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2024年12月20日
「Cubitus」を通じて先読む、25年先の未来
PATEK PHILIPPE|パテック フィリップ「Cubitus」
25年という時間は、日本では「四半世紀」という表現で、懐かしさを伴った長い時間の尺度として表現されることがある。とはいえ、この尺度も加速度的に変化、多様化する現代の消費マーケットのなかで、どれほどの意味を持つものなのか。それほどに長い時間を経て、パテック フィリップが新作を市場へと送り込んだことを、OPENERSでは“事件”と呼ぶことにしたい。昨今、高級時計業界では年に一度の新作発表が常識とされ、さらには季節ごとのカプセルコレクションが追加されることも珍しくない。その慌ただしい新作ラッシュの中で、パテック フィリップだけが、1999年発表の「Twenty~4」以来、実に四半世紀もの間、新コレクションを発表せず、沈黙を続けてきたのである。メンズウオッチならさらに2年長く、「アクアノート」のリリースから実に27年ぶりとなる。
Text by TSUCHIDA Takashi
熟成される価値を、もう一度、時計界に!
「今、流通しているモデルは、どのモデルを身につけてもトレンドから逸脱することはあり得ない。しかし25年後はどうだろうか?」
この問いかけは、現代の消費社会に対するアンチテーゼだ。モノには必ず旬がある。とりわけファッションの世界において、その傾向は顕著だ。どれほど高価な製品であっても、5年後、10年後、はたまた25年後に、今、手にしているものが自分の愛用品であり続けられるかを見通すことは困難を極める。
しかし、パテック フィリップの新作「Cubitus」は、そんな時間の制約から解放されているかのようだ。むしろ、時を重ねることでその真価を発揮することを予感させる存在として、今、私たちの目の前に現れている。
また、この25年という長い時間の意味を理解する上で、「アクアノート」の例は示唆に富んでいる。1997年の発表以来、アクアノートは時を経るごとにその魅力を増してきた。はじめはステンレススチールケースだけのシンプルな三針モデルとしてコレクションがはじまり、現在はクロノグラフやプレシャスストーンをあしらったモデルまで登場。コレクション価値の底上げが連綿と続けられている。
それは、単なる経年変化を超えた、コレクション価値の熟成と呼ぶべき現象だ。しかも、パテック フィリップのデザインは、伝統に忠実でシンプルである。シンプルであるがゆえに、着用して付いた多少のキズは、許容できる懐の深さがある。買った瞬間のピカピカな輝きよりも、実使用による痕跡が、その価値を上積みする。そういう地に足のついた“凄味”が、このブランドにはある。
伝統と革新の対話
25年間の沈黙を破って登場した「Cubitus」は、最新のテクノロジーを前面に押し出すわけでもなく、むしろ静かな佇まいを纏っている。しかし、そこにこそパテック フィリップの真髄が宿る。1976年の「ノーチラス」、1997年の「アクアノート」で確立してきたスポーツ・エレガンスの系譜を継承しながら、まったく新しい美学を提示することに成功しているのだ。
「Cubitus」の特徴は、これまでにない独創的なケースデザインにある。正方形を基調としながら、角を丸く処理し、八角形の要素を加えることで、幾何学的でありながら柔らかな印象を実現。直径45ミリメートル(10〜4時位置)という存在感のあるケースサイズながら、薄型設計により手首に心地よくフィットする。さらに、30メートルの防水性能を確保するなど、実用性への配慮も十分である。
シリーズの頂点に立つのが、プラチナケース「Ref.5822P」だ。12時位置の2窓による瞬時送り式大型日付表示と7時位置の月齢・曜日表示を備え、これらの表示は毎晩午前0時に僅か18ミリ秒という瞬時の切り替えを実現する。この画期的な機構には6つの特許が出願されており、複雑機構の王者としての矜持を感じさせる。
文字盤に施された水平方向のエンボス模様は、光の角度によって様々な表情を見せる。プラチナモデルのネイビーブルー、ローズゴールドとステンレスを組み合わせた「Ref.5821/1AR」の深みのあるブルー、そしてオールステンレスの「Ref.5821/1A」が纏うオリーブグリーンと、それぞれが独自の個性を放つ。
未来を見据えた匠の技
ケースは風防側からムーブメントを組み込む二体構造を採用し、両サイドには特徴的な結合部を配置。時計の構造までもデザインの一部として昇華させている。この細部へのこだわりは、ブレスレットの仕上げにも表れている。ポリッシュ仕上げと縦サテン仕上げを交互に配することで、光の角度による表情の変化を生み出し、洗練された佇まいを実現している。
25年ぶりの新コレクションは、パテック フィリップが探求し続ける「永遠の美」の、現代における最適解と言えるだろう。そして「アクアノート」が辿った道のりと同じく、このモデルには今後、さまざまな機構や装飾が追加され、コレクション価値の底上げが図られることは間違いない。
記事冒頭で「25年後はどうだろうか?」と質問したが、「Cubitus」についての回答は、もちろんYESだ。仮に、「アクアノート」の初号機を、いま保有していると言ったら、OPENERS読者ならきっと色鮮やかにイメージできるのではないだろうか? そして何より、時を経て増していく存在感を想起すると、自ずと胸が高鳴ってくる。
問い合わせ先
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
Tel.03-3255-8109
https://www.patek.com