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2022年7月11日
いま戦国時代を迎えている怒涛の日本酒業界のゲームチェンジャー有力候補は彼だ!|TAKANOME
TAKANOME|タカノメ
黒の瓶に、黒のラベル。ワインにもない、日本のストイックな美意識・味覚が、やがて世界のテーブルを彩る
群雄割拠の高級日本酒業界のなかでも、“幻の酒”として注目されているのが「TAKANOME」です。こちら自社ECサイトで、毎週水曜21時から数量限定で発売されているのですが、1万5400円という高価格にも関わらず、販売開始5分前後で完売となる状況が続いています。なお“週に一度”“数量限定”という販売方法をとっているのは、酒造りからラベル貼り、箱詰め、発送までのほとんどを手作業で行っているから。争奪戦ではありますが、週に一度、入手のチャンスがやってくるというのは嬉しいところです。
Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi
米と麹と水だけで、これほどフルーティーな飲み物ができるのか! という感動を示す
いま日本酒業界が面白いことになっています。なかでも“高級”と位置づけされる日本酒が、絶賛注目を浴びています。
日本酒ベンチャーが手がける「SAKE HUNDRED」は、2022年秋、銀座・並木通りにフラッグシップストアを開店させることを発表。1666年創業の兵庫県姫路市の「ヤヱガキ酒造」は、初代創業者の名を冠して発売した高級銘柄「長谷川栄雅」の名を冠したアンテナショップを六本木の一等地にオープンし、茶室を彷彿とさせる空間で、旬のアテ(7種)に合わせた、日本酒ペアリングの提案を行なっています。富山県富山市の「吉乃友(よしのとも)酒造」は、旧神岡鉱山(岐阜県飛騨市)の地底1000メートルで、日本酒を貯蔵・熟成をスタートしました。1793年に創業し、2012年に休業した酒蔵「杉の森酒造」の屋号を継いだ、「suginomori brewery (スギノモリ・ブルワリー)」が作る、こだわりの日本酒「narai」も好評です。そして2022年5月に開催されたカンヌ国際映画祭では、200名以上のセレブリティ、映画関係者、メディア関係者に、2019年に誕生した日本酒ブランド「TAKANOME」が振舞われました。
そうなんです、“高級”とカテゴライズされる日本酒ジャンルでは、日々、気になるニュースが飛び交っています。日本酒全体(ワンカップ的なものもすべて含む)の国内消費こそ減少傾向でも、純米酒・純米吟醸酒に至っては、緩やかでも確実に伸びています。そして日本酒の海外出荷量も増加傾向にあり、2021年度の日本酒輸出総額は401億円を突破。12年連続で前年を上回っています(国税庁・令和4年酒レポートより)。
さて「TAKANOME」とは、いったいどんな日本酒なの? 純米大吟醸? きっと、そう思われた方も多いと思いますが、違うんです! 「TAKANOME」は、日本酒の値段の判断基準となっている精米歩合(米をどれだけ削って酒を造ったかということ)を公表していません。だから、精米歩合によって規定される特定名称を名乗らないのです。そんな、ほじればほじるほど話題性には事欠かないネタの宝庫であり(名前からして!)、飛ぶ鳥を落とす勢いの「TAKANOME」はいかにして誕生したのでしょうか。「TAKANOME」のファウンダー、平野晟也さんに話を聞きました。
あ
名刺交換の際、平野さんの顔をマジマジと覗き込んでしまいました。きっと、「お、若い!」と思った、心の声も漏れていたと思います(笑)。
1995年生まれの平野さんはバリバリの(笑)20代。こんな若い世代が作る日本酒が多くの人の心を捉えているなんて! 少し大袈裟かもしれませんが、日本の将来もそう暗いものではなさそうです。
出身は栃木県。アメリカ留学時に、「日本を離れて初めて日本のことを客観的に見ることができたんです。日本食のポテンシャルの高さも痛感し、日本独自の文化を世界に発信したいと考えるようになりました」(平野さん)。
帰国後は、自分に何ができるのかを模索しながら、いくつかの企業でインターンとして働いたそうです。そんななか、仕事先の先輩と一緒に行った日本酒居酒屋で、日本酒との運命の邂逅を果たしました。勧められるがままに飲んだ、平野さんの出身地・栃木の日本酒「鳳凰美田」(ほうおうびでん)の美味しさに、「衝撃を受けました。こんなフルーティーな香りと味わいの日本酒があるんだ、僕が今まで飲んでいた日本酒はなんだったんだろうと、日本酒という概念そのものが変わった感覚を覚えました」。
日本酒に興味を抱いた平野さんは、日本酒について学ぶなかで、日本酒の輸出が伸びていることを知り、同時に、業界の古い体制に衝撃を覚えたと言います。
「もともと日本酒は薄利多売の世界。多くの日本酒の価格帯は、四合瓶で1000~2000円程度、一升瓶で3000円前後が主体になっています。仮に年間10万本もの四合瓶を造っても利益はほぼ出ない酒蔵が多い。古くから続く酒蔵の多くは日本酒ではなく、不動産などほかの事業で収入を得ているのが実情です」
鳳凰美田と出会い、日本酒を世界へと発信したいと考えた平野さんは、日本酒への知見を深めるため、全国の酒蔵を巡ります。日本酒のソムリエとも言える「国際唎酒師」の資格も取得しました。やがて「既成概念に囚われない、うまさのみを追求する日本酒を作ることで日本酒業界を盛り上げたい、価格帯も個性もさまざまな日本酒が増えていくことで日本酒文化はもっと深まっていくはずだ」と、平野さんは決意を固めます。
ところが、熱い思いを胸に酒づくりに協力してくれる酒蔵を探し始めますが、門前払いを食うことも多かったと言います。時には怒声を浴びせられたこともあったとか。
「何度も心が折れそうになりました。というか実際に折れました(笑)。でも、日本酒を世界中で飲まれるようなお酒にしたいという思いは強く、諦めるわけにはいかなかったんです」
そんな時、出会ったのが、創業200余年の山口県の酒蔵「はつもみぢ」の原田康宏社長でした。「人生を変えるような最高の日本酒を造り、日本酒の素晴らしさをより多くの人に伝えたい」という平野さんの思いに、原田社長は、真剣に耳を傾けてくれ、協業が決まります。
“最高峰の日本酒”を造るにあたり、平野さんがこだわった点はいくつもあります。水や米などの原材料はもちろん、前述のとおり、平野さんは精米歩合を非公開にする決断をします。最近の日本酒業界では、いかに米を削って酒を造ったかで、価値が判断される傾向がより強まっていて、最近では精米歩合1%(米を99パーセント、削っている)のお酒も出てきたほど。日本酒の"売り"ともなるべき、精米歩合を公開しないというのはかなり思い切った決断に思えますが、これには明確な理由があります。
「精米歩合で日本酒の価値が決められるという、その状況に疑問を抱いたんです。たしかに、米は磨けば磨くほど、綺麗。でもスッキリしすぎたり、味わいが均質化してしまったりといったデメリットもあります。
そもそも米を削るというのは、米本来の良さを捨てているようなものだと思うんですよ。何より、旨みを追求した日本酒を造るという信念からずれてしまう。僕は、飲んでくださった方が、情報に左右されることなく、それぞれの感性で日本酒を味わってほしいのです」
では、1万5400円という値付けの真意はいかに⁉
「『TAKANOME』は、極小タンクで1年中日本酒を醸造し続ける四季醸造製法を採用し、完成したてのフレッシュな日本酒を販売しています。とはいえ、日本酒は生き物のようなもの。同じ品質を作り続けるには限界があり、『TAKANOME』では、一定の基準に満たない日本酒は販売しません」
なるほど、原価率が上がってしまうわけですね。ただ、葡萄の出来によって味わいも価格も異なる、ワインの世界では当たり前のように行われていることです。一流のドメーヌでは、販売そのものを行わない年さえあるのですから。
「造る手間を考えたら、日本酒の値段は安すぎるんですよ! これまでの日本酒業界は、一定の価格内でいかにいい酒を造るかに重きを置いていました。繰り返しになりますが、弊社は、“業界の規制概念に囚われない”ことをコンセプトにしています。価値があるものだと認識してもらうためには、あらゆる改革が必要。そのためのしかるべき費用も必要であり、これが値付けの真意です」
なるほど、納得しました。では、四合瓶で1万5000円超の日本酒、そろそろいただいてみるとしましょうか(笑)。ホームページの商品説明には、「まるでパイナップルのようなほのかに南国フルーツを思わせる香りが飲む前から感動を予感させる」と記述がありますが……コレに尽きます(笑)。改めて平野さんに解説してもらうと、「酒と水でこれほどフルーティーな飲み物ができるのかという感動が、僕が日本酒にかかわることになった原点です。はつもみぢさんには、その1点をとことん追求してほしいとお願いしました」。
そう、平野さん、そして製造元のはつもみぢが追い求めたのは、果実香の強い日本酒です。なるほど、確かにグラスに顔を近づけると、フレッシュなフルーツの甘い香りが漂ってきます。あ、個人的な意見ですが、「TAKANOME」はワイングラスに注ぐのがおすすめ。フルーティーな香りを存分に堪能してください。
で、口中へと「TAKANOME」を注ぎ入れます。香りでいただいた印象のままの、果実味あふれる味わいです。これなら「日本酒は得意じゃないんです」という人も、イケるかもしれません。もちろん果実は使っていません。ただ、獺祭(だっさい)、紀土(キッド)、仙禽(せんきん)など、果実香を追求したお酒は、他にもあります。そんななかで、「TAKANOME」が際立っているのは、
・ウイスキーのようにちびちび飲める
・いろいろなジャンルの食事に合わせやすい ところです。
・いろいろなジャンルの食事に合わせやすい ところです。
キリッと冷やすのも良いのですが、冷蔵庫から出してそのままの常温に温まってきた状態でいただくのも良い。柔らかなとろみ、そして、じんわりとした旨みが顔をのぞかせます。フルーティーでありながら、「日本酒は、米を原料とするお酒なんだな」と実感できる米感もあります。とはいえ、これは、筆者個人の感想。
ところで、平野さんが語る言葉の節々には「常に面白いことをやっていきたい」という思いが見え隠れします。
「いま、日本酒業界は戦国時代です。圧倒的なナンバーワンプレイヤーはいません」
現行の酒税法では日本酒の製造に必要な「清酒製造免許」の新規発行が原則認められていません。これは既存の酒蔵を保護することなどを目的としたもので、すでに免許を持っている酒蔵を買収したり、免許を譲り受けたりしない限り、新たな酒蔵を立ち上げるのは難しい状況となっています。しかし、海外での日本酒ブームを受け、令和2年度の税制改正で、「輸出用清酒製造免許制度」が設けられ、海外輸出のみを目的とするのであれば、清酒の製造が認められるようになりました。平野さんのいうとおり、まさにいま、日本酒業界は転換期を迎えているのです。
「日本酒業界に限ったことでなく、どんな世界でも多様性があるほうが面白いじゃないですか。僕は次に来るのは"熟成"だと思っています。ワインもウイスキーも熟成することで味に深みが出るし、値段も上がります。海外には、ワインへの投資も行なっているファンドがいくつもあります。今後、日本酒の市場を広げていく上でも、富裕層が投資できる、ポテンシャルの高いお酒を造り続けていきたいです」
日本酒戦国時代に終わりを告げる織田信長や豊臣秀吉が、いつ、どんな風に現れるのかはまだわかりませんが、既存の概念を次々と覆し、新たな価値観を定義する「TAKANOME」が、群雄割拠の日本酒業界をますます面白くしてくれる存在であることは間違いありません。5年後、10年後、今の私たちには想像もできない、エキサイティングなことになっている──、そんな雰囲気がむんむんと漂っています。
TAKANOME
- アルコール度数|16パーセント
- 製造元|はつもみぢ
- 内容量|720ml
- 価格|1万5400円
問い合わせ先
TAKANOME公式オンラインショップ
https://takanome-sake.com/