ラグジュアリー・ステイの新しい方向性|ENSO ANGO
ENSO ANGO|エンソウ アンゴ
ラグジュアリー・ステイの新しい方向性
価値観が多様化する現代において、ラグジュアリーの定義も少しずつ変化している。これまでは、贅の限りを尽くした足し算の発想、つまり物質的な豊かさを指すものだった。だが、現在は、不要なものを取り除いた引き算の発想による精神的な豊かさも、ラグジュアリーだと感じる人も増えている。そんな流れが、ホテル業界にもやってきた。日本において、ラグジュアリー・ステイの新しい方向性を示すのが、ENSO ANGO(エンソウ アンゴ)だろう。
Text by MAKIGUCHI JunePhotographs by ASAKAWA Satoshi, KENGAKU Tomooki
ENSO ANGOが広げる旅の可能性とは?
「SLH(スモール・ラグジュアリー・ホテル)」をご存じだろうか。スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド™(本社:ロンドン)が、独自の厳しい基準をベースに世界各国から選りすぐった、個性溢れるラグジュアリーな独立系ホテルがそう呼ばれている。都会的なデザイナーズホテル、都心の隠れ家ホテル、歴史の香り漂うカントリーハウス、プライベートアイランドのリゾートなど世界約80各国に500以上のホテルが加盟。
それぞれが、オリジナリティはもちろん、最高のロケーション、クオリティへのこだわり、パーソナルに行き届いたサービス、そしてデスティネーションを楽しむためのベストを提供するという高いマインドを共有し、世界中のハイエンドな旅を愛する人々に支持されている。日本では、これまで東京ステーションホテル、ホテル雅叙園東京、登大路ホテル奈良など12のホテルが加盟していたが、2018年11月、京都からホテルENSO ANGO FUYA II(エンソウ アンゴ麩屋町通Ⅱ)が新たに仲間入りした。
エンソウ アンゴは、2018年10月15日オープンしたばかりの新しいホテルで、そのコンセプトも新しい。ホテルの客室と施設を、あえて町中に分散させることで、暮らすようにその土地を楽しむ「分散型ホテル」なのだ。
イタリアでは過疎化した地域の町づくりの政策のひとつとして、分散型ホテル「アルベルゴ・ディフーゾ」が数十年前から根付いている。ホテル一棟でサービスのすべてをまかなうのではなく、町にあるレストラン、バー、客室などを利用してもらうことで、旅人に“町に滞在する”という意識、旅の醍醐味を提供という。いわば、地域全体が旅人をもてなすという形態なのだ。
これを日本らしく、都市型に転換したのがエンソウ アンゴだ。過疎とは無縁の京都だが、ここにあえて分散型ホテルを作ることで、暮らすように町を楽しむ体験を提供できる。大都市ほど、旅人はその表層しか体験できないことが多い。「分散型ホテル」なら、地域コミュニティとの接点が増え、旅するだけでは見えにくかったその町、さらにはその国の素顔を知ることができるというわけだ。
エンソウ アンゴは麩屋町通にあるFUYA I、FUYA II、富小路通にあるTOMI I、TOMI II、大和大路通にあるYAMATO Iの独立した5棟から成る。それぞれに、レストラン、バー、キッチン、ジムなどが分散しているので、ゲストが利用したい施設を持つ棟を行き来する。もちろん宿泊者は、別棟の設備も無料で利用可能。ないものは他で補完するという発想で、大型ホテルが巨大スーパーだとすれば、エンソウ アンゴは町の商店街に立ち並ぶ個人商店だと考えらえるかもしれない。二つの大きな違いはコミュニケーションだろう。言葉を交わす、笑顔を交わすことから、特別な体験が始まるのだ。
建物自体は同じムードを共有するが、インテリアはそれぞれが個性的だ。FUYA Iは、陶作家の安藤雅信氏による作品が楽しめるギャラリーのようであり、SLHに新加入したFUYA IIでは内田デザイン研究所による日本文化の精神性とホテル空間の調和を体感できる。TOMI Iでは京都の食をテーマにした日比野克彦氏によるダンボールアートが空間を彩り、TOMI IIはスイスのデザイングループであるアトリエ・オイが手掛け、彼らが日本でデザインした家具や、京都の技を生かした照明などを楽しめる。祇園にあるYAMATO Iでは、全室2段ベッドのミニマムな空間に、建築家・デザイナーの寺田尚樹氏による1/100スケールの模型「ENSO ANGO限定版テラダモケイ」が展示されている。
大都市の限られた空間を創造力で活用するエンソウ アンゴだが、客室内にもその発想は生きている。シャワーブースとトイレをコンパクトに配し、洗面台を室内に取り出したことで、使い勝手を重視。また、歯ブラシやスキンケアアイテムはなく、必要最低限のものだけが置かれている。それは、エコロジー意識だけではなく、ラグジュアリーを重視する人にとって使い慣れたものこそが最も快適であると知っているからだ。
建物を行き来することを不便と感じる人もいるだろう。だが、体験やこだわりに重きを置く人にとっては、こんな旅のスタイルこそラグジュアリーだと感じるかもしれない。今後はさらに棟を増やしていくというから、自分の拠点が町に複数点在するとなれば、町歩きはもっと快適になることだろう。
エンソウ アンゴでは、各棟で京都の伝統に出会える様々なアクティビティも用意されている。建仁寺塔頭両足院の副住職による心を整える坐禅、京のおばんざい教室や伝統を担う職人たちのトーク、Tatami Salonでのヨガ、編んだ竹で作られたモダンな茶室でのお茶会などだ。
これらのアクティビティ・プログラムを展開することからもわかるように、エンソウ アンゴが目指しているのはコミュニティとの一体感。ホテル開業に当たり、計画段階から町を歩いてコミュニティと知り合うことだけを目的としたチームを結成したという。地域と旅人を有機的に結ぶのもホテルの新しい役割なのだろう。
ENSO ANGO(エンソウ アンゴ)
https://ensoango.com/
スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド™