MOVIE|世界三大映画祭を踏破した「パラダイス3部作」が日本上陸
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2015年2月2日

MOVIE|世界三大映画祭を踏破した「パラダイス3部作」が日本上陸

MOVIE|ウルリヒ・ザイドル監督が欲望のままに突き進む女たちを描く

世界三大映画祭を踏破した「パラダイス3部作」が日本上陸(1)

知られざるオーストリアの実力派監督、ウルリヒ・ザイドル。彼の手がけた話題の3部作が、2月22日(土)からユーロスペースほかで一挙に公開される。

Text by OPENERS

4年をかけて制作された、入魂の3部作

ポスト・ミヒャエル・ハネケと呼び名の高い、オーストリアの映画監督、ウルリヒ・ザイドル。作品を発表するたびに、そのスキャンダラスな内容が物議を醸し、各国の映画祭を賑わせてきた実力派だ。名画のような完璧な構図の中に、人間の真の姿を冷徹に描写しながら、対象への尽きない興味と愛情をも感じさせる作風は、多くの映画監督を魅了し、大御所ヴェルナー・ヘルツォークやジョン・ウォーターズなどがその才能へ惜しみない賞賛を送っている。

ウルリヒ・ザイドル監督

2012年のカンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、2013年ベルリン国際映画祭と、世界三大映画祭のコンペティション部門に出品され話題となった「パラダイス3部作」がついに日本で公開。

現実社会では手にできない理想的な愛に満ちた“楽園(パラダイス)”を求め、危険な一線を越えてしまう3人の女たちをオフビートなユーモアを交えて描いた、3つの物語だ。

3人の女性それぞれの“欲望”とは?

第1話の『パラダイス:愛』では、ケニアの美しいリゾートで現地青年との愛にのめり込む中年女テレサ、第2話の『パラダイス:神』では、愛の拠りどころを過剰なまでにイエス・キリストへ求めるテレサの姉アンナ・マリア、そして『パラダイス:希望』では、ダイエット合宿で父親ほど年の離れた男に恋をするテレサの娘のメラニーが主人公だ。

夏休みのひととき、凡庸な日常を抜け出した彼女たちは、欲望に身を委ね、三人三様の方法でパラダイスに向かって猛進する。だれもが隠し持つ人間の性を剥き出しにした女たちの行き着く先は、必ずしも幸福ではない。しかし、この3部作が、人間の根源的な欲望を見つめる眼差しは、そこはかとない慈愛をおび、むしろ彼女たちをパラダイスに駆り立てる社会の無言の圧力に対して疑いの目を向ける。

ドキュメンタリーで培った方法論をフィクションの現場に応用し、徹底的にリアリティを追求する、完璧主義者として知られるウルリヒ・ザイドル監督。本作もプロの俳優と演技経験のないアマチュア双方を起用し、周到に作り込まれた場面設定の中で、俳優に即興で演じさせて制作された。脚本には台詞がないというから驚きだ。

観る者を刺激し、激しく揺り動かす、衝撃の3部作を体感したい。

『パラダイス:愛』

『パラダイス:愛』

出演|マルガレーテ・ティーゼル、ピーター・カズング、インゲ・マックス

オーストリア・ドイツ・フランス/2012年/120分/R-15

『パラダイス:神』

『パラダイス:神』

出演|マリア・ホーフステッター、ナビル・サレー

オーストリア・ドイツ・フランス/2012年/113分/R-15

『パラダイス:希望』

『パラダイス:希望』

出演|メラニー・レンツ、ジョセフ・ロレンツ

オーストリア・ドイツ・フランス/2012年/91分/R-15

パラダイス3部作

2月22日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー

監督|ウルリヒ・ザイドル

配給|ユーロスペース

http://www.paradise3.jp

MOVIE|ウルリヒ・ザイドル監督が欲望のままに突き進む女たちを描く

世界三大映画祭を踏破した「パラダイス3部作」が日本上陸(2)

ここでは、ウルリヒ・ザイドル監督のインタビューをお届けする。渾身の3部作に込めた彼の思いとは?

「美化しない」映画作り

──3部作のタイトルを「パラダイス」と名づけたのはなぜですか?

聖書の感覚では、パラダイスは永遠の幸せを約束するもの。しかし観光産業においては、太陽、海、自由、愛そしてセックスに対する欲望を多くの人に呼び起こさせる言葉としてよく乱用されています。だからこのタイトルは、実現されていない夢と欲望を自覚しようとしている3人の女性を描いた、3作品すべてを象徴している言葉なんです。

──なぜ女性だったのでしょう。

それは、わたしが女性の映画を作る映像作家だからです。この映画はいくつか異なる出発点から生まれています。ひとつには、わたしは長い間、50代の女性を主人公にした映画に興味がありました。妻のヴェロニカ・フランツと、6つのエピソードからなる脚本を書いたことがありましたが、それはどれも“第三世界”と呼ばれる地域における、西洋人観光客のある種のバケーションを扱っていました。そのなかで「セックス観光」というテーマを何度も扱っていたのです。

私たちは今回、それを2人姉妹とその娘という家族の話に発展させました。3人の女性は、美の理想が普通とは違う男性──ミシェル・ウェルベックやエルフリーデ・イェリネクを引用すれば、市場価値の低い男性を探し求めています。つまり彼女たちは性的に満足することを求め、さらには愛さえも求めている。『愛』の場合、それはアフリカの黒人男性なのです。

『パラダイス:愛』

──当初は1本の映画として考えられていたそうですね。

今回は従来通りの脚本は書きませんでした。シーンごとに細かく描写していましたが、それぞれの話の筋は短編小説のように独立していて、重なり合ってはいません。編集台のうえで、ようやく関係性が生まれるわけです。

これはわたしの方法論ですが、基本的には、完成した台本をただ実行するのではなく、準備段階や撮影中に起こることを取り入れていきます。そして、可能な限り時系列に沿って撮影し、その作業があたらしい方向性やアイデアに対して、開かれていることを確認しながら進めていきます。どの映画であっても、つねに自分自身にあらたなチャレンジを課すことを心がけています。「パラダイス3部作」では、必要に応じて俳優が彼ら自身として物語にあらわれるように撮ることを目論んでいました。

撮影した素材は80時間にものぼり、3つの物語をお互いに関連づけようと、膨大なラフカットとともに、1年半という時間を編集室ですごしました。部分的にはうまくいきました。それでも、5時間半の作品として機能したバージョンはただのひとつもありませんでした。物語が互いに強化されるどころか、弱め合ってしまったのです。結局、1本ではなく3本の独立した映画にすることが、ベストな方法だという結論にいたりました。それはそれで簡単な決断ではありませんでしたが。

──ケニアのセックス観光、ウィーンの過激な布教活動、青少年のダイエット合宿。なぜこのような設定に?

3人の女性が恋に落ち、愛を経験し、その過程で失望する。10代の肥満の子のためのダイエット合宿で夏休みをすごす少女にとって、それは人生ではじめての恋であり、絶対不変です。愛(もしくはセックス)を求めてケニアを旅する彼女の母親にとっては、それは積年の失望の末の意識的な選択です。

そして母親の姉は、ほかでもなくイエスを愛し、だからこそ精神的で完全に知性的な性愛なわけですが、それがいささか行きすぎてしまいます。地上で得られないものを、約束されたパラダイスである“天国”に望んでしまうのです。

『パラダイス:神』 07

『パラダイス:神』

──映画はルシアン・フロイドの絵画、たとえば彼の描くヌードの致命的なはかなさを想起させます。

わたしの映画作りにおいて、肉体の描写は欠かせません。至近距離から肌を捉え、ありのままの肉体を見せたいのです。わたしにとってそれは「美化しない」ということですが、人びとがそこに「美のようなもの」を見出します。社会的圧力によって屈折してしまうのは問題です。どうして世の女性たち、そして男性たちは、自分の体を社会的に定められた基準に合わせようとするのでしょうか。

『パラダイス:希望』

『パラダイス:希望』

──3作品をひとつのものとして観てほしいと繰り返し述べられていますが、それはなぜですか?

3部作はそれぞれが独立しています。第2話、第3話を観るために第1話を観る必要はありません。しかし3部作を順に観る機会に恵まれたなら、バラバラに観るよりも、観客の心により深く豊かな宇宙が広がるでしょう。3作は激しく感情的で、関連をもつように作られています。しかし主人公の3人の愛、性欲、体との付き合い方は、それぞれ異なっているはずです。

──どのように3部作の順番を決めたのですか?

編集室にいるときには、長い間、娘を描いた『希望』が母親の次、第2話だと思っていました。そしてもっとも強力で難解な『神』が最後になるはずだったのです。でもある日、『希望』を最後にしてみたところ、解放感がありました。救いがあったのです。途端に3部作として機能しはじめました。

Ulrich Seidl|ウルリヒ・ザイドル

1952年生まれ。オーストリア・ウィーン在住。ヴェルナ―・ヘルツォークは好きな映画監督10人のうちの1人にザイドルの名を挙げ、『Animal Love』(1995年)について「わたしはザイドルほどには地獄の部分を直視していない」と評している。初の長編作品『ドッグ・デイズ』(2001年)はヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞。つづく『インポート・エクスポート』(2007年)は、カンヌ国際映画祭のコンペティション作品に選出される。4年を費やして制作された「パラダイス3部作」は、世界三大映画祭であるカンヌ、ヴェネチア、ベルリンのコンペ部門に相次いで選出され、『パラダイス:神』はヴェネチアで2度目の審査員特別賞に輝いた。

© Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema

           
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