女優 松田美由紀インタビュー。私がいま歌手としてステージに上がる理由
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2022年1月19日

女優 松田美由紀インタビュー。私がいま歌手としてステージに上がる理由

女優、写真家・松田美由紀が還暦となる節目に披露した「シネマティック・ライブ・ショー」。当日はシャンソンやジャズの名曲を映画のようなストーリー性とドラマで綴り、コットンクラブに集まった観客を魅了した。ここではショーを終えた松田美由紀に、歌という表現について、そして60歳を迎えた現在の心境を訊いた。

Edit & Text by TOMIYAMA eizaburo Photo by MIYAKE hidefumi

シネマティック・ライブ・ショーは私の人生を題材とした表現手段

2021年10月6日、東京・丸の内にある「COTTON CLUB」にて、女優、写真家・松田美由紀のショーが行われた。緊急事態宣言が解除されたこともあり会場はほぼ満席。一杯目のドリンクが行き渡り、客席が落ち着きを取り戻した頃にバンドネオンの音が響き始めた。
アルゼンチンの作曲家、アストル・ピアソラによる「アディオス・ノニーノ」のしっとりと物悲しい空気に会場が満たされると松田美由紀が舞台に登場。今宵は彼女のバースデーであり還暦を祝うショーでもある。会場はいっきに華やかになり、パーティのはじまりにぴったりなシャンソンの名曲「フルフル」からスタートした。
「シネマティック・ライブ・ショーは私の人生を題材とした表現手段のひとつなんです。2019年に始まったのですが、昨年はコロナで中止になってしまって。今年は還暦祝いもあるし、何がなんでもやるぞって(笑)」
これまでにも写真家、アートディレクター、映像監督など、さまざまな表現で世間をあっと言わせてきた松田美由紀。彼女はなぜ歌という表現に本腰を入れ始めたのだろう。
「俳優というのは人生の見本だと思っているんです。私の人生にはこういうことがありましたと伝えることで共感してもらえる。そして、歌うという行為は自分の肉体と声を使った総合演出なんです。どういう舞台を選ぶかに始まり、衣装、選曲、ストーリーに至るまですべて自分で決めています。そのすべてが私の歌であり、やりたいことはこれだったのかなと思うんです」

幼少期からのトラウマが突然目の前にあらわれた50代

自らの人生を歌で表現していく。それはただの表現手段を超えたものでもあった。
「50代はトラウマの大掃除のような期間でした。身体が大きく変化するタイミングで、自分でも気づかなかった負の部分がどばっと出るような。母親に対してのトラウマ、(松田)優作や子どもたちに対しての寂しさ、何か置いてきぼりになるような感情も出てきて本当にきつかったですね。私の母親は57歳のときに癌で亡くなっているのですが、私も同じ歳に心筋梗塞になり死の淵を彷徨ったり・・・・」
ショーの前半では「バラ色の人生(ラ・ヴィ・アン・ローズ)」など恋愛を謳歌するようなハッピーな歌の数々、合間に詩の朗読を挟みながらそれらが紡がれていく。後半に進むにつれ、別れの悲しみなど人生の悲哀へと暗転。その圧巻のステージングに涙ぐむ人たちの姿もあった。
そんな空気を一変させたのが、スペシャル・ゲストとして登場した実姉であり女優の熊谷真実である。「恋はコメディー」「ズビズビズー」など軽やかな楽曲を姉妹で愉快に歌い上げていく。なんとこれが初共演というのだから驚きだ。
「実は50代最後に姉に対してのトラウマが出てきたんです。そんなものがあったのかと自分でもびっくりしたんですけど(笑)。姉は皆さんご存知の通り、すごく元気で活発なタイプ。家庭内ではお姉ちゃんたちが楽しいところを全部持っていくから、バランスとして私が暗くなりがちだったんですよ。
そんな家庭内スターが女優として全国的な人気者になり、私もモデルとして仕事をしていましたが無名。また、子育てでボロボロになっているときでも、姉はいつでもキラキラしている。そこでも置いてきぼりにされたような感情があったみたいなんです。
10年くらい不仲な時期もあったんです。姉妹って不思議ですよね、簡単なキッカケでまた仲直りしちゃうんです」
姉と連絡を取り、還暦を祝うショーには姉の「元気さ」が必要だと思い至りオファーをかけた。
「ライブが終わったあと、朝の5時くらいまでマミちゃんとホテルで喋っていました。でも、そのとき初めて姉も苦労していたことを知ったり、舞台人としてお客さまの大切さを教えてもらったり。距離がさらに縮まった気がします」やっぱ持つべきは姉妹ですね(笑)」

バースデーにショーを終えて身体がストンと軽くなった

最後は「残されし恋には」を歌い、大円団となるアンコールでは「素晴らしき世界」をセレクト。「60歳は最高!」と、これまで葛藤や病気があったとは思えないほど眩い輝きを見せた。
「ショーを終えて身体がストンと軽くなった感じがしました。これからどうなっちゃうんだろうって思うくらい。でも、今後もシネマティックライブショーは続けていきます。自分の人生から離れて、よりコンセプチャルな構成を考えたり、オリジナル楽曲を作ったり、やりたいことはすでにいろいろ湧いています。
50代のトンネルを抜けて思うことは、意外と自分のことは自分でわからないということ。私も探している途中なんです。何がやりたくて、どんな才能があって、何を言いたいのか、自分にどんなトラウマがあるのかもわかっていない。昔、優作に”自分の心をテーブルの上に置いてみるんだよ。そうすると自分に何が足りなくて、何がしたくて、どこに行きたいのかわかるから”って言われたんです。自分と向き合う、そこに答えが隠されていると信じてこれからも人生を楽しみたいと思います」
昨年のステージのインタビューからも読み取れるように、人々に勇気を与えてくれる不思議な魅力を持つ松田美由紀の舞台を2022年の今年もまた期待したい。
                      
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