『リル・バック ストリートから世界へ』公開。リル・バック氏本人インタビュー|MOVIE
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2021年8月19日

『リル・バック ストリートから世界へ』公開。リル・バック氏本人インタビュー|MOVIE

MOVIE|『リル・バック ストリートから世界へ』

タフな街に育った少年が唯一無二の世界的なダンサーになるまでを描くドキュメンタリー

ドキュメンタリー映画『リル・バック ストリートから世界へ』が2021年8月20日(金)に公開される。ダンサーであるリル・バック氏が、いかにして世界的なパフォーマーとなり、地元であるアメリカ・メンフィスの子供たち憧れの存在なったのか。彼はインタビューで何を語るのか。

Text by WASEDA Kosaku(OPENERS)

「ダンスがあったから、ギャングにならなかった」

全米有数の犯罪多発地域で、公民権運動のキング牧師が暗殺された場所としても知られるテネシー州、メンフィス。そこでチャールズ・ライリー(愛称リル・バック)は育った。そして徐々にメンフィス発祥のストリートダンス“メンフィス・ジューキン”にのめり込んでいく。映画の中で“ジューカー(ジューキンを踊る人)”たちが証言する。「俺たちは人殺しになるより、ダンスがしたい」。
「ダンスが上手くなりたい」。それだけを願った少年は、やがて奨学金を得てクラシックバレエにも挑戦、ジューキンとバレエを融合させ、名曲「白鳥」(「瀕死の白鳥」)を踊った。その「白鳥」を世界的チェロ奏者ヨーヨー・マが見て、チャリティ・パーティーに彼を招いて共演も果たした。
そこに偶然、『her/世界でひとつの彼女』の映画監督スパイク・ジョーンズが居合わせ、驚異的なダンスに目を奪われ、携帯で撮影して動画を投稿。その1本の動画が、リル・バックの運命を変えた。
本作は、タフな街に育った少年が唯一無二の世界的なダンサーとなり、メンフィスの子供たちの光になるまでの軌跡を描く感動的なドキュメンタリーだ。圧巻のダンスパフォーマンスに圧倒されることはもちろん、本人によるナレーションでリル・バック氏の人となりまで体感できる作品に仕上がっている。

『リル・バック ストリートから世界へ』予告編

リル・バック氏本人インタビュー

ーーこの映画はあなたについてのドキュメンタリーですが、映画を初めて観たとき、どんな感想を抱きましたか。また自分自身で気にいっているシーンはどこですか。
リル・バック(以降LB) 正直いうと、この映画のオファーをもらった時、最初に考えたのは「僕がこの映画をやるのは早すぎるんじゃないか」ということでした。映画から観客が何かしらを得ることができるんだろうか、皆が映画を観たときにインスピレーションを与えられるほどには自分はまだビッグじゃないんじゃないかって。でもこうして日本でも公開してくれるということが、それに対する答えなんだと今では思っています。最初は躊躇う気持ちもあったけど、実際のところは、映画を観て僕は安心したんです。映画にはダンサーをはじめメンフィスの人たちがたくさん出ていて、彼らの話を皆に聞いてもらえるのはすごく嬉しいことですから。それが僕にとってこの映画のとても大事な要素です。

だから、気に入っているシーンは、他のダンサーたちへのインタビュー。メンフィスに生まれたダンスとともに生まれ育った人たちの声をぜひ聞いて欲しいですね。もう一つは、僕が子供たちを教えているシーンが好きです。僕の経験を通して、何かを得て何かを体験できる子供たちがたくさんいることは、僕にとって重要です。
ーールイ・ヴィトンやヴェルサーチェ、シャネルといったハイブランドとのコラボレーションを数々やってらっしゃいますが、そうしたコラボを通じて学んだこと、自分の世界が広がったと実感したことはありますか。
LB 多くのことを学び、世界が広がったと思います。ハイブランドというと、それに使ったお金のことばかり注目する人がいますけど、僕がすごいと思うのはそういうブランドの芸術性です。例えば、洋服のブランドなら、それをデザインする彼らは本物の芸術家です。そのデザイン、造形、世界にそれを差し出す方法には、とてつもない芸術性があります。僕はそれにインスパイアされています。彼らが持つアートのポジティブな影響力を、僕も手に入れたいと思ってもいます。

ファッションブランドとコラボする機会がほしいと思っていた理由の一つには、僕がそれらを身に着けたいと思いながら育ってきたこともあります。僕の家は小さい頃貧しくて、ヴェルサーチェの靴を履きたいとかグッチのパンツを身につけたいとか、それはささやかで、でも大きな夢でした。その頃の僕にはそんな贅沢品は買えませんでしたからね。

またダンスを学んでいくにつれて、ダンサーとして尊敬されるためには外見にも注意を払わないといけないと気づきました。僕のダンスには常にファッショナブルな側面があります。それもハイブランドとコラボしたいと思った理由の一つでした。

でも、僕が最終的に学んだことは、最初に言いましたが、このようなハイブランドの裏側には真の芸術性があるということです。多くの人はそれらの商業的側面ばかり見るけれど、内側から見る視点に立てば、彼らは本物の芸術家です。僕の友人には商業化された世界とは仕事をしたくないと考える人もいて、そこには彼らなりの理由がありますが、僕は違った観点からハイブランドを尊敬しているし、その裏側に芸術性があるという点で友人とは違う考えを持っています。
ーーリル・バックさんといえばスニーカーでのダンスです。ナイキのエア・ジョーダンなどとコラボレーションされた動画も素晴らしかったし、シャネルやヴェルサーチェともスニーカーのコラボをしていると聞きました。ダンスのときに履くスニーカーにどんなこだわりがありますか。また特にお気に入りのスニーカーがありますか。
LB まず、こだわりという点では科学的な問題があります。どんなサーフェス(表面)で踊るかによるわけです。堅い木のフロアなのか、コンクリなのか、スタジオの床なのか。どんなサーフェスで踊るかによってシューズを選んでますね。

僕はナイキを履いて踊ることが多いです。踊りやすい靴底で、つま先で立って踊っていてもとても楽です。その靴底を使うことで、滑って踊るムーヴなどがやりやすくなります。今気に入っているスニーカーは2つあって、ジョーダン3とエアグリフィーです。エアグリフィーはケン・グリフィー・ジュニアという野球選手がナイキとコラボしたスニーカーです。僕のダンスの秘密になっているスニーカーですね。

その他、よく履いているのは、エアフォース1。ジョーダン11も、雲を履いているような気分になれる素晴らしいシューズです。でも僕はシューズの側面を下にしてスピンすることが多いので、そうなるとすぐに裂けてしまい、長持ちしない。もちろん、誰も僕みたいにスニーカーを履いてスピンしたりしないですけどね(笑)
ーー友人であるダンサーのジョン・ブーズさんとM.A.I.で発表している作品はどれも感動的ですが、特に画家のアレクサ・ミードさんと共同で作った『Color of Reality』にとても感動しました。ダンスで世界を変えるというM.A.I.の活動の中で、ブラック・ライヴズ・マターはとても大きなミッションだと思うのですが、今後M.A.I.でどんな活動を考えていますか。
LB M.A.I.は基本的に、ストリートダンスを使って伝えるショートフィルムを作るプロジェクトです。そこで僕らは、自分たちにとって大きな意味を持つさまざまな物語を語っています。僕たちの身の回りに根差していて、社会を変える助けになるような物語を。だから僕たちは『Color of Reality』を作って、今アメリカで起こっている警察権力による暴力やブラック・ライヴズ・マターの問題を描きました。それは僕たちの身の回りで起こっていることです。また僕たちは『Am I A Man』というショートフィルムを、活動家で弁護士のブライアン・スティーブンソンとのコラボで作りました。黒人の刑事収容に関する作品です。僕たちはいつも、耳を傾けられるべき物語を語るため、身の回りの社会で起こっているさまざまな出来事に注意を向けるためにM.A.I.の活動を行なっています。最近は『ブラインドスポッティング』という多くの社会問題を扱ったテレビシリーズのために振付をしました。それぞれのエピソード内で語られる物語をより高めるためにダンスを使っているので、ぜひ見てください。
ーー日本の観客へのメッセージを
LB 僕がこの映画から受け取ってほしいのは、生まれがどこだろうと、どんな文化や環境の中で育っていようと、何かに情熱を持ち、自分の愛することをやっているなら、何ものにもそれを止めさせるなということ。他の誰かの意見に、自分のやりたいことを支配されないでほしいということです。自分には成し遂げられるんだと信じてほしい。伝えたいのは、人はどんな方向にだって自分の人生を向けられるということ。ビッグになりたいというのでもいいし、ただダンスがしたいというのでもいい。自分の気持ちを声に出して。それを人に届ける。あなたにはその力がある。世界があなたを信じてくれないなら、それ以上に自分のことを信じてほしい。それがこの映画で伝えたいことです。この映画を観て、僕という人間を知ることで、もっとみんなが自分のことを信じるようになってほしいと思います。
『リル・バック ストリートから世界へ』
公開日|8月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺他全国順次公開
©️2020-LECHINSKI-MACHINE MOLLE-CRATEN “JAI” ARMMER JR-CHARLES RILEY
原題|LIL BUCK REAL SWAN|2019年|フランス・アメリカ|ドキュメンタリー|85分
監督|ルイ・ウォレカン 配給:ムヴィオラ

問い合わせ先

公式サイト
http://moviola.jp/LILBUCK/

                      
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