連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「素材の個性を最大化する『韓国料理』」
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2022年4月21日

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「素材の個性を最大化する『韓国料理』」

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき

第34回「素材の個性を最大化する韓国料理」

僕は新大久保育ちなので韓国料理にはうるさい。なんてことはない。韓国料理は好きだけど体質的に辛いものが合わないようでたくさん食べられないし、そもそも韓国に行ったこともないから本場を知らない。遊び盛りの10代~20代を新大久保で過ごしているので、「ハレルヤ」「松屋」「オムニ食堂」あたりは夜中に行きまくったし、人より多少、本場に近い韓国料理に触れる機会があった程度である。

Photographs and Text by IJICHI Yasutake

余談だが、僕が唯一食べられないものが「蚕」で、それは新大久保の今はないとある韓国料理屋で、「カイコサナギ」という名前のまんまの料理を頂いた時に(正確には頂こうとした時)、「あ、これはムリだ」と思った。過去、カエルもクモもバッタもスズメも全然平気だったけど、蚕だけはムリゲーだった。
で、話が逸れたけど、日本に溢れる各国料理の中で僕は韓国料理はとても良いと思ってる。何が良いかって、TPOを選ばないのが良い。フレンチやイタリアンは記念日デートか接待じゃないと行かないし、中華も高級なものはそんなに行く機会もない。かと言って、町中華はひとりで行ったり飲んだ締めで行くことはあっても一軒目から行くことはそうそうない。タイやベトナムも好きだけどファーストチョイスにはなりにくい。そんな色んな角度からの意味で韓国料理は良いと思ってる。
僕の韓国料理店選びのポイントは、程良くリーズナブルで美味しくて気張らず、メニューにオドロキもある店。チジミやチャプチェ、ポッサム、参鶏湯といった定番メニューも良いけれど、「これ何?」みたいなメニューがあると頼まずにはいられないし、明らかに「これ何?」っていうメニュー名なのに写真だけで一切の解説キャプションが付いてないメニューを出してくるような店が好きである。食事にオドロキがあると会話にも花が咲くし、ないよりあった方が良い。
ファミレスもチェーン居酒屋もひと昔前までの「安かろう悪かろう」はほとんどなくなって、どこ行っても「普通に美味い」のはあたり前だし、手頃なのに飛びぬけて抜群にべらぼうに美味い店に当たるのは万馬券くらいの確率。と考えると、誰もが間違いなく美味いと思えて、尚且つ他所で見ない面白くて美味しいメニューがあったりその店ならではの美味しいメニューがあったりすると「また行こう」と思えるものだ。
1.青松(チョンソル) 東京都港区赤坂2-13-8 赤坂ロイヤルプラザ102
今はどうかわからないけど24時間営業で有名な赤坂の人気店。鍋はプデチゲ、ホルモン、じゃがいもの定番物をはじめとしてめちゃめちゃ豊富だし、焼き物も揃っている。

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「素材の個性を最大化する韓国料理」

冬は牡蠣刺しがたまらないけど、ここに来たら、口の中でウネウネ動く生タコの刺身は絶対食べたい。フレッシュなコリコリに胡麻油×塩が相まってマッコリがとまらなくなる。さらに、なぜかアワビの刺身の方が安いのでそっちも頼んじゃう。珍しい系は、牛(?)の血をゼリー状に固めたのが入ったスープ「ソンジヘジャンクッ」や牛や豚を茹でて茹で汁に浸かって出てくる「スユク」など。珍しいというか日本ではあまり馴染みがないという感じなんだと思うけど、この辺りはパワーの源だし食べる価値あり。
メニューが豊富で一皿がそれなりにボリューミーだから2人よりも4人5人と大勢で行った方がいろいろ楽しめて良いかもしれない。赤坂は大手TV局に大手代理店に大手保険会社と旧(?)ブラック企業が集う場所。いつ行ってもパワフルな男女が元気に食って呑んでしているから、24時間営業にした理由も頷ける。
2.海雲台(ヘウンデ) 東京都新宿区歌舞伎町2-32-12 秋山ビル 1F
東新宿の職安通りから歌舞伎町バッティングセンターに抜けるあたりに2店舗構える海雲台。不夜城歌舞伎町だけあってこちらも通常なら朝4時まで営業。刺身専門店というだけあって磯の香たっぷりの刺しがガッツリ咲きみだれてくる。アワビにつぶ貝、ヒラメ(だったかな)に、夏はホヤも。他にも色々あるのだろう。わさび醤油で食べてもいいし、エゴマとレタスに味噌と唐辛子で包んでも。もちろんここでも生タコの刺身はマル必で頼むべし。
メニューは色々あるけれど、刺身だけでもボリュームたっぷりで満足度は十分に高い。生タコ食べて精を付けたら、そのまま歌舞伎町に流れるべし。
3.名家(ミョンガ) 東京都新宿区大久保1-5-13 桜井ビルB1F
新大久保を出て大久保通りを明治通りに向かって歩いて交差点の手前くらいにある名家。大久保通りはいつ行っても竹下通りさながらの賑わいを見せているけど、駅から離れるにつれて客寄せみたいな店が減って20世紀の新大久保の雰囲気を取り戻してくるのが良い。
名家もメニューは豊富。ベースは辛めだけど美味い。マストは車海老の醤油漬けの「セウカンジャン」。インスタでタグるとここがバンバンヒットするくらいの人気メニュー。蟹の「カンジャンケジャン」も有名だけど蟹より食べやすいのが個人的には好き。そうは言っても、車海老も手も口も汚れるし、タレは服に飛ばすかもしれないし、青唐辛子と生にんにくはガッツリ効いてるし、しゃぶりつくし、しゃぶり尽くして食べるので、行く時は行く人とともに「今日はセウカンジャンを食べてやるぜ!」という意気込みの共有は必要。さらに車海老が入荷している時じゃないとメニューにラインナップしないらしく予約時に聞いても当日あるかどうかがわからないと言われるので(たぶんだいたいあるけど)、有事の際の対策の共有も念の為必要。
ぐうの音も出ないくらい美味しいと出てくる言葉が陳腐になるというのを身をもって知るくらい、秘伝のタレと青唐辛子と生にんにくが車海老のプリプリの甘みを引き立ててくれているのを感じる。メイン素材のポテンシャルを最大化してくれている料理との出逢いに、感動的なオドロキをおぼえること間違いなしである。
生のまま頂いたり、焼いたり煮たり炒めたりもありながら、漬けたり、発酵させたり、様々な手法で素材の良さを最大限引き出してくれる韓国料理。手頃で、美味くて、酒がすすんで、翌日お通じも良くてお肌もツヤツヤ、しっかり食べて飲んでも翌日もたれない。そんでもって精まで付いちゃう。考えれば考えるほど、書き進めれば書き進めるほど、韓国料理最強な気がしてきた。これからは韓国料理の頻度を高めていきたいと思う。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
                      
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