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2023年2月10日
対談|空気環境の快適化はこれからの時代のキーワードになるか
対談|DIC株式会社 西英史×株式会社スマートメディア 前田陽一郎
空気環境の快適化はこれからの時代のキーワードになるか
工事も配線も不要、簡単に貼れて剥がせる、柔らかなLoRaWAN®無線センサー『ハッテトッテ』の革新性が話題を集めています。第一弾として発売された「温湿度・照度センサー」に続き、「CO2・温湿度センサー」も新登場。そんな注目のアイテムについて、元LEONの編集長であり、現在はファッション・クルマを軸にしたコンテンツディレクターとして活躍する前田陽一郎氏が、開発者である西英史氏に、製品の開発秘話や空気環境の未来について伺いました。
Text by DIC
やわらか無線センサーはわらしべ長者的発想から生まれた
前田 そもそも『ハッテトッテ』はどのような経緯で企画されたのでしょう。
西 DICでは、導電性インクを長きに渡り研究・開発してきました。私は国内電機メーカーから2016年にキャリア入社したのですが、その技術を活用して新事業を起こせないか? ということから企画がスタートしています。
前田 「簡単に貼れる、剥がせる、柔らかなセンサー」というのが画期的だと思ったのですが。
西 導電性インクだけでなく、すでに製品化されていたDICの自動車や電子機器用途の工業用両面テープ、DICデコール社の内装建材など、社内外でシナジーのあるものを組み合わせながら考えていきました。
前田 つまり、新しい技術による革新ではなく、既存技術の新しい組み合わせによる革新ということですか。
西 そうですね。お客様の困りごとを起点として考えるのが理想なのですが、DICの新規事業ですので、DICの既存製品・技術を組み合わせ、それがお客様の困りごとを解決するものになっているか、仮説を元に検証していくという形で進めました。
前田 そこで生まれたのが簡単に貼れる「温湿度・照度センサー」なわけですね。さらに、感染リスクにも対応する新製品「CO2・温湿度センサー」も登場しました。
西 温湿度センサーは、一般的によく使われていることから最初に選びました。そこを手始めに各所で話を聞いたところ、換気用のCO2センサーでも、同じように簡単に貼れると嬉しいという話が出てきたのです。しかも近年は感染対策にも使われていますので、すぐさま開発に着手しました。
前田 ひとつのものが生まれると、それが次の需要を生む。もっとも理想的な商品開発プロセスだと思われます。
西 新規事業というのは、単発の新製品とは違うので、わらしべ長者的な発想が必要だと考えています。最初に導電性インクや粘着テープなどがあり、そこからセンサーの困りごとを解決する製品を作ると、今度はデータ解析での困りごとが見えてくるわけです。そんなふうに、次から次へと手繰り寄せていくような作業。それもまたひとつの方法かなと思っています。今回、残念ながら導電性インクの採用には至りませんでしたが、そこを起点に発想したからこそ、「柔らかくて薄い」というコンセプトが生まれたわけですから。
前田 当初の制約が強みに変わった瞬間ですね。
西 本音を言えば、唯一無二の技術があればラクなんです。しかし、弊社に限らず、インターネットで情報が瞬時に広がる時代となり、世界中どこの会社も技術には差がなくなってきているのが現状です。そんな時代においては、革新的な技術にこだわってもヒットの確率は低くなるばかりです。そうならば、違う方法を考える必要があるんですね。
設置が簡単で目立たないことにお客様は魅力を感じている
前田 改めて『ハッテトッテ』のおすすめ導入事例といいますか、使用シーンを教えていただけますか。
西 ひとつは、オフィスや商業施設など、人のいるところで「多くの場所で」「目立たずに」測れるということです。従来よりも空調を細かく制御したり、複数のハッテトッテの測定値を補間することで、空間の状態を見ることができるようになりました。
前田 『ハッテトッテ』は貼るだけで設置できて、目立たないのでより多くのポイントに気軽にセンサーを配置できるということですね。
西 そうです。もうひとつは、工場や倉庫で「簡単に」設置できるということ。機器を配線して設置するのが難しいので、これまでは温度や湿度を人が測り、用紙に記入していくスタイルが一般的でした。紙に書いたデータは利用されないままになってしまうことが多いのですが、『ハッテトッテ』を導入すればその工程を「データ化」することできるうえに、「解析」ができるようになります。
前田 実際、お客様の声としてはどのようなものが多いのでしょう。
西 設置が簡単で、長期間電池交換が不要という気軽さがいいという評価が一番多いですね。次に、目立たないことを評価してもいただいています。オフィスであっても、人の目線に箱型のモノが付いているのは邪魔ですから。
ABW型オフィスならモニターを見ながら快適な席が選べる!?
前田 『ハッテトッテ』の将来性や可能性についてはいかがでしょう。
西 温湿度センサーであれCO2センサーであれ、簡単に、細かく、分布が見えるようになり、それを見ることで、人の行動が変わるだろうと考えています。
前田 仕事の内容に合わせてふさわしい場所を選べるABW型のオフィスなどでは、席の選び方が変わるかもしれないですね。出社した際にモニターを見て、夏は温度で選んだり、乾燥する冬は湿度で選んだりできたら面白い。そういう解釈でよろしいでしょうか。
西 まさにそういうことです。また、CO₂濃度分布から混み具合、換気状況が見えますから、各自がそういった場所を避けるようになり、感染リスクを低くする効果もあると考えています。もうひとつは、建築物衛生法という法律があって、ある一定以上の建物では、空気環境の測定を2ヶ月に1度しなくてはいけません。そこを自動化することで「業務の効率化」や「人手不足解消」にもつながります。また、先ほどの事例と同じく、現在は数値を紙に書いて記録する方法が一般的です。つまり記録はあっても、それが活用されていないわけです。これをデータ化して解析することで、よりよい制御につなげていくことができます。建築物衛生法には、測定方法や測定機器の規定があって、IoT機器で置き換えるにはハードルが高いのですが、是非とも実現したいと考えています。
空気環境に対するニーズの高まりと今後の展望
前田 住宅への応用も考えられそうですね。例えば、クーラーが苦手な年配者による熱中症対策などいかがでしょう。温湿度のデータを、工事不要で子どもたちが簡単にモニタリングできたら便利かもしれません。
西 集合住宅向けに何か活用できないか、また個室型の福祉施設などに使えないか、などをすでに考えています。通信距離が長いLoRaWAN®を採用していますので、受信機を共有部に置けば、各戸にはハッテトッテを貼るだけで済みます。
前田 すでに想定されていましたか。あとは赤ちゃんのいる家庭でも喜ばれるかもしれません。
ホールやライブハウスなどで、換気状況や音量をモニタリングできるセンサーがあってもいい。
ホールやライブハウスなどで、換気状況や音量をモニタリングできるセンサーがあってもいい。
西 CO2濃度をモニタリングして、入場制限をかけることもできそうですね(笑)
前田 そう考えると、空気環境の改善・快適化というテーマはまだまだありそうですね。最近は多くの人が気にしている課題でもありますから、『ハッテトッテ』のような商品のニーズは今後も高まりそうです。
西 オフィスは今や、“わざわざ行く場所”になりました。今後はそれに見合うだけの価値を会社が提供しなくてはいけない。そこには空気環境も含まれます。
前田 たしかにこの数年で働き方も含め、さまざまな点で意識変容がおこっています。DICの長期経営計画である「DIC Vision 2030」にも、社会の持続的繁栄への貢献として、グリーン、デジタル、Quality of Lifeといったキーワードが盛り込まれています。『ハッテトッテ』はそれらを体現する製品でもありますよね。
西 そう言っていただけるとありがたいです。「DIC Vision 2030」への直接的な貢献だけでなく、大企業の中で毛色の違ったものをコンパクトに素早く製品化して検証していく。そういう仕組みも確立できればいいなと考えています。それが先例となり、より自由な発想が生まれる土壌を作っていきたい。そうして沢山生まれた新製品、新事業の中から、社会貢献できるものが多く出てくればと思っています。
前田 今後もDICから面白いものが生まれてきそうですね、期待しています。本日はありがとうございました。
西英史
DIC株式会社 コンポジットマテリアル製品本部
HTI製品グループ
無線センサー統括マネジャー
日系電機メーカーへ入社。ソフトウエアエンジニアとしてUNIX系OS開発を担当した後、電子デバイス部門へ異動し、3DグラフィックスLSI開発に従事、マネージャーとしてグラフィックスエンジン開発チームを率いる。その後、事業戦略・マーケティングのマネージャーとしてドイツ駐在中に、所属事業部門が外資系半導体メーカーに売却され、戦略マーケティングマネージャーとして勤務。2016年DIC入社し、新事業企画部でエレクトロニクス関連を担当。フレキシブルな無線センサーを企画し、現在に至る。
DIC株式会社 コンポジットマテリアル製品本部
HTI製品グループ
無線センサー統括マネジャー
日系電機メーカーへ入社。ソフトウエアエンジニアとしてUNIX系OS開発を担当した後、電子デバイス部門へ異動し、3DグラフィックスLSI開発に従事、マネージャーとしてグラフィックスエンジン開発チームを率いる。その後、事業戦略・マーケティングのマネージャーとしてドイツ駐在中に、所属事業部門が外資系半導体メーカーに売却され、戦略マーケティングマネージャーとして勤務。2016年DIC入社し、新事業企画部でエレクトロニクス関連を担当。フレキシブルな無線センサーを企画し、現在に至る。
前田陽一郎
株式会社スマートメディア コンテンツディレクター
大学在学中より複数のファッション誌で原稿を執筆。卒業後は空間デザイン・内装施工の最大手企業で企画営業に携わる異色のキャリアをもつ。出版業界に戻って以降は一貫してメンズファッション誌の編集に関わり、雑誌LEONの編集長、同誌ウェブサイトの立ち上げを経て独立。現在は大手企業や行政機関のコンテンツマーティング、オウンドメディアのディレクション、ファッションブランドのマーケティングなど数々のプロジェクトを手掛けている。
株式会社スマートメディア コンテンツディレクター
大学在学中より複数のファッション誌で原稿を執筆。卒業後は空間デザイン・内装施工の最大手企業で企画営業に携わる異色のキャリアをもつ。出版業界に戻って以降は一貫してメンズファッション誌の編集に関わり、雑誌LEONの編集長、同誌ウェブサイトの立ち上げを経て独立。現在は大手企業や行政機関のコンテンツマーティング、オウンドメディアのディレクション、ファッションブランドのマーケティングなど数々のプロジェクトを手掛けている。
問い合わせ先
DIC コンポジットマテリアル製品本部 HTI製品グループ
hattetotte_inquiry@ma.dic.co.jp