牛フィレ肉 パン包み焼き 命草のベアルネーズと共に
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2019年12月18日
「知る」は、おいしい! 星のや竹富島|TRAVEL
TRAVEL|星のや竹富島
このひと皿と出合うために、星のや竹富島へ(1)
突然ですが、竹富島がどこにあるかご存知ですか。珊瑚礁が隆起してかたちづくられた竹富島は、沖縄本島からさらに南西に400キロ。周囲約9キロの小さな島に、約360人が暮らしています(2019年11月現在)。竹富島の玄関口となる石垣島までは、羽田空港から直行便で約3時間。石垣空港からフェリーターミナルまでクルマで約25分、そこからフェリーに乗って10分強と、ええ、なかなかの遠さです。
Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi
ヒコーキと船を乗り継いで、遠く遠く……
とはいっても、朝イチに羽田を出る直行便に乗れば、午前中のうちに石垣島に到着できちゃうんですけどね。そんなこんなで、昼過ぎには竹富島に上陸。ホテルのお迎えのクルマが走り出して1分経ったか経たないかのうちに、カメラマンの大瀧 格さんがぽつりと口にしました。「近場の海外の都市より遠くに来た感があるよね」。窓の外には、沖縄の原風景ともいえる景観が広がっています。そして“竹富ブルー”と称されるコバルトブルーの海の美しいこと。濃密な離島ムードは沖縄本島とも石垣島とも種類が異なるものです。
今回の旅の目的は、星のや竹富島が2018年の冬から提供している、冬限定の料理コンセプト「島テロワール」のディナーコースをいただくこと。このコースを食すために、東京から2000キロ離れたこの竹富島に馳せ参じたというわけです。
「テロワール」とは、そもそも大地を意味するフランス語「Terre」から派生したフランスで生まれた概念で、ワインやコーヒー、お茶などの農作物を育てる際に影響する天候や土壌、土地、地形、歴史、人のことを言います。年間平均気温24度の竹富島では、主に冬に島の特徴的なテロワールで育った食材が旬を迎えるのだとか。2年目となる今冬は、古くから島民の健康を支えてきた島特有のハーブ「命草(ぬちぐさ)」を中心に、竹富島にしかないテロワールでフレンチのコースを作り上げたそうです。
「島の食材は、力強さや素朴さがあるんです。同じ野菜でも本州のものとは水分量が違います」と熱く語るのは、沖縄の離島で働きはじめて3年半、1年前に料理長に就任した、星のや竹富島の若き料理長・伊藤康弘さん。
え、沖縄の食材、とくに野菜ってだいぶ個性が強い印象だけど、本当にフレンチと合うの?
そんな素人の疑念を、伊藤さんは気持ちいいくらいきっぱりと否定してくれました。伊藤さん曰く「南国の食材はあっさりしているものが多く、フレンチの調理法とも相性がいい。フレンチの技法で島の食材の魅力を引き立てることができるんです」。力強いお言葉! 食いしん坊の旅に「ここでしか味わえないもの」はマストですが、なかなかのレアなものが食べられそうですよ。
今冬の「島テロワール」ディナーコースは全9皿。竹富島の自慢の食材である車海老や芋、そして、今冬のテーマである「命草」をたっぷり使った構成です。年間の気温変化が小さい竹富島の海水温は車海老の甘みを引き出すのに適していて、島ではさかんに養殖が行なわれています。また、珊瑚礁が隆起してできた竹富島には山や川がなく、もともと農作物が育ちにくい環境にあるのですが、貴重な土を使って農業も営まれてきました。なかでも島民が主食としたのは、芋だったそうです。
コースは、屋外にある「風のテラス」で、南の島の風を感じながら食前酒とアミューズブッシュを楽しむ「島風(しまかじ)アペロ」からスタート。その後、レストランに移動し、コース料理をいただきます。
「ガザミと島豆腐のクープ」
「車海老のサンゴ焼き 命草ソース」
「フォアグラとクブシミのポワレ イカ墨のリゾットと共に」
「あかね芋の3種の調理法」
「車海老のポワレとそのビスク 人参のクリームと共に」
「牛フィレ肉 パン包み焼き 命草のベアルネーズと共に」
〜フレンチのフィルターを通して生み出す沖縄の食材の饗宴〜
「車海老のサンゴ焼き 命草ソース」
「フォアグラとクブシミのポワレ イカ墨のリゾットと共に」
「あかね芋の3種の調理法」
「車海老のポワレとそのビスク 人参のクリームと共に」
「牛フィレ肉 パン包み焼き 命草のベアルネーズと共に」
〜フレンチのフィルターを通して生み出す沖縄の食材の饗宴〜
と、「そう来たか!」というサプライズ感のある料理が続々とお目見え。さらにデザートの「あかね芋のタルト」「マンゴーのババ 泡盛の香り」と続きます。
一部の料理をフィーチャーし、詳しくお伝えしましょう。「車海老のサンゴ焼き 命草ソース」は、竹富島が誇る車海老を、熱したサンゴで蒸し焼きにした料理。見た目のインパクトもなかなかです。
「竹富島のきれいな水で育った車海老は、ミネラルが豊富で雑味を感じません。もっとも甘みを感じる半生の状態で味わっていただきたいという発想から誕生したメニューです」と、伊藤さん。月桃の香りをまとった車海老はセクシーさと気品に満ち溢れていました。まずは何もつけずにそのままパクリ、その後、長命草やシークヮーサー、ナンプラーで作った命草ソースを絡めていただくのがおすすめです。
「竹富島のきれいな水で育った車海老は、ミネラルが豊富で雑味を感じません。もっとも甘みを感じる半生の状態で味わっていただきたいという発想から誕生したメニューです」と、伊藤さん。月桃の香りをまとった車海老はセクシーさと気品に満ち溢れていました。まずは何もつけずにそのままパクリ、その後、長命草やシークヮーサー、ナンプラーで作った命草ソースを絡めていただくのがおすすめです。
「あかね芋の3種の調理法」は、橙色のあかね芋を、ロースト(焼く)、フリット(揚げる)、ヴァプール(蒸す)の3種の調理法で味わう一皿です。ナッツが香ばしいローストは「オレンジの香りでアクセントをつけました」(伊藤さん、以下同)。「かぼちゃのようにこっくりと」蒸したものは、芋そのものが持つやさしい甘みが際立っていました。付け合わせにはトリュフバターやバルサミコソリッドが添えられていたのも印象的です。何もつけずにいただくのも良し、調味料で味変を楽しむも良し。芋の振り幅の広さに拍手喝采です。
「牛フィレ肉 パン包み焼き 命草のベアルネーズと共に」は、フランス料理のパイ包みから発想を得たメインディッシュ。周囲をかりっと焼いた牛フィレ肉を、「肉にストレスをかけずに火を通したあと、竹富島に自生する長命草やフーチバ(ヨモギ)などの命草を練りこんだパンでくるみ、低温度で時間をかけて焼き上げています」。パンを通してゆっくりと火入れすることで肉がやわらかく仕上がり、また、命草の香りが肉に移るのだそうです。フィレ肉は言わずもがな、肉汁のついた命草パンの美味しいこと。非常に優秀なバイプレーヤーです。「メイン料理にはなりにくい命草ですが、その魅力を全面に出していきたい」という伊藤さんの思いをストレートに感じる一皿でした。
TRAVEL|星のや竹富島
このひと皿と出合うために、星のや竹富島へ(2)
翌日、朝ごはんで、新鮮野菜をたっぷりと!
朝食も俄然、命草推しです。「どのようにして命草をたくさん食べていただくか」という思いから誕生したのが、「畑人(はるさー)・ブレックファスト」です。島にんじん、長命草、ハンダマ、ゴーヤなど、冬が旬の命草をふんだんに使用したサラダとポーチドエッグが主役の朝食メニューは見た目も華やかです。
で、このメニュー、サラダを好きなだけ楽しめます。ストップというまで盛り付けてくれます。島育ちの旬の野菜は生命感にあふれ、いつまでも食べ続けていられそう。ドレッシングは3種(うこん、長命草、フレンチドレッシング)。これ、全部試すしかないですよね。なんだか食べているうちに活力がみなぎってきました。もしや命草パワー?
「料理は五感を使うエンターテインメント。ここでしか食べられない料理はもちろんですが、遠くまで足を運んでいただいたお客さまに、小さな島でこその雰囲気や、星のや竹富島の空間そのものを体感していただきたいです」
一皿一皿の料理に、スタッフのサービス、レストランの雰囲気──。滞在中は至るところで、その思いを感じることができました。すっかり竹富島の虜です。
さて、星のや竹富島の命草推しは「食」に止まりません。星野リゾート系の推しに半端はないですからね。この冬からスタートしたのが、命草の香りを楽しめる蒸留水「命草ウォーター」を作るプログラム。施設内の「命草畑」で収穫したフーチバやホーリーバジルなど好みの命草を使用し、命草の香りが楽しめる蒸留水を作るというものです。命草ではありませんが、強い香りを持つローズマリーの使用もおすすめだそうで、実際、いい仕事をしてくれましたよ。完成した「命草ウォーター」は、寝具や衣服に吹きかけて使うことができます。命草セレクトのセンスが問われるのですが、それがまた楽しくて。「これはどんな命草?」「普段はどんな風に使うの?」と、くんくんと香りを確かめながらの命草集めも旅の素敵な思い出です。
おいおい「命草畑」って? と思われた方、失礼しました。星のや竹富島では、2017年から島の畑を継承するプロジェクトをスタートしています。島の農業は後継者不在という大きな問題を抱えています。そんななか、地元で農作物を育てている“おじい”前本隆一さんに、スタッフの小山隼人さんが弟子入り。前本さんの指導のもと、施設内に畑を作り、島の畑を継承する取り組みを行っています。小山さんは、「3年をかけて島に伝わる命草54種を揃え、島の命草文化の継承に貢献するのが目標」ときっぱり。
午後のおやつタイム「島のひととき」で提供するスイーツの材料に、施設の畑の収穫物が使われることもあります。たとえば、かつて主食として島の方の生活を支えていた「ンヌイ」は、前本さんが自家採取していた3種のお芋(白、橙、紫)の種芋をもらい、施設の畑で育てたお芋を団子にしたもの。素材の違いがストレートに伝わってきます。
竹富島には、1986年に制定された島を守るための5つの基本理念「売らない」「汚さない」「乱さない」「壊さない」「活かす」をはじめとした島の伝統文化を大切にする精神が謳われた「竹富島憲章」がある。星のや竹富島の約2万坪の敷地には、島内の家々と同じように「竹富島景観形成マニュアル」に従い、伝統を尊重して建てた戸建の客室、白砂の路地、プール、見晴台などがあり、小さな集落を構成している。
最後に、改めて「星のや竹富島」という施設について紹介しておきましょう。2012年、島の東側に開業した星のや竹富島は、港からクルマで約7分の場所にある竹富島の伝統文化を尊重してつくられたリゾートです。約2万坪の敷地に、全48室の琉球赤瓦を使った戸建の客室(ヴィラ)、プール、見晴台、サンゴのかけらである「白砂」の路地、琉球石灰岩を積み上げた石垣(グック)などを配し、小さな集落を構成しています。風が入るように南向きに作られた、各客室の屋根には守り神のシーサーが鎮座していました。客室の正面にある岩壁(ヒンプン)は目隠しの役割を果たすだけでなく、魔除けの意味もあるそうです。
客室にも竹富島の伝統文化へオマージュを感じる趣向が随所に。客室の鍵には、石垣島で育った「相思樹」という木で作られた、ヤモリのキーホルダーが付いています。アメニティとして置かれていた、月桃を使ったバームは同リゾートのオリジナルです。筆者の個人的なお気に入りは、客室の中央にどーんと置かれたバスタブ。ここに浸かりながら庭を眺められるように設計したそうで、縁側から客室を通り抜ける風を受けながらの入浴は極楽そのものです。何度入っても飽きません。
レストランの横の「ゆんたくラウンジ」は、24時間、いつでも利用できるリゾートの集いの館。ライブラリーやセルフサービスのドリンクコーナー、土産物屋を併設しているこちらでは、毎日20時から21時の1時間、沖縄産の蒸留酒「泡盛」を使ったカクテルを無料で提供しています。泡盛とオリジナルシロップを合わせ、ソーダや水で割っていただく泡盛カクテルは、自分で味の調節ができるのも魅力です。
「ゆんたくラウンジ」の目の前にある屋外プールは全長46メートルと存在感たっぷり。リゾートを象徴する存在でもあります。リゾートのもうひとつのシンボル的存在は見晴台。ここからリゾート全体が俯瞰できます。そうそう、「集落」の散策時にはチェックイン時に手渡される地図を持っていくのをお忘れなく。同じような建物ばかりなので迷います、というか、迷いました(笑)。でも少し慣れたら、「隠れシーサー」探しに興じてみるのもよろしいかと。各客室の屋根の上のシーサーのうち、3匹はほかのシーサーとは違うデザインのレアキャラとなっているんですって。長寿の意味を持つ「風車」、厄除けの意味を持つ「箒」、夫婦円満の意味を持つ「毬」を持った、個性派シーサーを宝探し気分で探してみるのも一興です。
竹富島の土地の持つエネルギー、歴史、文化、島の人たちが大切に守り続けているものが、さまざまな角度から体感できる星のや竹富島。後ろ髪を引かれながらリゾートをあとにする時、みんなきっと訪れた時以上に竹富島に詳しくなり、竹富島が好きになっていることに気づくはずです。そして、ふと思ったんですよね。地域に根ざし、地域と共存する究極のリゾートって、きっとこんなことを言うんじゃないかなって。
そこで感じた、幸福に満ちた島時間を思い出し、またほくそ笑むのです。
星のや竹富島
住所|沖縄県八重山郡竹富町竹富1955
アクセス|竹富港から車で約7分(無料送迎バスあり)
客室数|48室(チェックイン15:00、チェックアウト12:00)
料金|1泊 75,000円~(1室あたり、税・サービス料別、食事別)
住所|沖縄県八重山郡竹富町竹富1955
アクセス|竹富港から車で約7分(無料送迎バスあり)
客室数|48室(チェックイン15:00、チェックアウト12:00)
料金|1泊 75,000円~(1室あたり、税・サービス料別、食事別)
問い合わせ先
星のや総合予約
電話|0570-073-066
URL|https://hoshinoya.com/