MOVIE|世界三大映画祭を制覇した若き監督、渾身のドキュメンタリー『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』
MOVIE|世界三大映画祭を制覇した若き監督、渾身のドキュメンタリー
『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』
ベルリン、カンヌ、ベネチアの世界三大映画祭を30代にして制覇した、若き巨匠ファティ・アキン監督。彼が自身のルーツである、トルコの小さな村に起こった“ゴミ騒動”を追ったドキュメンタリー『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』が、8月17日(土)より上映される。
Text by YANAKA Tomomi
足掛け5年にわたる撮影を敢行
現在はドイツを拠点として感動するトルコ移民三世のファティ・アキン監督。これまでにベルリン映画祭でグランプリを受賞した『愛より強く』、カンヌ国際映画祭の脚本賞に輝いた『そして、私たちは愛に帰る』、ベネチア国際映画祭の審査員特別賞、ヤングシネマ賞をダブル受賞した『ソウル・キッチン』など、数かずの名作を生み出してきた。『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』は、そんな才能溢れる若き巨匠が、故郷の現状を世界に訴えたいという一心で完成させたドキュメンタリーだ。
アキン監督がはじめて、トルコ北東部の黒海沿岸に位置する祖父母の故郷、トラブゾン・チャンブルヌ村を訪問したのは2005年のこと。そのあまりにも美しい風景に感動を覚えると同時に、ゴミ処理場の建設が予定されていると知り、強い衝撃を受ける。
愛すべき自然を記録に残したいと、『そして、私たちは愛に帰る』の印象的なラストシーンはチャンブルヌで撮影。さらにこの事実を記録しなければという使命感にかられ、地元の“日曜写真家”の協力も得て、足掛け5年にわたり撮影を敢行。本作を完成させた。
ずさんな計画、工事で汚されていく村
黒海周辺地区で生じるゴミを処理するため、ゴミの埋め立て施設の計画が持ち上がった。白羽の矢が立ったのは、トラブゾン地域の緑豊かな村、チャンブルヌにあるうち捨てられた銅鉱山。環境への悪影響や銅山がゴミ施設には不適当という意見もあがり、住民たちは猛反対するものの、政府は強引に建築を推し進めていく。
しかし、その工事はずさんの一言。普通のビニールシートで土への汚染を防ごうとしたり、素人が見ても溢れてしまうとわかるほど小さな汚水処理槽をつくったり、「悪臭がひどい」と住民が訴えれば、巨大なゴミ施設に大量の香水をふりかけたり。あまりにも稚拙な政府の計画にあきれながらも、時折り視察にやってくる役人たちに立ち向かってゆく住民たち。そして彼らが危惧していたことがつぎつぎに起こってゆく──。
集まった膨大な映像をもとに、茶畑が広がる美しい村が汚されていく様と、そこに住むひとびとの悩みや苦しみを浮き彫りにした渾身のドキュメンタリー。そして、これは遠い国の“他人事”ではない。中央の論理や利便が優先され、地方がそのしわ寄せを受ける構図は、ゴミ処理場に限らず、原発、基地問題など、日本で起こっている問題とおなじこと。物語が進むにつれ、これは“私たちの物語”でもあるということに気づかされるのだ。
『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』
8月17日(土)よりロードショー
監督│ファティ・アキン
配給│ビターズ・エンド
2012年/ドイツ/98分
http://www.bitters.co.jp/kyousoukyoku/