MOVIE│サンダンス映画祭で作品賞、観客賞に輝いた『フルートベール駅で』
MOVIE│3歳の娘を残し、警官に殺害された名もなき青年の最後の1日
サンダンス映画祭で作品賞、観客賞に輝いた『フルートベール駅で』(1)
2009年にアメリカ・サンフランシスコで22歳の黒人青年が警官に銃で撃たれて死亡したという全米で社会現象となった実際の事件を新人監督ライアン・クーグラーが映画化した『フルートベール駅で』。3月21日(金・祝)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開される。
Text by YANAKA Tomomi
監督の才能にほれ込んだオスカー俳優、フォレスト・ウィテカーが製作に名乗りを上げる
インディペンデント映画最大の祭典として知られ、毎年あたらしい才能が発掘されることで知られるサンダンス映画祭。昨年、作品賞と観客賞のダブル受賞という快挙で話題をさらい、カンヌ国際映画祭でも「ある視点部門フューチャーアワード」を受賞した『フルートベール駅で』が、いよいよ日本でもロードショーされる。
メガホンを取ったのは、1986年生まれというライアン・クーグラー監督。長編デビュー作でありながら、観客の心をわしづかみにするような作品を描き出し、一躍、アメリカ映画界の担い手として期待される存在に。また、製作には、クーグラー監督の才能にほれ込んだオスカー俳優のフォレスト・ウィテカーが名を連ねた。
主演のオスカー・グラントには『クロニクル』のマイケル・B・ジョーダンが熱演。その母親役にはこちらもオスカー女優のオクタヴィア・スペンサーが演じ、物語に深みを与えている。
新年を祝う花火を恋人と見に行くオスカー
サンフランシスコに住む22歳のオスカー・グラントは、前科者だが、心優しい青年だ。恋人ソフィーナと彼女の間に生まれた3歳の愛娘タチアナとともに目覚めた大晦日は、いつもとおなじようにタチアナを保育園に、ソフィーナを仕事場に送り届けた。
クルマでの帰り道、今日が誕生日という母親のワンダに電話をし、「おめでとう」と伝えたオスカー。新年を迎えるにあたり、良い息子、良い夫、良い父親に生まれ変わろうと決意をあらためるのだった。
そして、夜には家族や親戚が揃って母の誕生日を祝い、オスカーとソフィーナは仲間たちと花火を見に行くことに。カウントダウンを祝い、花火を見た帰りに事件は起こる――。
歓喜に沸くひとたちでごった返すサンフランシスコ「フルートベール駅」。ケンカに巻き込まれたオスカーは警官にホームへと引きずり出され、丸腰のまま銃で撃たれて死亡した。
3歳の娘を残し、オスカーはなぜこのような悲惨な死を迎えることになったのか。けっしてニュースを見ているだけではわかならい、一人の人間の命の尊さ、重さを“人生最後の日”をとおして観る者に訴える。
MOVIE│3歳の娘を残し、警官に殺害された名もなき青年の最後の1日
サンダンス映画祭で作品賞、観客賞に輝いた『フルートベール駅で』(2)
――この作品を作ろうとあなたを駆り立てたものはなんだったのですか?
「この作品を作らなければ」とぼくを駆り立てさせたのは、事件そのものとその余波だった。事件が起こったとき、ちょうどクリスマス休暇で学校からベイエリアに戻ってきていて、Bay Area Rapid Transit(ベイエリア高速鉄道―以下BART)の駅で誰かが撃たれ、次の朝に息を引き取ったと聞いた。元日にニュース映像を見てすごく心動かされた。オスカーはぼくであってもおかしくなかったと思ったんだ……。年も同じぐらいだったし、彼の友人たちはぼくの友人たちと似ていたし、こんなことがベイエリアで起こったことに大きなショックを受けた。
裁判の間、状況が政治化するのを目の当たりにしていた。その人の政治的な立ち位置によって、オスカーは彼の生涯の中でなにひとつ悪いことをしていない聖人か、または受けるべき報いをあの晩受けた悪党かのどちらかに分かれた。その過程で、オスカーの人間性が失われてしまったようにぼくには感じたんだ。
映像、裁判、そしてその余波によって、ぼくはとてつもない無力感に陥った。ベイエリアコミュニティの人の多くが抗議活動に、そしてその他の人々も集会やデモに参加した。また、自暴自棄からの暴動もたくさん起きた。ぼくも状況を変えるためになにかしたいと思って、映画を通してこの話に命を吹き込み、オスカーのような人物と観客とが一緒に時間を過ごす機会を作れれば、このような出来事が再び起こるのを減らせるかもしれないと思ったんだ。
――作品を発展させるのに必要とした時間は? なにか障壁はありましたか?
プロデューサーのフォレスト・ウィテカーに作品を売り込んだのと同時期に、アウトラインを作りつつ、遺族の弁護士を務めるジョン・ブリスと組んでいる友人エフライム・ウォーカーから公式記録を取り寄せ始めた。シグニフィカント・プロダクションズが作品にゴーサインを出した後、遺族に会いに行って、オスカーの物語の権利をシグニフィカントに保有させてくれるよう売り込んだ。
遺族側の信頼を勝ち取るのが本当に大変で、いかなる場合でもこの話を煽情(せんじょう)的に扱うことはしないと保証しなければならなかった。ぼくがやりたかったのは、オスカーと同年代で、人口統計的にも同じところに属する人間の視点とベイエリアからこの物語を語ること。これには時間がかかったね。遺族にぼくが製作した短編を見せて、ぼく自身のことも話し、なぜ独立系映画の視点からこの物語が語られるべきだと思うか説明した。最終的に遺族はこの映画を進めることを承諾してくれたんだ。
もうひとつ困難だったのは、低予算で作りながらも、ある一定の芸術性を保つことだった。我々はベイエリアで、そしてスーパー16ミリで撮影したかった。これらのことは、物事を創造的に解決していくことと、早いペースで進めることを意味していた。撮影期間は20日間で、キャスティングに関してはコネがなにもなかった。製作が終わってもこの怒濤のスケジュールは終わらなかった。2012年7月に撮影して、6カ月後にはサンダンスで上映していたからね。このスケジュールは本当に大変で、関わったすべての人々にとってストレスの種となった。
一番難しかったのは、実際のロケ地――主にBART――で撮影したかったこと。BARTの駅や電車でのシーンをどう撮るのかについては心配が尽きなかった。同社や地域にとってこれが痛みを伴う出来事だっただけに、協力を疑問視する人が多かったんだ。彼らに会って、プロジェクトの内容を説明し、なぜBARTの施設内で撮影したいのかを説明した。ぼくらの売り込みを聞き、彼らは製作に協力することを承諾してくれたんだ。
――オスカー・グラントの物語は全国的なメディア狂乱を巻き起こし、大論争と報道の加熱に繋がりました。なぜこの物語をドキュメンタリーではなくドラマにしようと思ったのですか?
この作品をドラマにしようと思ったのにはいくつか理由がある。まずひとつは、このような出来事は繰り返し起こるから、時間を空けずに作りたかった。フィクション映画製作がノンフィクション映画製作に対する利点のひとつに、早く完成できるということがある。ぼくの好きなドキュメンタリーはみんな完成までに数年かかっていたからね。もう一つの理由は、キャラクター先導のフィクション映画とドキュメンタリー映画の視点の違い。ぼくが個人的に思っていることだけど、うまく作りさえすれば、ドラマの方がドキュメンタリーよりも登場人物に深く感情移入させられる。この作品では、観客にオスカーをできるだけ身近に感じてもらいたいと思っていたから、自分が撮影されることを意識することから来る違和感をできるだけ避けたかった。ドキュメンタリー映画ではえてしてそれが障壁となるんだ。タイトなスケジュールの場合は特にね。
――オスカーが撃たれたことやその悲劇の死について知ってもらう他に、この作品で世の人々にオスカー・グラントについて知らせたいことはなんですか?
オスカー・グラントが確かに存在していたことを観客に伝えたいね。あがいていたり、個人的な葛藤を抱えていたけれど、希望や夢や目標をもった人だった。そして彼がもっとも愛していた人たちにとって、彼の命がとても大切だったことも。この作品を通じて、新聞の見出しを読むだけでは得られない、オスカーのような人物に近しさを感じてもらえたらいいなと思っている。
『フルートベール駅で』
3月21日(金・祝)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
監督・脚本│ライアン・クーグラー
出演│マイケル・B・ジョーダン、オクタヴィア・スペンサー、メロニー・ディアス
配給│クロックワークス
2013年/アメリカ/85分/PG12
http://fruitvale-movie.com
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