MOVIE|『アデル、ブルーは熱い色』主演、アデル・エグザルコプロス単独インタビュー
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2015年2月2日

MOVIE|『アデル、ブルーは熱い色』主演、アデル・エグザルコプロス単独インタビュー

MOVIE|映画界を席巻する20歳の素顔に迫る!

『アデル、ブルーは熱い色』

主演 アデル・エグザルコプロス単独インタビュー(1)

愛の喜びと悲しみをリアルに描き出した『アデル、ブルーは熱い色』。昨年のカンヌ国際映画祭では、監督だけではなく、主演女優の二人にも最高賞「パルムドール」が送られるという、史上初の快挙を成し遂げて話題となった作品だ。恋に落ちた瞬間の稲妻のような衝撃、相手を求める終わりのない情熱、愛を失いかけたときの息もできないほどの痛み――。どこまでも「リアリティ」を追求する異才、アブデラティフ・ケシシュ監督のもと、究極の愛を表現してみせたのは、弱冠20歳のアデル・エグザルコプロス。いま世界中から出演オファーが殺到しているイット・ガールを直撃した。

Photographs (interview) by MAEDA Kozue
Text by TANAKA Junko (OPENERS)

これはレズビアンの映画じゃない

いまやフランスを代表する映画監督の一人と言って間違いないだろう、アブデラティフ・ケシシュ。チュニジア出身の彼は、2000年に『ヴォルテールのせい』で監督デビューを果たして以来、ベネチア国際映画祭の金獅子賞、セザール賞(フランス版アカデミー賞)の最優秀作品賞、最優秀監督賞など、名だたる映画賞を総なめにしてきた。

だが、どれだけ優れた監督であっても、いい役者がいなければ映画は成立しない。演技経験のあるケシシュ監督は、そのことをよく理解しているとみえて、撮影現場ではつねに役者の声に耳を傾け、彼らとともに作品を作り上げていく。そうして役者の魅力を最大限に引き出すのが彼の真骨頂だ。

そして今回、5作目となる『アデル、ブルーは熱い色』で、あらたに一人の役者の才能が開花した。アデル・エグザルコプロス。20歳ながら、実はすでに10年近くのキャリアをもつ女優だ。監督はひと目見た瞬間に「彼女だ!」とひらめいたそうだが、それから3カ月のあいだ、アデルは“待ちぼうけ”をくらうことになる。

アデル・エグザルコプロス 02

「オーディションというのは、いつもいろいろな要素が複雑に絡み合ってきます。撮影のタイミングや、そのときの自分の状態、監督がどんな人物を求めているか。ですから、最初に会った時点では、自分が選ばれるなんて、ましてや彼がそんな風に思ってくれているなんて、知るよしもなかった。

何度目かのオーディションのあと、ケシシュ監督から連絡がきて、カフェで会うことになりました。どちらかといえば物静かな人なので、なかなか話を切り出してくれなくて。沈黙が流れるなかで、『あぁ、選ばれなかったな』と思っていました。

ところが数日後、また連絡があったので会いにいってみたら『あなたに決めたから。もう安心していいよ』って言うんです。天にも昇る心地でしたけど、驚きの方が大きかった。だって最初に会ってから3カ月間、それらしい話をまったくしてくれなかったので(笑)」

『アデル、ブルーは熱い色』は、監督が惚れ込んだというジュリー・マローのコミック『ブルーは熱い色(原題:Le bleu est une couleur chaude)』を実写化した作品だ。アデルに与えられた役は、フランスの高校に通う15歳の主人公、アデル。

同世代の男の子とデートしても、なんだかしっくりこない――そんな彼女の前に、青い髪をした年上の女性、エマ(レア・セドゥ)があらわれたことから、心のなかにあたらしい“なにか”が芽生えはじめる。はじめて愛を知った彼女は、もがき苦しみながら、一人の女性として、一人の人間として、成長を遂げていく。「女性同士の恋愛」という、一見難しく思えるテーマに、アデルはどんな準備をして挑んだのだろう。

『アデル、ブルーは熱い色』 03

『アデル、ブルーは熱い色』 04

© 2013- WILD BUNCH - QUAT’S SOUS FILMS – FRANCE 2 CINEMA – SCOPE PICTURES – RTBF (Télévision belge) - VERTIGO FILMS

「役作りは一切していません。というのも、私たちが描きたかったのは、レズビアンカップルや同性愛の話ではなく、二つの個性が惹かれ合い、ぶつかり合って、別れを迎えるまでの恋愛模様。そこに性別は関係ありません。女性同士のカップルが、どんな風に愛し合って、キスして、おしゃべりするか。それをリサーチして、彼女たちの真似をしたり、頭でっかちになるというのは、まさに“してはいけないこと”だったんです。

ただ(レズビアン役を演じた)レアの方は、時間をかけてリサーチしたと思いますよ。男性っぽい、野性的なしぐさを身に付けなくてはいけなかったので。一方わたしの役は、どこにでもいる普通の女の子。特に彼女の年頃というのは、まだ人生が白紙なわけですよね。これからいろいろな経験を重ねていくなかで、『自分がどういう人間か』というのを知っていく段階です。

恋をするのも、これが彼女にとってはじめての体験。恋愛は人と分かち合う喜びを教えてくれる、人生でもっとも美しい体験のひとつですが、恋に破れたときには、とてつもない孤独感に襲われる。そうした恋愛にまつわる感情の奥深さを、わたしも役を演じながら一緒に体験しました」

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『アデル、ブルーは熱い色』

主演 アデル・エグザルコプロス単独インタビュー(2)

光を与えてくれるような経験

監督は主人公にアデルを抜擢したあと、原作ではクレマンティーヌだった名前を、アデルという彼女自身の名前に変更した。そのことについて「自分と役を融合させるのに役立ったと思います。やはり自分の名前で呼ばれると、体が勝手に反応してしまいますから。たとえそれが、自分の意志で動いていなかったとしてもね」とアデル。

監督を惹きつけたのも、そうした役作りに対する彼女の「本能的」な姿勢。起用した理由を「レアが理性的なのに比べて、アデルは本能的な女優だと思ったから」と語っている。

「彼がそう話していたのなら、その通りだと思います。監督はわたしのことを、わたしよりよく知っているので(笑)。実際にレアとわたしは、まったくちがうタイプ。特に役作りの面においてはそう。自分の演じる役について、前もってきちんと勉強してくるのがレアだとすると、わたしはもっと直感的。

『アデル、ブルーは熱い色』 7

© 2013- WILD BUNCH - QUAT’S SOUS FILMS – FRANCE 2 CINEMA – SCOPE PICTURES – RTBF (Télévision belge) - VERTIGO FILMS

だけど撮影初日、『わたしの役はこうで』というのを、レアが言葉巧みに説明しているのを目の当たりにしたとき、『準備が足りなかったんじゃないか』と不安になって、みんなの前で泣き出してしまったことがありました。そのときに監督が『心配しないでいいよ。ぼくは君のことを信じてるから』と言ってくれたんです。『そのままでいいんだ』ってね」

かくして、ありのままの自分を受け入れてくれる監督のもと、全身全霊をかけて役になり切ったアデル。まるで隠しカメラで撮られているような迫真の演技は、カンヌ国際映画祭など各地で絶賛を浴びた。

「ケシシュ監督というのは、つねに真実を追い求める人。演技を完全に取り除くことはできないのを承知のうえで、できるだけ現実に近いものを描こうとするんです。それは性別や国籍のちがいにかかわらず、あらゆる人が感情移入できる作品を生み出したいと思っているから。

監督の思いを実現するために、私たち役者にできることといえば、自分たちのもっているものをすべて投げ出すこと。それしかないんです。その代わり、彼は私たちを台本でしばりつけることもありません。即興で指示が出されて、それに即興で応えていくというやり方。撮影現場では一般的な、動線を示したテープも見当たりませんし、台詞を言うタイミングも私たちに委ねられています。

『監督も役者も一緒になって、みんなでひとつの作品を作り上げていこう』というのが彼のスタイル。即興も大歓迎。役者の意見も大歓迎。監督が提案したアイデアが気に入らないときは、それも臆せず口に出すことができる。そういうなかに身を置いていたので、自分にとって無理のない、ごく自然なリズムで撮影を進めることができました」

アデル・エグザルコプロス 9

アデル・エグザルコプロス 10

おなじ演出がなされていても、人によって受け止め方がちがうのは当然のこと。もう一人の主人公、エマを演じたレア・セドゥは、あるインタビューで「監督の演出がとても厳しく、撮影は苦痛で仕方なかった」と語り、ちょっとした物議を醸した。アデル自身は、監督のやり方をどう受け止めていたのだろう。

「監督のやり方は特別です。完璧主義で、慣習というのものにまったくとらわれない。少しでもうまくいかなかったテイクは絶対に使いませんし、神の恩寵(おんちょう)のような、奇跡の瞬間が生まれるまで、根気強く待ちつづける人。彼との仕事は、わたしを一回りも二回りも大きくしてくれました。

即興で演技すること、すべてを投げ出すことを覚えましたし、人を信頼することの大切さも学びました。この作品にかかわる前は、役者としても人間としても、まだ未熟な部分がありましたが、そういった部分を一気に鍛えてもらった気がします。わたしに光を与えてくれるような、そういう経験でしたね」


アデル・エグザルコプロス 12

Adèle Exarchopoulos|アデル・エグザルコプロス
1993年、フランス・パリ生まれ。中学校で演劇に興味をもち、高校時代にキャスティング・ディレクターの目に留まる。そのときのプロモーション・ビデオが評判となり、2005年にジャン=シャルル・ユーの中編作品『Martha』に初出演。さらに翌年には、ジェーン・バーキン初の長編監督作品『Boxes』に出演。その後も順調にキャリアを重ね、2011年にはフランス映画アカデミーが選ぶ「30人の有望俳優」に選出。本作で見せた自然な演技と、圧倒的な存在感が評価され、先月セザール賞の新人女優賞に輝いたばかり。いま世界中から出演オファーが殺到している“イット・ガール”だ。

『アデル、ブルーは熱い色』
4月5日(土)より、新宿バルト9、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラスト有楽町ほか全国ロードショー
監督・脚本|アブデラティフ・ケシシュ
原作|ジェリー・マロ『ブルーは熱い色』
出演|レア・セドゥ、アデル・エグザルコプロス、サリム・ケシゥシュ、モナ・ヴァルラヴェンほか
配給|コムストック・グループ
2013年/フランス/179分/R18+/原題『La Vie d'Adèle - Chapitres 1 et 2』
http://adele-blue.com

           
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