「前衛」と賞賛された名車、シトロエンDSの60周年を祝う|Citroen & DS
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2015年6月19日

「前衛」と賞賛された名車、シトロエンDSの60周年を祝う|Citroen & DS

Citroen & DS|シトロエン& DS

パリで大々的に「DSウィーク」開催

「前衛」と賞賛された名車、シトロエンDSの60周年を祝う

センセーショナルな誕生から半世紀以上を経てもなお、ファンの心を捉えて離さないシトロエン「DS」。その60周年を祝うイベントがパリで華やかに開催された。現地を訪れた小川フミオ氏がその模様をお伝えする。

Text by OGAWA Fumio

歴史に残る名車

自動車史の中で5台のベストを選んだとき、必ずそこに入ると断言してもいいのが、シトロエン「DS」だろう。1955年発表の同車の60周年を祝い、2015年5月に「DSウィーク」がパリで開催された。街のど真ん中にある特設会場での展示や、大々的なパレードまで、華やかな週末がパリに訪れた。

シトロエンDSについては、オウプナーズの読者諸氏に、あえてくどくど説明する必要はないかもしれない。大きくいうと、ふたつの点で自動車史に残るクルマだ。ひとつは油圧と窒素ガスを使ったサスペンションシステムなどのメカニズム。もうひとつは、当時“宇宙船”とも評された流麗で個性的なスタイリングだ。

Citroen DS|シトロエン DS

Citroen DS

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1955年パリサロンでDSがデビュー

個性あるクルマは、長く愛されるものだ。フランスの歴代大統領や首相のみならず、世界中のセレブリティはDSに惹かれた。最近ではブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーがDSと写っている写真も残っている。ことあるごとに、アート作品のテーマになったり、DSを中心とした催事が開かれている。

世界中にファンをもつDSのお祭りとして、今回企画されたのは題して「DSウィーク」。パリはルーブル美術館があるチュイルリー公園内に「DSエキシビション」を特設。くわえて、オーナー参加の「DSミーティング」がパリ近郊のサーキットと、パリ中心部コンコルド広場で開催された。

Citroen DS|シトロエン DS

ブリジッド・バルドーなどセレブリティとの写真が会場を飾る

「DSは今もなお20世紀のフランス自動車産業をもっとも象徴するクルマとして人々に親しまれています。ビジネスの成功はもちろん、シャルル・ド・ゴール大統領をはじめ多くの政治家や著名人、セレブリティらが愛し、映画シーンでの起用やスポーツシーンでの活躍などDSはフランスの人々の生活に彩りを添え、フランス流のスタイルを全世界にアピールしてきました」(DSの広報資料)。

今回パリで多くのDSに出会って、まさにそのとおりと感じた。

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貴重なモデルやスケッチ、映画など多角的に紹介

チュイルリー公園内「DSエキシビション」は、パリのオスマン通りを再現したとされる会場デザイン。大きな通路の左右に、1955年のオリジナルなど、貴重なモデルが並べられた。当時のスケッチの数かず、プロトタイプのモデル、映画でのDSの活躍、過去にDSを愛した各国のVIPのアーカイブなど、見飽きない内容だ。

DSを設計したのはアンドレ・ルフェーブル、スタイリングはフラミニオ・ベルトーニ。1930年代の「トラクシオンアバン」(フランスのギャング映画にもよく登場した)をはじめ、「2CV」や「アミ」といった傑作モデルをシトロエンに残したコンビの仕事である。

Citroen DS|シトロエン DS

Citroen DS

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オープンタイプのDS 19

いま実車に接しても、美しい曲面で構成されたボンネットをはじめ、半分覆われた後輪、後方にいくにしたがって、ギュッとすぼまったアグレッシブな印象のスタイル、それに1本スポークのハンドルと分厚いクッションのシートなど、印象に残る点は多い。さらに走らせると、ふわふわとした快適な乗り心地とともに、ギアチェンジ、ステアリング、ブレーキングなどの際、あまり腕や脚を動かさなくていように考えられて油圧によるパワーアシストを使った操作系に感銘を受ける。

DSは、同時に、華やかさを特長としたクルマだった。アンリ・シャプロンなどボディ架装のスペシャリストなどによるフルオープンのモデルの存在は、日本でも知られているが、フランスでの人気は予想以上に高い。今回も、パリのシャンゼリゼ通りの1本裏にあるDSショールームをはじめ、各所に展示されたDSは、美しいオープンモデルが多かった。

DSウィークの週末、5月23日にはパリ郊外、リナ・モンテリ サーキットにおいてDSが一堂に会した。国際ミーティングとして、10ヵ国から 1,500名のオーナーと600台のクルマが参加したと発表されている。

翌日曜日に参加車はリナ・モンテリからパリへパレード。セーヌ川に沿って移動し、DSが作られていたシトロエン工場があったアンドレ・シトロエン河岸(かつてはジャベル河岸)から、1955年、DSが発表されたグランパレ、そしてコンコルド広場へと至ったのだった。

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モンテリ サーキットから隊列を組んで進むDS

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プレミアムラインとしてリブランドするDS

DSウィークでは、自動車の金字塔ともいえるDSとともに、もうひとつのDSが大きくフィーチャーされた。2014年に発表された、プジョー シトロエン グループの新ブランド、「DS」だ。それまでシトロエンのラインナップにおいて、スタイリングやパフォーマンスでエッジの立った存在感を示していた「DS3」「DS4」「DS5」が、シトロエンの下から離れ、DSというブランドで、3、4、5と展開されるようになった。

シトロエンはこれから、プロダクトに価格競争力をもたせて、ファミリーなど幅広い層へのアピールを強化するそうだ。いっぽう、DSは価格もやや上。プレミアムラインとしてのリブランディングがはかられることとなった。

Citroen DS|シトロエン DS

ブランドロゴとなったDSの文字

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ティエリー・メトロス氏

DSウィークでは現在のフラッグシップモデルであるDS5に、DSの60周年を記念した特別モデルの追加が発表された。DとSとを組み合わせたモノグラムをヘッドランプケースの一部にレザーで彫るなど、ディテールへの気配りもDSブランドのプロダクトの大きな特徴であることが喧伝された。

「ひときわスタイリッシュなデザインやテクノロジー、ニーズに合わせてダイナミックに変化する快適性とディテールや素材にこだわったデザインを展開していきます」(DSの広報資料より)

ドイツなど強豪がひしめくプレミアムライン市場で成功するには? そう訊ねられて、「DSブランドにはDSブランドにしかできないことがあると気づいています」と答えてくれたのは、デザインを統括するティエリー・メトロス氏だ。

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過去と現在と結ぶDSのタグライン

DSのデザインをまとめあげるのは、先に登場したシトロエンのデザインディレクターとして活躍してきたフランス人、ティエリー・メトロス氏だ。「DSのデザインチームは、シトロエンとは切り離して独立した組織です。いまはフランス人を中心に、少人数で構成されています」と言う。

「現在、DSのデザインで重視しているのは、プロポーションです。車輪をボディのどこに配して、乗員のキャビンをどこに置くか。クルマのキャラクターを決めるのに、もっとも重要なことです。これが重要度の70パーセントぐらいで、残りの30パーセントはスタイルです」

「彫刻的と私は表現するのですが、フロントマスクなどは、この考えで造型しています。従来のシトロエンDSシリーズとは一線を画すフロントグリルを作り、エアインテークをL字型にして、そこを囲むようにしました。DSウィングと私たちは名づけていますが、ヘッドランプとともに、こういう処理で個性を出しています」

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現在のフラグシップ、DS 5

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55年発表のDSオリジナルモデル

上級移行するDS。マーケットはどこを狙うのか。DS5のプロダクトマネージャーを務めているバンサン・デボス氏は語る。

「DSの競合は欧州ではアウディとインフィニティです。他とは一線を画している技術などをセリングポイントにするブランドです。DSの場合、フランスのラグジュリーブランドがもっている快適性とか贅沢さを意識した、フレンチアティチュード(フランス流)を取り込んでいくことで、一頭地を抜いた存在感をアピールしていこうとおもっています。たとえば、車内に乗り込んだとき、ソフトで気持ちよくて、おもわず“ワオ”と声が出てしまうようなことが大事だと考えています」

これから2020年までにDSでは6台のニューモデルを揃え、なかには大型車も含まれる予定とデボス氏は教えてくれた。それでこそ、大統領にも愛されたオリジナルDSのヘリティッジを受け継ぐブランドといえる。

冒頭の「DSエキシビション」では、DSブランドのフィルムが流された。DSのイメージを重ねていった映像で構成され、最後に、「私たちは他人がいかないところに行く。私たちは、けっして人の後を行かない」と力強い声でメッセージが流れる。

スピリット オブ アバンギャルドと名づけられたDSのタグライン。このようにして、1955年と60年後の現在がつながっているのだ。

[caption id="attachment_1225391" align="alignnone" width="665"]DSミーティングの様子未来のDSをしめすコンセプトカー「ディヴァイン DS」が歴代のDSを先導していく[/caption]

           
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