連載|Bar OPENERS 第6回「チラリ、気づけば大きなキラリ」
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2015年10月6日

連載|Bar OPENERS 第6回「チラリ、気づけば大きなキラリ」

連載|Bar OPENERS

「チラリ、気づけば大きなキラリ」(1)

ここは、ウェブ上にのみ存在する、架空のバー「Bar OPENERS」。酒と音楽、そしてバーという空間を楽しむ大人がくつろぎを得られる稀有な場所。その店主を務めるのは実際に自身でバーを経営する小林弘行。OPENERS的な肩肘の張らない、バーの楽しみ方と、今宵使えるウイットに富んだ酒と音楽にまつわるうんちくを連載でお届けする。

Text by KOBAYASHI HiroyukiPhotographs by ITO Yuji (OPENERS)

いらっしゃいませ、ご機嫌いかがですか?

さっそくですが男性のみなさん、甘いお菓子はお好きですか? 今日的には“スイーツ”といったほうがよいのでしょうか。

あらためまして、こんばんは。スイーツな男を目指すバーテンダーの小林です。

昔は男がケーキやチョコレートを好きだというと恰好悪い、子どもっぽいなんて言われていた時代もありましたが、時は移ろいゆくもので、最近ではスイーツ男子なる言葉も社会権を得て、甘いお菓子が好きだと公言してもそれほど横目で見られることもなくなりました。

「男は泣いたらアカン」なんて風潮もありましたが、これもだいぶ変わってきましたよね。そりゃ、いつでもどこでも泣いてしまう男も、いかがなものかとおもいますが、これも以前よりも規制緩和されたというか、世間が許容してくれるようになったのではないでしょうか。

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生きていくうえで、多少のストレスはあったほうがよいのかともおもいますが、理不尽な極度の悪質なストレスは、身体によくないと知られています。泣くことはストレス発散に、要するに心のケアに効果的だそうです。世界的にみても女性の寿命が長いのは、このあたりにも関係があるのかもしれません。

ひとは男も女も泣きながら生まれてきたのですから、あまり無理せず涙は堪えなくてよいのかもしれませんね。

やさしいけれどヤワじゃない、男のデザートカクテル

いつものごとく、話がそれましたが、バーには女性はもちろん男性でも気兼ねなく注文できて、しかも絵になる食後にあうスイーツ的なお酒やカクテルも多数ございます。

そんななかから今回ご紹介するのはカクテル、ラスティネイルです。

レシピはスコッチウイスキーとドランブイ。

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スタンダードなラスティネイルは、数種のスコッチをベースにハーブ、スパイス、そしてヒースの花から集められたハチミツで甘みをつけたドランブイというリキュールを使い、ロックスタイルで仕上げたカクテルです。今回もBar OPENERS的に、すこしアレンジしてご提供いたしましょう。

以前はこのドランブイのバリエーションでドランブイクリームというリキュールがあったので、そちらを使ってラスティネイルのクリームバージョンを……とおもったのですが、これが数年前に終売になってしまいました。そこで今回はエドラダワークリームという、エドラダワーというシングルモルトにクリームを配合したリキュールを使用します。

相性を考えれば、カクテルのベースとなるウイスキーをエドラダワーで仕上げればマッチするのでしょうが、手抜きをせずにもうひと捻りしましょう。

ウイスキーはタリスカーをチョイス。

タリスカーはウイスキーのなかでも力強く、海沿いの国道でなにか品定めでもするかのごとく、まとわりつくような潮風をともなう、スモーキーでハードなカテゴリーに入るウイスキーです。

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そんなタリスカーとこのリキュールが出合うことにより、漁に向かう海の男のような、無骨で不器用だけれども時折見せる、ちょっとわかりづらいチラリズム的な優しさが心の芯をゆっくり温め、そのぬくもりは永く心に灯りつづけるような、優しいけれど柔じゃない大人の男のデザートカクテルとなります。

音楽に見え隠れするのは、甘さか哀愁か

連載|Bar OPENERS

「チラリ、気づけば大きなキラリ」(2)

音楽に見え隠れするのは、甘さか哀愁か

ラスティネイルに今回マリアージュさせるのは、スマッピーズ(Smappies)のアルバム『Smappies Ⅱ』より収録曲「FEELING OF BEGINNING」です。

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この曲、夜に似合う色気とエロさがあるのですが、カクテル同様、着飾った色気というよりも、大人の男ならではの信念に裏打ちされた、甘さに隠れた哀愁の香りさえこっそり垣間見えるような曲です。

これも、ひとつのチラリズムですね。

ところでみなさん、SMAPはご存知ですか? 失礼しました、愚問でした(笑)。

ご存知のジャズファンの方も多いかとおもいますが、数年前のSMAPのアルバムには凄腕のジャズミュージシャンが多数参加しておりまして、もちろん歌や楽曲も素晴らしいのですが、なんといっても演奏が恰好いい。

この曲だけとっても、オマー・ハキム、ジョン・パティトゥッチ、フィル・ウッズ、アルバート・メネンデス、ジェイムス・テイラーですからね。

誤解を恐れずに言わせていただけるのならば、SMAPなしでも売れるのではないかとおもうほどの色気のあるメンバーです。

SMAPのファンの方々お許しください。決して悪口ではありません。SMAPはデビューからいまも日本を代表する、二世代を虜にする稀有(けう)なアイドルです。

しかし、僕とおなじ気持ちの方々のおもいが通じてしまったらしく、リリースされたのが『Smappies』です。バックメンバーがアレンジしたSMAPなしのアルバム。やっぱりアレンジも演奏も最高に恰好いいです。

その当時は気がつかなかったのですが、よくライナーを読んでみると、この「FEELING OF BEGINNING」の作曲が「種市弦」とクレジットされています。

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SMAPのアルバムになく『Smappies Ⅱ』にあるもの

このミュージシャン、知人の紹介でデビュー当時に何度か会ったことがあり、かなりの若さでデビューしたシンガーソングライター。デビューアルバムのプロデュースが佐藤博だったのもあり、手に取ったのですが、種市弦の少しかすれたエレガントハスキーな歌声と溢れる楽曲センスに、佐藤博のアレンジがお見事。

その後2、3枚のアルバムを発表し、SMAPや杏里に楽曲提供していたのですが、SMAPのアルバムをチェックしてもこの曲が見当たらない。

想像するに、SMAPのアルバムには収録されなかったが、スマッピーズが拾いあげて収録したのかもしれない。というちょっとミステリアスで変わった経緯の曲です。

SMAPやスマッピーズに拒否反応がみられなかった方は、チェックしてみてください。いまはあまり精力的に活動していないようですが、デビュー時の楽曲と最近の楽曲がYouTubeで何曲か聞けるようです。

世のなかのチラリズム的な小さな平和も、積もれば山にも海にも宇宙にもなる。そうしなければいけない予感がします。

人間、だれしも大それたことはできないかもしれないけれど、愛する人たちが大好きな音楽と大好きなお酒をたのしんでいるあいだは、いかなるものからも守りたいものです。

あなたと夜と音楽に。乾杯。

           
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