INTERVIEW|「サステイナブル」という哲学を共有する、世界的シェフと一流コーヒーメーカー
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2015年5月12日

INTERVIEW|「サステイナブル」という哲学を共有する、世界的シェフと一流コーヒーメーカー

INTERVIEW|「サステイナブル」という哲学を共有する

世界的シェフと一流コーヒーメーカー

成澤由浩シェフ インタビュー(1)

昨今、衣食住のすべてにおいて、世界中で提唱されている、「sustainable(サステイナブル)」という言葉はご存知だろうか? 将来の環境や次世代利益を考えたうえでの“持続可能”を意味し、「いいもの」「美味しいもの」を味わってしまった私たちにとっては、重要なキーワードとなっている。今回、この“持続可能”というフィロソフィーに共感した成澤シェフが、「ネスプレッソAAAサステイナブル・クオリティ™プログラム」が行われている、ブラジルのコーヒー農園を訪ねた。

Text by FUJII AkiPhotographs by NARISAWA Yuko & Nespresso

「コーヒーは世界で共有している食材」だから、この目で生産地を見たかった

世界に先駆け、「サステイナビリティーとガストロノミーの融合」というテーマで、自然保護に関わる料理を発表している、成澤由浩シェフ。「レストランNARISAWA」(以下、NARISAWA)で提供される「土」のスープや「水」のサラダに代表されるように、料理によって人々に自然を意識させ、料理を通して環境問題を訴えつづけている。一方、企業としてこの“持続可能”をプログラムに掲げるのが、プレミアムポーションコーヒーのパイオニア「NESPRESSO(ネスプレッソ)」。2003年より掲げている「ネスプレッソAAAプログラム」は、高品質なコーヒー豆を将来にわたって確保し、コーヒー生産者の生活向上に貢献することを目的としている。

「NARISAWAでは、ほとんど日本産の食材のみを使用し、例外としてカカオ、スパイス(胡椒)、コーヒーのみを輸入しています。この3種の食材に関してだけは、“世界中の人が生み出す=世界で共有している”という認識をもっているので、以前から、食材の安全性や、土壌、生産者の顔をこの目で見てみたいと思っていました」

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“生産者の顔が見える”ということは、=どういう人が作り、どういった環境で作られ、どうやってその労働環境は守られているか、まで含まれているという。

「ブラジル・サンパウロから小さな飛行機に乗り、空港からは道とも言えないような自然が手つかずの場所を通って農地に向かうと、代々受け継ぐ農園者と、その下でコツコツ働いている労働者たちがいて……。やっぱりなと感じたのが、最初の印象でした」

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熱い気候と豊富な雨を必要とするコーヒーは、大半がレインフォレスト(亜熱帯地方)で作られるため、労働者階級が厳しかったり、出稼ぎや移民も多く、労働環境が過酷な場合が多々ある。労働者の立場が、雇用主に「平等・対等」と掲げ守られている先進国には、まったく追いついてはいないと想像したのだ。

「現地でおばちゃんたちが作ってくれる、黒インゲン豆(ブラジルの豆)をソーセージなどと煮込んだフェジョアーダという料理や、地元で穫れるタピオカを粉にして炒めただけの料理などをいただく機会がありました。いわゆるブラジルの家庭料理で、贅沢ではないけれどすごく美味しくて、現地の人はこの食生活を楽しんでいた。お金もそんなに必要としていないし、昨日とおなじ食事だからといって不幸せと感じているわけではなかった。『今日は中華を食べて、明日は寿司にいって、たまにはイタリアンにもいきたい』という日本のような過剰な感覚ではないんですよね」

先進国では、皆が着ているような洋服を着こなし、皆が同じようなバッグや靴をもっていて…、その“押し上げられた基準”に自分が達していないと、=満たされていない、という感覚になってしまうものだ。

成澤氏は、現地の農園での生活を見て、環境によって人間の“満たされ具合”、いわゆる幸せを感じる度合いは全然違うものだ、と強く感じていた。

そこで、このコーヒー農園で働く人々にとっては、「なにをもって“恵まれている”と感じるのか。なにが守られていなければならないのか?」を真剣に考えたという。

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「最低限、健康であって、過酷過ぎない労働に、休みがきちんと取得できているか、栄養の撮れる食事ができているか、ここで満たされるだけの賃金を得られているか…、これらが守られているかが、すごく重要だと感じました。

すでに『レインフォレスト・アライアンス』でもこういった取り組みはあるが、健康チェックや、労働時間などの基本条件に加え、炎天下での作業が避けられない労働者に帽子を推奨する指導や、機械での挽豆時は勢いで豆が飛んできたりもするので専用ゴーグルをつけて行う事など、コーヒー生産に特化させたネスプレッソのAAA(トリプルエー)は、とても理にかなっていると感じました」

INTERVIEW|「サステイナブル」という哲学を共有する

世界的シェフと一流コーヒーメーカー

成澤由浩シェフ インタビュー(2)

市場価値や需要の高まりも共有し、生産者の純利益が増加するようサポート

また年々、世界中でコーヒーの需要は増えていることにも言及する。いまはお茶や紅茶をより好んでいる中国人やインド人もコーヒーを愛飲しはじめたら、とてつもない消費量となるのだ。

「需要が伸びてくれば、農園は満たされてくるはずですが、売れた分が労働者たちに還元されるのか、農園主だけが儲けていないか、という利益の還元も守られなくてはならない。AAA(トリプルエー)では、農園主に対して、コーヒー豆の市場価格がどれだけあがっているかも含めて開示し、情報の共有もきちんと行われていました。

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ほかにも、畑が病気になってしまったり、不作などの農地問題が起きた時には、ネスプレッソから専門的な学者が農園に出向いて、相談役的な役割も担っていました。生産性のサポートですよね。いわゆる農地や機械などの環境面、それから労働環境、クオリティ、この3つをバランス良く保つことが、“サステイナブル=持続可能”につながるのだ、と実感しました」

世界中における、コーヒー生産力の底上げをするネスプレッソ

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さて、このネスプレッソのポーションコーヒーは、世界のコーヒーの2%のシェアをもつ。「たった2%?」と少なく感じるかもしれないが、昨今のコンビニから自動販売機、自宅の粉まで、身の周りに必ず存在する「世界中のコーヒーのなかの2%」と考えれば、そのシェアのスゴさに気づくだろう。「100人中、2人の労働環境が守られていれば、周りも“これが当たり前なんだ”と影響されて、全体の底上げにもなるのです。現地にいかないとわからないことでしたね。最初は、AAA(トリプルエー)という取り組みに対して、『一種のパフォーマンスなのでは?』と疑っていた部分もあったけれど、現場に対する影響力を目の当たりにしたら、疑いが晴れたという良かった点もありますね」

もう1点、成澤シェフがネスプレッソの取り組みに賛同したのは、コーヒー豆が商品になった後の消費者の反響や反応まで、すべて生産者へフィードバックしている事だという。

昔は、生産者から消費者への一方通行だったので、作ったものがどこで飲まれ、どんな時に誰が飲んでいるかを知ることもなく、生産者の喜びや手応えは少なかったのだ。

「NARISAWAの肉・魚・野菜を、なぜ生産者から直接仕入れているかというと、僕自身も生産者の苦労がわかり、食材の価値をあらためて知ることができるからです。農園に出向くことで、どういう料理になって提供され、どんなお客さんが美味しいと喜んでくれるかを伝えることもできます。生産者はお金では得られない達成感や満足度を得るだけでなく、大変な作業だけどまた頑張ろう、と奮起する力が沸いてきます。僕が築地に行かないのは、生産者とそういったやりとりができないからなんです」

今回の訪問で、おなじやりとりをネスプレッソが企業として行っていることがわかったという成澤シェフ。

「現場を見たからこそ、昨日今日やっている感じではないのが一目瞭然でわかりましたね。継続してネスプレッソからサポートを受けてきた、プロフェッショナルな集団が取り組んできたからこそ、完成度の高い一杯が安定して飲めるのです」

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また、NARISAWAで提供されるオーガニック・コーヒーも、今回訪問したブラジル・ミナスジェライス内の農園で、鶏の飼料まで無農薬を貫く、完全オーガニックという意味では唯一の農園だとうかがった。

「僕のフィロソフィーとしてオーガニックにこだわっているため、ブラジルNo.1のコーヒーメーカー『カフェ・ペレ』から、空輸で生豆を卸してもらっていますが、備長炭でのローストはとても難しく、一杯のコーヒーを淹れるのもなかなか味が安定しません」

成澤シェフ自身が、この一杯の大変さをよく知っているからこそ、ネスプレッソの安定感のレベルや、手軽に愉しめる有り難さもよく理解し、今後も継続されるであろうAAA(トリプルエー)の取り組みに、期待しているのだ。
成澤シェフは、最後にこう話してくれた。

「うちが卸してもらっている農家さんたちは、当初はオーガニックにこだわる先駆者ゆえに変わり者のように扱われることもありました。農家さんたちをサポートする役割を自分がきちんと継続することで、お客様が求める高品質な料理を継続して提供していきたい、とあらためて思いました」

成澤由浩|NARISAWA Yoshihiro
料理家。東京・南青山「NARISAWA」のオーナーシェフ。1969年、愛知県常滑市生まれ。19歳からの8年間をヨーロッパの著名なシェフのもとで過ごし、帰国と同時にオーナーシェフとして神奈川県小田原市に「La Napoule(ラ ナプール)」をオープン。東京から多くの著名人や美食家たちを引き寄せた、港の前の小さなレストランは、いまだ伝説のごとく語り継がれている。2003年、店名を「Les Créations de NARISAWA(レ クレアシヨン ド ナリサワ)」と改め、東京・南青山に移転。2011年、店名を「NARISAWA」に改名。自然の再生と安全な環境への願いを込めたメッセージは、フランス、イタリア、スペイン、ブラジルと世界中の料理学会で称賛され、2011年のマドリッド・フュージョンでは、「世界で最も影響力のあるシェフ」に選ばれている。

NARISAWA/ナリサワ
営業時間|ランチ 12:00-13:00(ラストオーダー)15:00閉店
ディナー 18:30-21:00(ラストオーダー)
日曜定休・祝日不定休
東京都港区南青山2-6-15
Tel. 03-5785-0799

http://www.narisawa-yoshihiro.com/

           
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