甘やかな美味しい日本酒の代名詞。山内先生が日本酒にハマるきっかけとなったのも、この「而今」!|FEATURE
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2023年10月13日

甘やかな美味しい日本酒の代名詞。山内先生が日本酒にハマるきっかけとなったのも、この「而今」!|FEATURE

FEATURE|木屋正酒造

教えて! 山内先生!! 第5回の日本酒「而今 純米吟醸 千本錦」(木屋正酒造)

口に含んだ瞬間から感じる甘やかさと、それに続く酸味のバランスが大変上品です。グラスから香った時もそうですが、口に含んだ後も、香りの膨らみがもう1段階深く存在するような、口中香が立ちのぼってくるイメージです。熟した熱帯果実のような甘さと酸のバランスが秀逸で、それが途切れることがなく、余韻へと向かっていきます。口離れも良く、品の良さがあるおかげで、次の一杯へ、すぐまた手が伸びてしまいます(山内先生・談)。

Photographs by OHTAKI Kaku|Edit & Text by TSUCHIDA Takashi

今回は、日本酒人気一軍銘柄の「而今」(じこん)を徹底解剖

――山内先生は、「而今」が登場した初年度より、毎年欠かさず飲み続けているそうですね。そして蔵元の大西さんに抜群の醸造センスを感じるとおっしゃっています。
山内先生 はい。大西さんは若くして、この銘柄を生み出しましたが、ファーストロットから酒質設計が完成されていました。「而今」の素晴らしさとは、甘さの中に、酸味を溶け込ませて、品の良さを描いていったところです。甘さと酸のバランスを最後までキレイに保ち、エレガントな余韻を生んでいることが、大西さんの優れた技量だと感じています。
――世間では“十四代チルドレン”とも言われていますよね。その意味でも、アタックから味わいの膨らみまで、とても「十四代」に似ているんですけど、口に含んだ後半以降のスッキリ感が異なります。
山内先生 まさにその通りですね。「十四代」の高木さんが採択しているのは10号系酵母(※1)で、もう少し酸が丸くなります。対して、「而今」の大西さんが使われているのが9号系酵母(※2)。酵母選択からして、じつは進む道を違えています。加えて、酸の出し方にも工夫がありますね。それは「十四代」が先に確立していたことで、目指す立ち位置に気づけたのだろうと思います。
※1 1977年から領布されている酵母。明利小川酵母とも呼ばれる。低温長期醪とすることで、酸が少なく、吟醸香を高く香らせることができる。ただし、「十四代」の高木酒造が用いているのは、10号酵母を自社培養したもの。
※2 1968年から頒布されている大ヒット酵母。熊本の「香露」醸造元から生まれたため、熊本酵母、香露酵母とも呼ばれる。吟醸造りに向き、芳香でまろやか。「而今」の木屋正酒造も9号酵母そのままではなく、自社培養したものを使用。
山内祐治(やまうち・ゆうじ)。「湯島天神下 すし初」四代目 。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。有名ワイン学校にて、日本酒の授業を行なっている。
――「十四代」の成功を見て新しい日本酒の方向性が示され、そこに影響された人たちが、それぞれのやり方で新しい日本酒造りを目指したということでしょうか?
山内先生 おっしゃる通りなんです。大西さんを含めた彼らの世代(1970年代世代)は、かつて自分たちでイベントも企画していました。クラブを貸し切って、日本酒と音楽を結びつけるような、当時は非常に斬新なものだったんです。今は蔵元さんそれぞれが有名になってしまったので、なかなかできなくなってしまったかもしれませんが。
2000年代中頃の日本酒業界とは、隠れたブーム程度のニッチな規模感。そんな中で、若い世代にもっと日本酒を知っていただこうと、精力的に行動していた人たちが、今まさに日本酒ブームの牽引役になっています。しかも、それぞれのやり方を貫いているところが面白い。
――蔵元すべてが、右向け、右ではないですよね。
山内先生 そういうことなんです。彼らが自分の信念をしっかりと世に出せる状況が整ってきました。大西さんは別ですが(※)、東京農大醸造学科の皆さんの繋がりもあり、知識の共有もあったのでしょう。彼らはまだ修業中という自覚から、みんなで日本酒を良くしていこうっていう熱量が強くあるんですね。
※大西さんは上智大学理工学部卒。その後に、東広島醸造試験所で酒造りを学ばれています。
――本当素晴らしいことなんですが、東京農大醸造学科しかり、そうした学びの場は昔からあったはずなのに、なぜ「而今」の大西さんのような世代から、急に”横の繋がり”なんて言われ始めたんでしょう?
山内先生 そうですね、端的に申し上げて、日本酒の出荷量が落ちたことが要因です。杜氏を中心とした従業員を抱え込む体力が多くの酒蔵さんでなくなり、かつては経営に徹していた酒蔵の息子さんたちが、自分で修業して、自分のやりたいことを、自分の腕で実現させていくようになったからでしょう。
その先鞭をつけたのが「十四代」の高木さんです。そうやって、少しずつ“蔵元杜氏”と呼ばれるプレイングマネージャーの立ち位置が生まれました。
――そんななかで、境遇をともにする蔵元杜氏同士がつながっていった、ということですね。ちなみに、そこには技術的なブレークスルーもあったんですか?
山内先生 「而今」に繋がる話としては、より甘さを出す麹菌を意図的に選択して、日本酒が上質な甘みを表現していくようになりました。一世代前、「十四代」が造り出した「日本酒は甘くて、滑らかでいいんじゃないか」という脱辛口のテーゼは、「十四代」から「而今」へと繋がる新時代の日本酒設計だと思います。
「而今 純米吟醸 千本錦」外観は、ほんのりと緑がかったイエローを感じます。粘性の具合は中程度である程度のエキス分を感じる印象です。
生酒由来のフレッシュさの奥に、剥いたばかりの白桃や黄桃の甘やかな印象があります。そこに大振りの赤や黄色のお花、さらには柔らかくついた餅を小分けにしたような、大福のような香りが存在します。そして加糖ヨーグルトのような柔らかい甘さを含んだ乳製品の香りが包み込み、全体をふんわりとまとめています。
――素晴らしいです。そして自分がとてもいいなと思うのは、「十四代」にせよ「而今」にせよ、世の中で渇望され、市場で手に入りにくくなっていますが、彼らは醸造量をあまり増やさないですよね。利益だけを追わずに、自分たちの造りたいものを、品質を落とさず、ブレずに造り続けているところです。
山内先生 いや本当その通りなんですよね。十五、六年飲み続けて、それでもやっぱり変わらず「而今」が好きですし、年ごとに視点の変化もあるんですよ。蔵元が考えていらっしゃることが、今回はこうなったか! みたいな気づきもある。クオリティに対する絶対的な信頼があることは大前提で、機微の違いを見出すことができる面白さが、「而今」には特に感じますね。
――ちなみに、この銘柄は「而今 純米吟醸 千本錦」とあります。
山内先生 そこにも触れなければいけませんね。「而今」の面白さの一つとして、お米違いによる味わいの差を楽しむということが挙げられます。山田錦、五百万石、雄町、千本錦、八反錦、愛山……。それぞれのお米に、「而今」らしさを添えながら、絵の具パレッドのように美しいグラデーションを見せることに成功しています。
この“千本錦”とは、広島県の酒米であり、山田錦を親に持つ新世代のお米になりまして、甘さ、爽やかさ、華やかさが鼎立(ていりつ)しています。「而今」を有名にしたのは山田錦であり、山田錦の実直で、素直で、丸いところもいいんですけれども、千本錦の軽やで、実があって、最後は丸いっていうバランスは非常に綺麗だと思いますね。
[まとめ]
而今 純米吟醸 千本錦|じこん じゅんまいぎんじょう せんぼんにしき
内容量|720ml
製造者|木屋正酒造
参考価格|1980円(税込)
敢えて語らずとも、皆さんもきっとどこかで飲んだことがありますよね? もしもまだなら、ぜひお試しを。甘み、酸味、旨味の3軸バランスがとてもよく、しかも前半で甘みと旨味、後半で酸味を感じさせ、後味はスッキリ! 甘すぎることはありません。だから、おいしいけど1杯でもう満足……と感じさせることなく、2杯目、3杯目もどんどん進んでいく素晴らしい(おそろしい!?)設計です。なかでも、このピンクラベルの千本錦バージョンが、後味軽やかで、山内先生のオススメ。「而今」は間違いなく、美味しい日本酒銘柄ですが、プレミアム価格で買わずとも、酒販店で正規価格で購入できたり、居酒屋で妥当な価格で注文できますので、ぜひ探してみてください。
※この記事は、案件ではありません。
※山内先生とオウプナーズ編集部員の土田貴史が本気でオススメする日本酒を紹介しています。
                      
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