連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「呑んだ後のラーメン」

二葉:荻窪

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2023年3月10日

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「呑んだ後のラーメン」

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき

第45回「呑んだ後のラーメン」

なぜ日本人はこれほどまでにラーメンが好きなのか。これだけ物価上昇が叫ばれても、ラーメンだけはいまだ1,000円以内。時間がない昼にさっと食べるのも、ランチタイムが終わった14:00以降に開いている店も、仕事を終えてひとりでぱっと食べて帰るのも、ラーメンならどの駅にも必ず3,4店舗はあるし、日常食としてこれほど強い味方はない。けれどラーメンがそのポテンシャルを一番発揮するのは、なんといっても呑んだ後の〆だろう。

Photographs and Text by IJICHI Yasutake

なぜ呑んだ後の〆にラーメンを食べたくなるのか? については、ググってもらえればいくらでも出てくるが、簡単に言えば、アルコールを分解するエネルギーとなる「糖分」、そしてアルコールの利尿作用でナトリウムが排出されるために「塩分」を欲すること。この2点にこたえてくれる最適解がラーメンという訳だ。ちなみに、海外は呑んだ後にマクドナルドを食べるらしい。理由はシンプルに開いている店が他にないから。確かに糖分も塩分も摂取できるかもしれないが、口の中はパサつきそうである。
そんな時はやっぱり汁物がいい。固形物より液体の方が吸収率は良いはずだから、この点もラーメンは理にかなっているのかもしれない。いずれにしても、ラーメンは体が細胞レベルで欲しているのだからうまくて当然である。
年齢的に、そろそろ〆はラーメンじゃなくて蕎麦がいいなんて思い始めてもいるが、なんだかんだやっぱりラーメンで〆るのが日本の文化なんじゃないかと思う。
保健所が今ほど厳しくない頃は駅前にラーメン屋台があった。20年くらい前の大学の頃、夜はまだ肌寒い春、渋谷のfamilyというクラブに行った後美竹公園を下りたら屋台が出ていて醤油ラーメン500円を食べたのが最後の屋台ラーメンの記憶。「久々に屋台で食べたなぁ」としみじみ思ったのが痛烈に記憶に残りつつ、それが最後になってしまった。ちょっと肌寒いくらいの時期の夜、あったかいラーメンを食べるのはこの上なくうまい。
昔、1990年代頃まではラーメンと言えば中華屋のラーメンで、今のようなカウンター横並び、お店ごとの個性が出ているいわゆる「ラーメン屋」はそれほどなかった。2000年前後になって、「一風堂」や「一蘭」が東京に進出して、恵比寿の「九十九」や並木橋の「山頭火」が人気になってちょっとしたラーメンブームみたくなった。
当時僕が好きだったのは恵比寿の「香月」。ラーメン好きのキアヌ・リーヴスが来日した時にお忍びで訪れたとかで話題になったが、僕は香月の背脂ちゃっちゃ系に切昆布をオンするのが大好きだった。香月はもう何年も前に閉店して、最近背脂ちゃっちゃ系も見かけなくなったと思ってたら、広尾の「丸富」がまさにそれで懐かしくなって広尾に行くたびにここのところ食べている。あとは恵比寿の「ちょろり」、西麻布の「かおたん」、昼なら渋谷の「喜楽」も東京で夜な夜な遊んでた人でそこに思い出がない人はいないだろう。
平和軒:西小山
家系、豚骨、煮干し、鳥ガラ、、、ラーメンにも色々あるけど、僕は体に合わない家系だけは食べないけど、他はなんでも良い。呑んでいたその街で帰る前もまだ開いている店が正義だ。
■元祖ニュータンタンメン本舗蒲田店:東京都大田区蒲田5丁目28-2 MCMビル
ニュータンタンメン本舗は川崎エリアを中心に多店舗展開するチェーン。川崎を拠点にしている旧友にイチオシされて以来、蒲田で呑んだ後の〆に組み込まれた。タンタンメンと言うけれど実際はニュータンタンメンが正式名である通り、タンタンメンと言われてイメージするそれとは全然違う。イチオシしてきた友人が「体調が悪いとき食べるとどんな薬よりも効いて元気になる(※個人差があります)」と豪語するから試しに連れてってもらうと、出てきたそれはまさにスタミナ麺。具材は、ひき肉、たまご、たっぷりの刻みにんにくと唐辛子。僕はそれにきくらげをオン。パンチが効いていて中毒性が高い味わいだけど、ふわっとしたたまごが中和してくれているから食べやすい。辛さは自分好みに調整できて呑んだ後でもスルスルいける。にんにくと唐辛子のパワーが効いてるからなのか、食べた翌朝が快腸になるのが嬉しい。
■一心ラーメン 東京都新宿区荒木町9-24
フジテレビがお台場に移る前、若松河田にあった頃にはTVマンが夜中から朝方にかけてこぞって通ったという、四ツ谷曙橋の名物ラーメン。僕は新大久保に住んでた頃に友人に連れられて行った。大学の頃や社会人ぺーぺーだった20代前半は車移動が多かったうえ、ほとんど帰宅は深夜だったから、帰りしなにサクッと食べて帰ることも度々あった。ここのラーメンは何と言えばいいのか、、支那そばというけれどこれもまた一般的にイメージする支那そばとはまたちょっと違う。スープが透き通っていてさっぱりしてそうなのに、かなり塩分は高め。脂質も高め。麺は小麦感強め。一言でいえばジャンキーな味わいで好みは分かれるかもしれない。僕はいつも塩ラーメンにきくらげオンなのだけど、看板メニューはエリマキラーメン。海苔が椀を囲うようにセットされているのがエリマキのようだかららしい。刻んだたまねぎが入って、にんにくもたんまり効いているので、うま味とコクと引き換えに口に強烈な香りを残していくが、これもまたその中毒性がやめられず、四ツ谷や御苑にごはんに行くと、今でもつい帰りに寄ってしまいたくなる。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
                      
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