連載|Bar OPENERS 第8回「カクテルの似合う夜」
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2015年11月11日

連載|Bar OPENERS 第8回「カクテルの似合う夜」

連載|Bar OPENERS 第8回

「カクテルの似合う夜」(1)

ここは、ウェブ上にのみ存在する、架空のバー「Bar OPENERS」。酒と音楽、そしてバーという空間を楽しむ大人がくつろぎを得られる稀有な場所。その店主を務めるのは実際に自身でバーを経営する小林弘行。OPENERS的な肩肘の張らない、バーの楽しみ方と、今宵使えるウイットに富んだ酒と音楽にまつわるうんちくを連載でお届けする。

Text by KOBAYASHI HiroyukiPhotographs by ITO Yuji (OPENERS)

いらっしゃいませ、ご機嫌いかがですか?

まるで、なにごともなかったかのように夏が終わり、秋が来たかとおもえば、経済効果でバレンタインを上回ったというハロウィンパーティ。さあ、どう出るショコラティエ。水瓶座の水瓶にショコラは残っているのか否か。

「2位決定戦なんてあたしには関係ないわよ」と、気の早いチャンピオンの先走ったクリスマスイルミネーションが輝きを纏いはじめた今日このごろ、12月のプレマンスいかがおすごしですか?

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今年の仮装は透明人間だったBar OPENERSバーテンダーの小林です。

性懲りもなく話が脱線しましたが、ともあれ、以前もお話したように(第5回「スイカ売りは来なかった」を参照)ぼくたちバーテンダーにとっては、ゆっくりと睡眠できる季節となりました。秋晴れの日にしっかり干した、あたたかい陽だまりの薫りがする布団に入ることを想像すると気持ちよすぎて、おもわずテンションがあがって眠れなくなってしまうのではないかと心配になるほどです(笑)。

さて、そんなあたたかさが心に沁みる季節の夜に、おすすめなカクテルをご紹介します。

ビトウィーン ザ シーツです。

レシピは、ブランデー、ラム、ホワイトキュラソー、レモンジュース少々をシェイクしたショートカクテル。

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今回もちょっとアレンジします。通常ラムはホワイトラムを使用するのですが、さらに深いコクを出すためにダークラムを投入。ブランデーとラムのコクと香りに、ホワイトキュラソーとレモンの柑橘類のアクセントが深く、まるで福音のように大いなる眠りへと誘います。

カクテルの教科書を開くと「Between The Sheets」を「ベッドに入って」と見事な訳をつけています。すばらしい訳ですが、夜のベッドサイドカクテルにしては色気が足りない感じもします。

大人の夜には、甘さ控えめな一曲を

連載|Bar OPENERS 第8回

「カクテルの似合う夜」(2)

大人の夜には、甘さ控えめな一曲を

ここで、ピンときた常連さんもいらっしゃることかとおもいますが、Bar OPENERS的にはできる男(もちろんできる女性も)らしく、アイズレー・ブラザーズ(The Isley Brothers)の名曲「Between The Sheets」の名邦題「シルクの似合う夜」と呼びたいところです。

今回そんな色気のあるカクテルにマリアージュさせるのは「Between The Sheets」。といきたいところですが、この曲、デコレーションが多く糖度が高すぎます。ただでさえスイーツが一段とおいしく感じられて食べすぎ注意報な季節、クリスマス前のダイエットに励んでいる方にはちょっとおすすめしづらい曲でもあります(未聴の方はぜひ。うっとりベットリ旨味たっぷりの名曲です)。

そんなわけで、色づく木の葉を隠れ蓑に、木枯らしに乗って今回もソウルファンを裏切り、お届けするのはジェリー・マリガンです。

300

ニューヨークで生まれ、ビッグバンドのアレンジなどでキャリアをスタート。その後、あのスタン・ケントン楽団の編曲や、さらにあのマイルス・デイヴィスの『クールの誕生』のバリトンサックスや作曲で頭角をあらわします。そしてカルフォルニアに移り、彼の人生の核となるチェット・ベイカー(この悪鬼チェット)との、ある意味で非常に濃密な競演を経て、ウエストコーストジャズやクールジャズとよばれるムーブメントの中心人物となります。

木枯らしに含まれた、ひとさじのぬくもり

この時代のマリガン、チェット、モンク、パーカー、マイルスの話なんて、私財を投げ打ってでも(ウソです)だれか映画化してくれないかな〜、とおもうほど本当におもしろいのですが……。ご興味のある方は、もうおわかりですよね。

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その後ニューヨークに拠点を戻し、活動をつづけたのち、1963年にリリースされた、ジェリー・マリガンの名曲や演奏もさることながら、ジム・ホールの名演が相乗効果を最大限にまで引き出したアルバム『Night Lights』より表題曲「Night Lights」です。

ジム・ホールの話しも……。心中お察しください。泣く泣くスルーします。

この曲ではジェリー・マリガンがピアノをプレイ(のちにクラリネットをプレイしたバージョンが、ボーナストラックとしてCDに収録されます)。

裏切りはうつくしく、ウソはつかないのがぼくの美学。ごゆっくりお楽しみください。

忍び寄る秋の夜風にこっそりトッピングされたかのような、凛とした散歩道で繋いだ手から伝わるあたたかさ。すこし糖分は控えめだけれども、身体の内から甘さが溢れる曲をベッドサイドミュージックとして、ぬくもりに満ちた甘い夜をおすごしください。

あなたと夜と音楽に、乾杯。

           
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