松浦俊夫|英国の逸材、ローラ・マヴーラに単独インタビュー
松浦俊夫|from TOKYO MOON 7月14日 オンエア
英国の逸材、ローラ・マヴーラに単独インタビュー(1)
DJ松浦俊夫による、大人のための音楽番組『TOKYO MOON』。日曜の夜23:30から、InterFM 76.1MHzにてオンエア中です。世界中から選りすぐった“フレッシュ”な音楽や、大人の知的好奇心を刺激するトピックスをご紹介。ここではオンエアされたばかりの内容を振り返ります。アーティストについて深く掘り下げたり、関連した楽曲を紹介したり、さらにはその曲が購入できたりと、『TOKYO MOON』を目と耳で楽しむ連載です。今週は、初来日を果たした注目のシンガー・ソングライター、ローラ・マヴーラの単独インタビューをお届けします。
Text by MATSUURA Toshio
オンエアにはなかった日本語訳を公開!
6月に日本デビュー、そして東京・大阪で初来日公演を成功させた、イギリス・バーミンガム出身のシンガー・ソングライター、ローラ・マヴーラの単独インタビューに成功。
幻想的な歌声で聴く者の心を癒してくれるローラ。自身のルーツから音作りへのこだわり、そしてライブ・パフォーマンスについて、ハード・スケジュールの疲れも見せず、ひとつひとつの質問に丁寧に答えてくれる姿勢に、彼女の誠実さとプロフェッショナルとしての意識の高さを感じました。OPENERSでは、放送にはなかった日本語対訳を独占掲載します。ぜひ楽しんで下さい。
REVIEW|TRACK LIST
01. Oscar Brown Jr. / Afro-Blue (Columbia)★
02. Adolph Jacobs / Cannibal Stew (Kent)
03. Ruth Brown / Don't Know - DJ Catalist Edit (PR)
04. Lady / Get Ready -45 Edit (Truth & Soul)★
05. Laura Mvula / Green Garden (Sony)★
06. Laura Mvula / Can't Live With The World (Sony)★
07. Laura Mvula / She -Robin Hannibal Rework (Sony)
09. Laura Mvula / Sing To The Moon (Sony)★
10. Laura Mvula / Father, Father (Sony)★
11. Nina Simone / Little Girl Blue (Bethlehem)★
12. Grey Reverend / A Hero's Lie (Motion Audio / Beat)
13. Bobby Hutcherson / Hello To The Wind (Blue Note)★
14. Bipolar Sunshine / Rivers (The Aesthetic Recording)★
15. Bobby Bland / Honey Child (Duke)
Laura Mvula|ローラ・マヴーラ
イギリス・バーミンガム出身、現在26歳のシンガー・ソングライター。アデルなど数多くのブレイク・アーティストを輩出してきた「BBC“Sound of 2013”」の「BRIT AWARDS批評家賞」にノミネートされたことで、世界の音楽ファンから注目を集めている。6月に日本でもリリースされたデビュー・アルバム『シング・トゥ・ザ・ムーン』は、コリーヌ・ベイリー・レイやルーマーを世に送り出したことで知られるスティーヴ・ブラウンとともにレコーディング。すべて作詞/作曲を自身で手がける彼女は、エリカ・バドゥ、シャーデー、ビョークなどの登場時にも似た、あたらしい音楽に触れたときの歓びを実感させてくれるアーティスト。温もりを鮮やかに描くあたらしい音の世界がリスナーを虜にしている。
今週の「TOKYO MOON on iTunes」
これまでに紹介した楽曲のなかから、選りすぐったものをここで購入できます。気になった楽曲がすぐ入手できる喜びを味わってください。例年よりも早く梅雨明けし、猛暑のつづく東京。ピックアップした3曲で少しでもクールダウンして、楽しい夏を過ごしてください。
Gabor Szabo / Summertime 2010.7.18 ON AIR
Dr. Buzzard's Original Savannah Band / Sunshower 2010.8.1 ON AIR
The Greg Foat Group / Hello Old Friend 2011.7.31 ON AIR
松浦俊夫|from TOKYO MOON 7月14日 オンエア
英国の逸材、ローラ・マヴーラに単独インタビュー(2)
日本の人たちの温かさに、ただただ感動
──はじめての日本、そしてはじめてのライブ。東京と大阪での公演を終えたいまの心境を聞かせてください。
素晴らしい時間を過ごしています。自分にとって日本は特別な場所であり、日本の人たちは特別な存在です。この空気のあたたかさ、そして日本の人たちの温かさに、ただただ感動しています。歌っているときに、目の前のお客さんが笑顔でいてくれるのが、とても歌いやすく、ありがたかったです。
──東京公演を観に行っていたのですが、お客さんがおとなしいという印象をもたれたんじゃないかと、ずっと気になっていました。だけどそれは、あなたの歌に聴き入ろうとして、すごく真剣に聴いているから。“清く正しく”聴こうという姿勢の表れなんです。お会いしたときには、まずそのことを直接伝えなければとおもっていました。
そう言ってもらえると嬉しいです!
──よく質問されるとおもうんですが、名字について。一度ローラさんに発音していただきたいなと。
「マ(ン)ヴゥーラ」です。
──「マンーラ」でしょうか?
ンーと言うよりも、ヴゥーの発音に近いですね。
──出身はバーミンガムということですが、ご両親は元々どちらの出身だったのでしょうか?
両親はカリブ海にルーツがあるんです。母親はセントキット島、父親はイギリスで育っているんですが、もともとはジャマイカ出身です。それから夫のマヴーラ家は、ザンビア出身です。
道ばたで会った人に自分の音楽を尋ねられたら?
──ここからは音楽の話に移りましょう。イギリスでDJをすることもあるのですが、残念ながらバーニンガムにはまだ行ったことがありません。音楽的にバーミンガムはどういう感じなのでしょうか?
バーミンガムは、非常に歴史のある、そしてたくさんの音楽を輩出してきた街です。ロンドンとはまったくちがいます。ロンドンほどテンポが早くなく、独自のアイデンティティをもった街なんですね。音楽的には大きな「シンフォニーホール」があって、これはヨーロッパ随一のクラシックのコンサートホールです。もうひとつ「タウンホール」という、最近改装したばかりの素晴らしいコンサートホールもあります。たくさんのアーティストがバーミンガムに来て、こういった会場で演奏をしていますし、わたしも幸いなことにどちらの会場でも演奏する機会がありました。
バーミンガム出身のアーティストというと、UB40(ユービーフォーティー)がいます。それから、わたしもかつて参加していたブラックボイスという、5人組のアカペラグループもバーミンガム出身です。彼女たちとの経験が、いまのわたしの音楽の基礎となっています。
──実際に演奏して歌っているところを見て、どこか懐かしいような気持ちになりました。クラシカルであり、ソウルでもあり、ジャズでもあり……ミクスチャーされた独自の世界観だと感じました。ご自身の音楽をたとえるなら、ローラさんはなんと表現しますか?
わたしもなかなかうまく説明できないんです。「ソウルシンガーです」。「クラシックアーティストです」。あるいは「ジャズのアーティストです」と言ってしまったら、それはそれで誤解を招いてしまうとおもうんですね。かつてそれぞれの道を極めたいとおもっていたときもありました。だけど「これ」という言葉が見つからないんです。いまはそうしたミステリアスな部分があってもいいのかな、とおもっています。
自分でもどうしてこういう音楽になるのかわからないんです。わかっていないからこそ、自分にとっても刺激になりますし、これからもっとたくさんの面白い音が生まれる気がしています。もし道ばたで出会った年配の方に「あなたの音楽はどういう音楽なの?」と聞かれて、どうしても答えなければいけない状況に追い込まれたとしたら、おそらく“オーケストラル・ソウル・ミュージック”と答えるとおもいます。
松浦俊夫|from TOKYO MOON 7月14日 オンエア
英国の逸材、ローラ・マヴーラに単独インタビュー(3)
カバーはちょっと苦手
──まだファースト・アルバムをリリースされたばかりですが、これからあたらしい曲が増えていくにつれて、おそらくライブでのレパートリーもどんどん増えていくとおもいます。先日のライブでは、マイケル・ジャクソンのカバーを歌われていましたが、今後もそういったカバーを取り入れていこうという気持ちはありますか?
じつはカバーをやるのは、あんまり好きではないんです。周りから「こういうカバーをやってみないか?」と提案されて、「自分流にやってくれればいいよ」って言われると、なんかこう制限を課せられているように感じてしまって……。うまくできるか自信がなくなってしまうんです。
今後はそのあたりも上手くやっていきたいなとおもっています。想像力を膨らませて、自分流にカバーができるようになったらいいとおもうのですが、いまは「カバーをやってくれ」と言われると、まだドキッとしてしまうんです。でも今回やったマイケル・ジャクソンのカバーは、弟がアレンジをしてくれたので、すごく楽だったんですよ。
──いまの答えを聞いて、おそらくボーカリストと言うより、シンガー・ソングライターとしての自負があるからこそ、カバーではないのかなって。そんな気がしました。
そうですね。存在してる曲というのは、その時点ですでに完成されてしまっている。わたしがその完成された曲を好きに料理するのは、おこがましいとおもってしまうんです。
最初から最後まで、すべて自分でコントロール
──次は曲作りについてうかがいたいとおもいます。クリエイティブ・コントロールっていうのは、どこまで自分でされているものなのでしょう。詩を書く、作曲する、アレンジして落とし込む。それを全部ご自身でされているのでしょうか?
はい。作曲も作詞もアレンジも、すべてわたしがコントロールしています。大手のレコード会社と契約していることもあり、インタビューで「周りからいろいろ言われたり、ああしろこうしろって言われて大変じゃないの?」って聞かれることがあります。でもこのプロジェクトは、すべてわたしからスタートして、わたしで終わるもの。それができなければ、契約していなかったかもしれない。そうしないと、本当に純粋なものは作れないとおもうんです。
今回のアルバムのプロデュースをやってくれていて、わたし以外の人間で、唯一制作に関わってくれているのが、スティーヴ・ブラウン。彼自身も「ぼくは本当に最小限しか関わっていない」と言って、こんな例え話をしてくれました。コップに入った水が、アーティストの手を離れていろいろな人の手にわたっていく。それは、たとえばプロデューサーや作曲家、アレンジャー、それからレーベルの人。リスナーの手に届いたころには、そのコップがみんなの指紋ですごく汚れてしまっている。
それに対して、このアルバムを本当に最初から最後まで見届けたのはわたしであり、ちょっとスティーヴが関わっているだけ。ローラ・マヴーラそのものなんです。その分、全責任がわたしに降りかかってくるということ。このアルバムに対して、共感するかしないかっていうのも、すべてわたしにかかっているんです。
トロイ・ミラーとの出会い
──今回来日すると決まったとき、このアルバムをどうやってアレンジするのか、非常に興味がありました。アルバムとライブでの演奏が少しちがうというのはよくあることですが、ローラさんに関して言えば、アルバムがそのまま聴こえてくるようでした。
そう言ってもらえるとうれしいです! アルバムをつくり終えたとき、まず「ライブどうしよう」っておもったんです(笑)。レコード会社から、22人のミュージシャンを連れてツアーに出られるような予算は出ないだろうし、ましてやハーモニーのパート用にコーラス隊をたくさん連れていくわけにはいかない。そんなときに、プロデューサーのスティーヴが、エイミー・ワインハウスのドラマーをやっていた、トロイ・ミラーを紹介してくれたんです。
はじめて会うときは緊張しましたが、実際に会ってみたらすごくいい人で、わたしの音楽も気に入ってくれたので、彼にライブの音楽監督をお願いしたんです。彼も「ぜひやらせてくれ」って言ってくれて、ふたりでどうするのがいいかを考えました。できるだけ少ない人数で、できるだけ小さい会場を選んで音を再現する。それと同時に、大きいステージを満たせるだけの音を出すには、どういう編成がいいかということも考えました。チャレンジングな経験でしたが、できあがったものにとても満足しています。
──それでは最後の質問を。この番組恒例なんですが、あなたにとって音楽とは? ひと言でお願いします。そして、あなたにとって人生の転機となった曲、大きな影響を受けた曲を教えてください。
わたしにとって、音楽とは生きる喜びを与えてくれるもの。そして影響を受けた一曲は、ニーナ・シモンの「リトル・ガール・ブルー」です。
Nina Simone / Little Girl Blue (Bethlehem)
松浦俊夫『TOKYO MOON』
毎週日曜日23:30~24:30 ON AIR
Inter FM 76.1MHz
『TOKYO MOON』へのメッセージはこちらまで
moon@interfm.jp
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