、ジャーマンプレミアム3大ブランドが一番力を入れているセグメントなのだから、それも当然だ。
それならば選ぶこちら側だって真剣に臨むべきだろう。悩む時間も楽しむつもりでじっくりと検討してみることをお薦めしたい。
Mercedes-Benz E250 Blue Efficiency|メルセデス・ベンツ E250ブルーエフィシェンシー
ボディサイズ|全長4,870×全幅1,855×全高1,455mm
ホイールベース|2,875mm
車輌重量|1,720kg
エンジン|1.8リッター直列4気筒DOHC+ターボチャージャー
最高出力|204ps(150kW)/5,500rpm
最大トルク|310Nm/2,000-4,300rpm
トランスミッション|電子油圧制御式8段AT
10・15モード燃費|12.8km/ℓ
CO2排出量|154-162g/km
価格|634万円
BMW 535i Sedan|ビー・エム・ダブリュー 535i セダン
ボディサイズ|全長4,910×全幅1,860×全高1,475mm
ホイールベース|2,970mm
車輌重量|1,820kg
エンジン|3.0リッター直列6気筒+ツインスクロールターボチャージャー
最高出力|305ps(225kW)/5,800rpm
最大トルク|400Nm/1,200-5,000rpm
トランスミッション|電子油圧制御式8段AT
10・15モード燃費|12.8km/ℓ
CO2排出量|119-257g/km
価格|840万円
Audi A6 2.8FSI Quattro|アウディ A6 2.8FSI クワトロ
ボディサイズ|全長4,930×全幅1,875×全高1,465mm
ホイールベース|2,910mm
車輌重量| kg
エンジン|2.8リッター直噴V型6気筒
最高出力|204ps(150kW)/5,250-6,500rpm
最大トルク|280Nm/2,900-4,500rpm
トランスミッション|7段Sトロニックトランスミッション
10・15モード燃費| km/ℓ
CO2排出量|211g/km
価格|610万円