連載|Bar OPENERS 第5回「スイカ売りは来なかった」
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2015年10月6日

連載|Bar OPENERS 第5回「スイカ売りは来なかった」

連載|Bar OPENERS

「スイカ売りは来なかった」(1)

ここは、ウェブ上にのみ存在する、架空のバー「Bar OPENERS」。酒と音楽、そしてバーという空間を楽しむ大人がくつろぎを得られる稀有な場所。その店主を務めるのは実際に自身でバーを経営する小林弘行。OPENERS的な肩肘の張らない、バーの楽しみ方と、今宵使えるウイットに富んだ酒と音楽にまつわるうんちくを連載でお届けする。

Text by KOBAYASHI HiroyukiPhotographs by ITO Yuji (OPENERS)

いらっしゃいませ、ご機嫌いかがですか?

しかし今年の夏は暑いですね。

猛暑との予報も大当たりで、いまごろは気象庁および関係各所では、臨時ボーナスでも出ているんじゃないでしょうか。通常の3カ月予想も大切ですが、日本における気象協会の二大行事といえば、開花予想と梅雨明け宣言。しかし、当たっても誰からも褒められず、外れれば日本全国でブーイングの雨あられ。

まぁ、なんとも切ないご職業ですね。暑中お見舞い申し上げます。バーテンダーの小林です。

ぼくは夏に限らずどの季節も、平等に好きなのですが、夏にはネガティヴな要素がひとつ。というのも、多くのバーテンダーは日が昇ってからベッドに入ります。午前中から30度を超える陽気のなか、暑くて眠ることができず、当然ながら寝不足になってしまうのです。とくにクーラーが苦手でして、毎日(毎朝ではない)起きると、タオルを忘れた風呂上がりくらい、汗だくな日々を過ごしております。

さて、皆さん夏といえばおもいだすモノやコトはなんでしょう?

海ですか? それとも山? 花火やカキ氷? 年の数だけ夏を過ごせばそれなりの甘酸っぱい、もしくは苦辛い、儚くも鮮烈なひと夏の恋もあるのではないでしょうか。お熱い恋愛やヤキモチも地球温暖化防止のためにも、ほどほどにしておきたいものです。まったくロマンティックではありませんが、麦茶とまちがえて麺つゆをがぶ飲みした、なんていう懐かしいおもいでの味はしょぱかったですが。

ところで、バーには季節を感じるお酒やカクテルも数多くございます。

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本日はスイカを使用したカクテルを提供いたしましょう。

幼少期、毎年夏休みにおじいちゃんとおばあちゃんのところへ遊びに行くと、近所にランニング(タンクトップ)で頭に手拭い(タオル)を締めたおじさんが、荷台にスイカを載せて自転車を漕ながらぎ売り歩いていました。いまとなっては前世紀の淡いおもいでとなり、その姿も、もう見ることはないのかもしれません。

スイカは意外とアレンジのしがいがあるフルーツでして、たとえばスイカのダイキリ、スイカのレッドアイ、スイカのスプモーニなどで楽しむことができます。

そのなかでも本日は、スイカのソルティドッグをご紹介します。

スタンダードカクテルのひとつ、ソルティドッグはご存知ですか? ウオツカをベースにグレープフルーツを使用し、スノースタイルと呼ばれる、グラスの縁にお塩をデコレーションしたロックスタイルのカクテルです。Bar OPENERSでは、そのグレープフルーツをスイカのジュースにアレンジします。

せっかくですので、使用するお塩に乾燥させたミントと、これも乾燥させたレモンピールと一緒にグラインドしたもの使い、スイカのシャーベットもトッピングしましょうか。

余談ではありますが、スイカにお塩という組み合わせは、甘みが増すからではなく、スイカの90パーセントは水分なので、水分は摂れるけど塩分も必要だよね。ってことでスイカにはお塩という組み合わせは生まれたようです。

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みなさん、スイカの効能はご存知ですか?

水分が豊富なのは前途の通り、ダイエットサプリにも欠かせないトマトの1.4倍も含まれるリコピンをはじめ、動脈硬化を防ぐ働きがあるといわれるイノシトール、利尿作用で老廃物や有害物質を体外に出すシトルリンなどの成分がギッシリ詰まった、ムクミや冷え症の改善効果も期待できるフルーツなのです。

しかしどんな栄養のある物でも摂りすぎは禁物でして、アルコールがプラスされますと利尿作用が促進されるため、必要な水分まで失うこともあるかとおもいますので、就寝前にはミネラルウォーターなどで水分補給することが大切です。

楽園へと導くミュージシャンとは?

連載|Bar OPENERS

「スイカ売りは来なかった」(2)

と、ここで妄想タイムです。

ここは神々さえ、ため息をつくほどに美しい南の楽園。片手にカクテル。心に花束。唇に火の接吻。背中に太陽を。

そしてスマホは脇に置き、深くトリップしてください。怖がらなくて大丈夫です。目を開ければすぐに戻って来れます。さらにその楽園に音楽によって華やかな色彩をマリアージュさせましょう。

ハービー・ハンコックです。

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おっと。モニター越しに「予想通り」「やっぱりね」「ベタ過ぎ」なんて声が相次いで聞こえてきそうですが、今日マリアージュさせるのは「ウォーターメロンマン」。ではなく、アルバム『Lite Me Up』の収録曲「PARADISES」です。

ヒネリのない曲をチョイスするような、子ども騙しの手抜き仕事はいたしませんのでご安心を。

ハービー・ハンコックに限らず、アーティストの人となりを説明するのには、この連載一年分を費やしてもはっきりいって無理です。彼は簡単に言うならば、カメレオンのようにさまざまなジャンルに同化、もしくはすべてを飲み込んでしまう洪水のような多才なミュージシャンです。

ちなみに『LITE ME UP』より遡ること7年前、『洪水』というアルバムを発表しています。これはジャケットの目がヤバイです。

『Lite Me Up』のアルバム自体は、ファンクやダンスをベースにしている、いわばブラコン(お若い方はご存知ないかもしれませんが、ブラック&コンテンポラリーの略)です。お好きな方とっては釈迦に説法ですが、クレジットを見れば一目瞭然でしょう。一曲目からルカサーのやっつけ仕事のようなギターからはじまる、ロッド・テンパートンの作曲による狙い過ぎのポップス。

ほとんどロッド・テンパートンの作曲なのですが、ナラダ・マイケルも参加している、マイケル・ジャクソンのグロテスクといってもいい、成功という地獄へ導いた『Off The Wall』や『THRILLER』の製作チーム、要するにクインシー・ジョーンズ組です。

ロッドテン・パートンやクインシー・ジョーンズを説明するのも、残念ながらぼくの執筆力では「絶対無理」なのは火を見るより明らかです。

とくにクインシーのお母さんとのホラーにも似たうつくしいトラウマなんて、彼を語るうえで最も重要なことではありますが、これもご興味のある方はぜひご検索を。

夏バテには、80年代の薫りを

以前、連載でも書きましたが、やっぱりピアニストには歌いたい方が多いのか、ここまでヴォコーダーを使用して抑制していたようなのですが、「PARADISES」ではハービーが鍵盤を離れて生声でメインヴォーカルを取るという、たぶんセルフコンバート。学芸会の仕切り屋のようなやりたがりです。

ここで「あれ? この曲って」とおもったあなた正解です。

この曲はシカゴやアース、チャカカーンなどのヒット曲でお馴染みのデヴィッドフォスターが作曲と演奏で参加しています。ともあれ、さまざまな要素が詰まった素晴らしい80年代の薫りがアソートされたアルバムですので「PARADISES」に限らず、そそられたお方はアルバム単位でどうぞ。

昨今、厳しい夏ですが、このマリアージュで元気が出ないあなた、難しいことは申しません。夢のなかでBar OPENERSにお越しになるか、いますぐパソコンの電源を切って人生に冷えピタくんを貼ってください。

あなたと夜と音楽に、乾杯。

           
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