連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「-美味しいのは大前提、大事なのは“間”と“距離感”- ひとりで行きたくなるお店」
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2024年5月17日

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「-美味しいのは大前提、大事なのは“間”と“距離感”- ひとりで行きたくなるお店」

連載エッセイ|#ijichimanのぼやき

第53回「-美味しいのは大前提、大事なのは“間”と“距離感”- ひとりで行きたくなるお店」

外食が好きな人でもひとりだと外食できないという人がいる。聞けば、牛丼屋や立ち食い蕎麦などファストフードでやっと行けるかどうか、ラーメン屋もパスタ屋も入れないと言う。でも、美味しいものは好きなのに、である。勝手な推察だけど、美味しいものは好き、知らない店を掘るのも好き、でも、誰かと喋ったり、みんなでお酒を飲むのもセットで好きなわけで、美味しいものを食べたいがためだけにひとりでお店を掘って食べに行くという感じではないのだろう。

Photographs and Text by IJICHI Yasutake

ひとり時間だからこそ、自分に忠実になりたい

東中野:くりから
僕は、何人かで賑やかに楽しむのも、誰かと2人でじっくり会話するのも、ひとりで自分のペースでゆっくりするのも、どれも好き。今日の食事は明日以降の自分の一部になると思っているし(肉体を構成する栄養という意味だけでなく、思考や価値観を形成する知識体験という意味も含めて)、昔とあるセンパイに、1日2~3食として年間約1000食、死ぬまでにあと何食食べられるかと考えたら1食たりともムダにしたくないよね、と言われて腑に落ちたことがあって、ひとりで食べるにしても食べるということを疎かにしたくないと思っている。
新宿三丁目:神場
実は30歳手前になるまでコンビニ弁当を食べたことなかった。今も好んで食べるわけではないけど、当時コンビニ弁当は500円くらいするにも関わらず、防腐剤などの添加物も多いし、美味しくないというウワサを聞いていたから、だったら100円で美味しいと思えるカップラーメンを食べた方が良いと思っていた。今も時間がなくてもコンビニ弁当は食べないし、宅配サービスも使わない。どんな人気店の宅配でも、お店で食べると美味しいのに配達されたものは同じように美味しく感じることができない。冷めてるとか硬くなっているとかいう状態の問題ではなく、容器がチープだったり場の雰囲気が伴わなかったり。極端な言い方をするとなんだか早く腹を満たしてエネルギーを得るための“エサ”を食べているような気になる。やっぱり、食事は栄養摂取でもなければ、味覚だけで楽しむものじゃなくて、五感を使って時間・空間を楽しむものだと思っている。
浅草橋:大吉
ひとりで行って楽しめる店というのは実はなかなか見つけるのが難しい。40を超えた中年男性がひとりでメシに行こうとすると町中華やもつ焼きなんかになりがちで、ともするとそれ一辺倒になってしまう。会食が続いたり家族との食事が日常だったりすると、ひとりごはんは貴重な時間となる。色々行って思うのは、ひとりで楽しめる店でいちばん重要なのは味でも値段でもなく、“間”と”距離感“だということ。誰かと行って美味しくて居心地良くて今度ひとりで行ってみようと思って行ってみたら、ひとりだとちょっと寛げないということもある。疲れていてぼーっとしたいのに店主がずっと話しかけてくる店もちょっといやだし、かと言ってただ黙々と食べるのも寂しかったりする。逆に、ひとりだからこそただひたすら美味しいメシにがっつくのが良いと思う時もある。大プレゼンが終わって充実した日の終わりだったり会食続きの合間の日だったり、ひとり時間だからこそ、その日のテンションや体が求めているものに忠実に、自分にとって心地いい店でしっかり楽しみたい。
■Ata 東京都渋谷区猿楽町2-5 佐藤エステートビル1F
代官山のAtaを知らない人はいないだろう。なぜ今ここでAtaなのかというと、ひとりで行くのにもオススメだからに他ならない。おそらく友人やパートナーと行ったことある人は多々いると思うけど、ひとりで行こうと思った人はあまりいないんじゃないかと思う。けれど考えてみると、ひとりで行くのに最適な要素がすべて揃っている。カウンターでシェフの躍るような調理風景を眺めながら、スパークリングやワインを片手に豪快な魚介料理をつまみ、質の良い肉でしめる。そして26:00まで営業している。そんなお店他にあるだろうか。
■珍味亭 東京都杉並区西荻南3-11-6
都内の台湾料理の名店のひとつ、西荻窪で最も有名なお店のひとつ。西荻窪自体がノストラジックでメディアでも特集が組まれるような人気の街というのも魅力的。お店はコンパクトだからいつも混んでいて、いまだにトイレがどこにあるかもわからず、煙草は床に捨てるスタイル。赤いテーブルも雰囲気があって、The昭和の酒場という感じ。ビールや紹興酒のお供に、豚足や豚タンなど豚の各部位を味わうという、焼き鳥ももつ焼きも町中華もすべてを知り尽くした大人のひとり飲みが楽しめる、文化度抜群の味わい深いお店。
■すぎ田 東京都台東区寿3-8-3
飲める豚カツ屋。僕はなぜか相当な豚カツ好きだと思われている(好きだけど)ようで、前述したとあるセンパイが、都内の豚カツ屋だとすぎ田が良いと教えてくれた。豚カツと言うと白米をがっつりいきたくなるが、すぎ田の良いところは白米と豚汁が別なこと。豚カツ以外のメニューも相当美味しいこと。調理場の清潔感。まず、こんなに麗しいオムレツ見たことあるだろうか。敬愛する別のセンパイもハマったオムレツ。そしてこのオムレツからの豚カツ。サクサクの薄衣で柔らかくジューシーでいてくどくない肉。一度豚カツを楽しんだら、二度目からは、豪快な見た目と裏腹に繊細な美味しさが光る海老フライでもいいし、冬なら牡蠣フライもいい。
■Paseri 東京都品川区上大崎2-26-5 メグロードB1F
抜群の安定感で僕がこよなく愛する目黒サンフェリスタとメグロード。そのメグロードのB1。聞けば、メグロードで二番目に古く、今年で26年目らしい。気取らず飾らず気さくな店主が奇を衒わないオーソドックスな食材をシンプルに仕上げてくれるけれど、絶妙にひと味加わってるのが嬉しいイタリアン。サラダか野菜のグリルまたはカルパッチョをいただいた後にはパスタ。24:00か25:00までやっていて、飲食店が多い場所柄かふらっと行っても入りやすいのもありがたい。職場や自宅が近くなら間違いなく重宝する。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
                      
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