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2022年5月5日
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「豚カツ」
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき
第35回「豚カツ」
「御三家」と言ったら何を思い浮かべるか。僕は御三家という言葉に最初に触れたのが中学受験をした時なので「開成・麻布・武蔵」、または「桜陰・女子学院・雙葉」。小学校お受験の世界にどっぷりの都心のママパパたちだと「松濤・若葉会・枝光会」の幼稚園御三家を思う人もいるかもしれない(松濤幼稚園は閉園)。あるいは「吉田栄作・加勢大周・織田裕二」の平成御三家を思う人、もっと遡って「野口五郎・郷ひろみ・西城秀樹」の新御三家を思う人は僕らよりちょっと上の世代か。御三家とは江戸時代の徳川御三家「尾張徳川・紀州徳川・水戸徳川」から来ている言葉で、高いレベルで実力や人気が拮抗している3者のことを指している。平凡で優劣つけ難い似たり寄ったりの3者のことは御三家とは呼ばない。
Photographs and Text by IJICHI Yasutake
で、御三家と言われて豚カツを第一想起した人は相当な食道楽である。上野豚カツ御三家「蓬莱屋・ぽん多本家・双葉」、目黒豚カツ御三家「とんき・大宝・かつ壱」。なぜか御三家は豚カツでしか聞かない。寿司や天ぷら、蕎麦でも御三家があって不思議じゃないけど、おそらく豚カツはそれだけ店の数が多く、新陳代謝も激しく、価格帯的にも親しみやすくて、好きな人が多い群雄割拠な世界なんだろうと推察する。
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確かに、「とんき」も美味いし、「大宝」も「かつ壱」も美味い。有楽町や新橋、青一(青山一丁目)の「まるや」のロースかつ定食700円の満足感は相当なもんだし、「まい泉」なんかは高校生の頃から通っているけどいまだにいつ行っても最高。カツ丼もある。歌舞伎町「にいむら」のカツ丼にはホッとするし、有楽町交通会館の「あけぼの」の王道カツ丼も好きだし、創業100年以上の人形町「小春軒」のハイカラカツ丼もハッピーになる。複数店舗を展開するお店のレベルが軒並み高い中で、個人店舗もあるし、中には3000円を超えてくるお店もある。
そう考えると、最後結局は「好み」なんだろうなというどうしようもない結論に落ち着く。柔らかジューシーな豚カツが好きか、重厚でパワフルな豚カツが好きか。上質な脂を感じたいか肉の歯ごたえを感じたいか。白米、みそ汁、キャベツとの相性もかなり重要。はたまたカツ丼にしたい時もある。自分自身の肉体的且つ精神的な状況も重要で、さらっと食べたい時もあれば、ガッツリ食べたい時もある。
まあそんなわけで今回紹介する店は「豚カツ食べたい」と思ったその時の体調や気分にあわせて使い分けてもらえればこれ幸い。「“豚カツ食べたい”と思ったその時に行ったらめちゃくちゃ並んでた」とかはほぼないと思うので(どこも人気店なので多少は待ちますが…)。
1.かつ壱 東京都品川区上大崎2-25-5 久米ビルB1F
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目黒豚カツ御三家のひとつの有名店で、僕はここによく行っている。御三家の中では一番駅近だけど、ビル地下なので目立たないのがかえって良いのかもしれない。かつ壱のそれは見た目肉厚パワフル系。肉厚だけどしっかり火が通っていて、火は通っているけど中はほんのり柔らかい。余熱をうまく使っているんだろう。肉の甘みが濃いわけではないけど、脂身もきちんとある割にはくどくなく、下味もサラッとしているからか、サクッとした軽めの衣との相性の良さもあって、パワフルなんだけどいつまでも重たくならずに胃の中に入っていく。
そう、さっきから矛盾ばかり言っているけど、見た目のパワフルさとは裏腹に全体のバランスが極めて良いのである。なので、カツ丼(ソースカツ丼)にしてもカツカレーにしても美味い。シジミの味噌汁も絶妙。このバランス感がいつでも行きたくなる理由かもしれない。
2.波止場 東京都目黒区原町1丁目3-15
目黒線西小山に数年前にできた人気店。目黒線ゲームしたら最後まで残りそうな西小山、さらにお世辞にも広いとは言えない手狭なカウンター席(2Fに座敷があるようだが行ったことはない)、そして町のとんかつ屋としては決して安くはない価格(と言っても特別高いわけではない)。にもかかわらず人気店なのは単純に美味いからだろう。
ここは豚の旨味をガツンと味わいたいと思った時にオススメ。ジューシーで肉の甘みがストレートに伝わってくる。見た目はシンプルな豚カツだけど、こっちは見た目と裏腹にパワフル。店主は一見強面だけど話すとフランク。その色んなギャップも良くて、豚カツとして奇をてらったわけではないはずなのに、他では味わうことができない感覚。「あー、豚カツ食いたい」という時にまず思い出すような店。一度ハマると沼になる。
3.とん八亭 東京都台東区上野4-3-4
実はここは一度しか行ったことがない。数年前上野に行った時に、それこそ上野=豚カツというのを思い出して豚カツを食べようと思い、いくつか調べた結果行ったことがなかったここに足を踏み入れた。上野というよりも御徒町、たぬき小路という裏路地にひっそり佇む昭和22年創業という名店。カウンター数席とテーブル席が2つほどだった記憶。
出てくるそれは衣が心持ち白く、咲くように立っているのが特徴的。低温でじっくり揚げると衣が白っぽくなるらしい。そして、中がほんのりと桜のようなピンクに色づいていてかわいらしい。豚カツに対してかわいらしいという表現は変だけど、それほど良い色をしている。
低温で揚げているからかどうかはわからないけど、肉がしっとりしていて柔らかい。そして肉の旨味が濃い。表情はかわいらしいのに意外と気が強い。でもその気の強さが良い。まずはソースをかけずに味わって、その後ソースをかけて頂くのがオススメ。昭和初期創業で御徒町の路地裏で愚直に美味い豚カツを出し続ける。そこに惚れた。まだ一度しか対峙してないけど、また会いにいきたい。
4.井泉 東京都文京区湯島3-40-3
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昭和5年創業のカツサンド発祥の店。湯島の花街の芸者衆に口が汚れないようにと井泉で考案されたのがカツサンドの発祥らしいというのは聞いたことあったけど、Wikipediaを見てみて、あのまい泉も井泉から独立した店だったことにはびっくりした。まずそもそも湯島という場所が良いし、店の趣が良い。佇まいだけで勝負あった感がハンパない。
「箸で切れる」というのをウリにしているのは、創業当時は硬い肉しかなかったからだそう。そのコピーに違わず、肉はしっとり柔らかい。肉厚ではないけれど小ぶりでもなく、いい塩梅のサイズ感。パワフルともジューシーとも言いがたく、丁寧な仕事と素材を感じられる上品で上質な豚カツである。長年通っているんであろう諸先輩方もしっかり平らげられる味わいでありサイズ感である。
井泉では豚汁が付いてくる。この豚汁も実に美味い。葱や人参、ゴボウの旨味がしっかり感じられて、大ぶりだから一見乱雑に切られているようで実に丁寧にこしらえられている。こちらもまた、トータルのバランスが実に抜群。受け継がれている職人技というかプロの絶妙な間が垣間見えて、豚カツなのに毎日行っても飽きなそうな味わいだ。
写真だと違いがほぼわからないのに、実際に見てみると店によって衣の感じや肉質が全然違うし、食べると違いがより顕著になる豚カツ。豚肉と言っても当然品種や産地だけでなく飼料や飼育方法によって味わいは全く別物だし、肉の旨みを引きだし、脂の甘みを引きだすための衣の質感、ご飯との相性、分解して考えると奥が深い。「みんなちがって、みんないい」、金子みすゞの詩のごとく、豚カツにはどの店にも十人十色の個性がある。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
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