特集|真の避暑地を求めて~長野の至宝、信濃町へ~|第1回「自然とともに生きる“共生型”ホテル」
特集|真の避暑地を求めて
大正時代からつづく“癒しの町”――長野・信濃町
第1回|自然とともに生きる“共生型”ホテル「エルボスコ」
初夏と呼ぶには暑すぎる7月初旬。涼を求めて長野県へ向かった。目的地は小林一茶の故郷として有名な信州・信濃町(しなのまち)。そこには静けさ、豊かな自然、そして地元の人の温かいもてなしが待っていた。
Photographs by JAMANDFIXText by TANAKA Junko (OPENERS)
大正時代からつづく“癒しの町”
東京から新幹線で長野まで約2時間。さらに在来線で30分ほど行った先に、今回の目的地、信濃町がある。そこは長野県の北部、日本で2番目に大きい国立公園、上信越高原国立公園の中心地。国立公園内には、野尻湖と北信五岳(ほくしんごがく)の雄大な景観が広がる。都会を離れて、ただボーッとしたい旅人にとって、絶好の避暑地である。
これは現代人に限った話ではなく、大正時代には、有名になりすぎた軽井沢の喧噪を逃れるように、外国人宣教師たちが野尻湖畔に別荘地を拓いた。それがいまの「野尻湖国際村(※)」に繋がっている。
静かな環境を求めて移り住んだ彼らのこと。その後もシンプルな暮らしと心の豊かさを重視した生活が営まれてきた。たとえば、現在約250戸ある木造の別荘は、国際村ができた当時に建てられたもの。少しずつ修繕しながら今日まで維持してきたのだという。できるだけ自然を壊さず、第二の軽井沢にならないようにという配慮からだ。
国際村の精神を引き継ぐホテル
そんな国際村の精神は、いまもこの町の至るところに息づいている。築29年のホテルをあたらしいコンセプトで蘇らせた「野尻湖ホテル エルボスコ(以下、エルボスコ)」もそのひとつ。2008年、建築家・清家清(せいけ・きよし)さんがデザインした建物をそのままに、「読書するためのホテル」としてリニューアルオープンした。
「なぜ改造ではなく再生だったのか? あたらしいものを作る必要がないとおもったから。ただそれだけです。これはこの先100年でも維持する価値のある建物。再生の方法も、ガラッとお化粧直しをするというよりは、元のあるべき姿に戻していくという、いわば修復作業のようなもの。お客様のニーズに合わなくなった部分を取り除いて、作品がまた息を吹き返せるようにお手伝いをするのが私たちの仕事でした」
そう語るのは、前身「野尻湖プリンスホテル」をエルボスコとして生まれ変わらせた浅生亜也さん。現在、エルボスコをはじめ、国内に8つのアライアンスホテルを擁するアゴーラ・ホスピタリティーズの代表取締役だ。「いいものは残す」と言い切る彼女は、国際村の精神を受け継ぐひとり。大阪府生まれ、ブラジル育ちという経歴も、“よそ者”がカンフル剤となってきたこの町と相性がいい理由かも知れない。
「ホテルの再生というと、建物のデザインから入っていくことが多いとおもうんですが、私たちの場合は逆方向から出発します。どんな人がどんな体験を期待するホテルで、それはどんな空間か。それを全部コンセプトに落とし込んでいくんです。
エルボスコには、普段の忙しい生活のなかで、ふと時間を止めないとできないこと――読書をするために来てもらいたいなと。都会にいると、毎日がどんどんすぎて行くじゃないですか。その時間を少し止めて、読書をするために選んでもらうホテルになればいいなとおもいました」
ホテルが非日常感を味わうための空間とするなら、エルボスコには「別荘」という表現が一番しっくりくる。日常の延長にある、心を休めたり、疲れを癒したり、パワーを充電したりする空間。浅生さんの言葉を借りれば、「ここで体験したことが、普段の生活をより豊かにしてくれる」気がするのだ。
野尻湖ホテル エルボスコ
長野県上水内郡信濃町大字古海4847
Tel. 026-258-2111
客室|50室(ツイン、メゾネット、メゾネットスイート)
チェックイン 15:00、チェックアウト 11:00
会議室|1室
レストラン|3店舗(ダイニング「moment」、ラウンジ、バー「SOBAバー」)
www.nojirikohotel-elbosco.com