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2024年2月9日
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「相対的価値と絶対的価値 -絶対的価値が高い店-」
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき
第52回「相対的価値と絶対的価値 -絶対的価値が高い店-」
昨今価値観が多様化しているという。確かに2000年初期くらいまでは、マイホームにマイカーがあってサザエさんのような家族を築くこと=幸せな形というのが汎用的価値観だった。デートに“わナンバー”で迎えに行こうもんならダサかった。それが2020年以降の今、気づいたらそれは一般論では通用しない価値観になっていた。物質的なものに価値を見出す人が少なくなったからお金=幸せではなくなって、人それぞれの価値観が形成されるようになった。幸せをお金で解決できるなら相対的にお金を持っているかどうかが価値観になるがそうではなくなった。メディアが祭り上げたロールモデルも親に決められたレールも正解ではなく、自分で見つけて決めたことだけが唯一無二の正解とされるようになった。
Photographs and Text by IJICHI Yasutake
正解がないからこそ絶対的価値観が大事な時代
自分で見つけるには知恵も知見も必要だし、リソースもエネルギーもかかる。GOALがあれば逆算して帳尻合わせはできるけど、正解がないと1+1でいきなり答えが見つかる人もいれば、永遠に計算し続けても答えが出ない人もいる。数字は1~10だけじゃなくて億も兆も京もそれ以上も無数にあるし、計算式も九九だけじゃなくて√もΣだってある。「体験値」を持っていれば、日常生活で、京以上の単位も√もΣもほぼ使わないことはわかるけど、「知識情報」だけを持っているとかえって思考を複雑化させてしまって、1+1=2で済むのに余計に色々考えちゃったりする。
刺激を求めてワーッと一気に色々インプットすることは大事だけど、もっと大事なのはそれらを取捨選択して、「自分にとって何が本当に大切なのか」を精査することだと思う。若い頃は新しい刺激に飢えて、というよりも触れるモノ・コトすべてが新鮮で刺激的だったから、新しい体験=新しい価値だと思っていたけれど、四十くらいになってくると、ひとつのことを続けるということも価値だと思えるようになる。ただそれは、いつまでも昭和気質を頑固に偏屈に守るわけじゃなくて、時々柔軟に変化する必要もある。多様化しているからといってまわりに感化され過ぎたり、言い訳して流されていいわけじゃないけど、良いところは取り入れながら自分スタイルにカスタムしていく。
シンプルに考えるということが実は一番難しくて、頭の中にあるネタをすべて出してきて整理して必要なものだけを因数分解して構造的に整理して出たきた成果物が究極のシンプルだから、一見サラッとクリアに見えても実は濃度も密度も濃い。
大衆チェーンから超高級レストラン、予約が取れない焼肉店から一見お断りで紹介制の寿司屋まで。安いか高いか、人が行けない店に行けるかどうか、そういった相対的価値が大事な時もあるけど、やっぱり心地がいいのは絶対的価値が高い店。ナンバーワンよりオンリーワン。まわりがあの店はまずいだなんだ言っても、レビューサイトで点数が低くても、自分が良いと思う店は良い。価値観は多様化して変化しているからこそ、自分の価値観はしっかり持って常にアップデートしていかなきゃいけない。
■おでんせつ 東京都新宿区神楽坂3丁目2 野村ビル2F
「“おかえり”と迎えてもらえるようなお店が欲しい」そう思ったことはないだろうか。自分にとってはここがそれ。冬に差し掛かったある寒い日におでんが食べたいと思って、調べて近くにあったのがここだった。一見ぶっきらぼうで愛想がない女性店主がひとりで切り盛りしてて、カウンターの隅っこに座らされた。ひとりでチビチビやって終盤に差し掛かった頃、「お兄ちゃん大丈夫?」と言われた。「大丈夫すよ、全部おいしかった」と言ったら、「そうじゃなくて、なんかしんどそうだよ」と言われた。ちょうどその日は体調崩した日だったから、こっちも驚いた。その後だいぶ話し込んだし、その後も連ちゃんで行った。神楽坂で40年以上ひとりで切り盛りしているらしい。“シンプル”なおでんに、タコの酢の物や茄子の煮びたしや塩辛、そしてぬる燗。言うことない。
「“おかえり”と迎えてもらえるようなお店が欲しい」そう思ったことはないだろうか。自分にとってはここがそれ。冬に差し掛かったある寒い日におでんが食べたいと思って、調べて近くにあったのがここだった。一見ぶっきらぼうで愛想がない女性店主がひとりで切り盛りしてて、カウンターの隅っこに座らされた。ひとりでチビチビやって終盤に差し掛かった頃、「お兄ちゃん大丈夫?」と言われた。「大丈夫すよ、全部おいしかった」と言ったら、「そうじゃなくて、なんかしんどそうだよ」と言われた。ちょうどその日は体調崩した日だったから、こっちも驚いた。その後だいぶ話し込んだし、その後も連ちゃんで行った。神楽坂で40年以上ひとりで切り盛りしているらしい。“シンプル”なおでんに、タコの酢の物や茄子の煮びたしや塩辛、そしてぬる燗。言うことない。
■光春 東京都世田谷区代沢2-45-9飛田ビル1F
学生の頃からお世話になっているお店。近所に住んでいる友だちがいて毎日のように遊びに行ってお世話になって、良く連れてってもらった。夕ご飯の時間でも、ゲームして遅くなった時間でもいつも同じように迎え入れてくれて、大根餅と青菜炒めと鶏そばをいただくのがお決まりだった。しばらく行かなくなったけど数年ぶりに行ったら店主も覚えていてくれて、また定期的に通うようになった。大根餅はここで初めて食べたのけどにんにく生姜醤油でいただくそれが絶品過ぎて、それからどこに行っても頼むしデパ地下でも買う。けれどもやっぱり光春の大根餅がオンリーワン。どのメニューを食べても紹興酒に抜群に合うし、なにより甕だし紹興酒がべらぼーに美味しい。今年はもう終わっちゃっただろうけど、上海蟹のシーズンもオススメ。
学生の頃からお世話になっているお店。近所に住んでいる友だちがいて毎日のように遊びに行ってお世話になって、良く連れてってもらった。夕ご飯の時間でも、ゲームして遅くなった時間でもいつも同じように迎え入れてくれて、大根餅と青菜炒めと鶏そばをいただくのがお決まりだった。しばらく行かなくなったけど数年ぶりに行ったら店主も覚えていてくれて、また定期的に通うようになった。大根餅はここで初めて食べたのけどにんにく生姜醤油でいただくそれが絶品過ぎて、それからどこに行っても頼むしデパ地下でも買う。けれどもやっぱり光春の大根餅がオンリーワン。どのメニューを食べても紹興酒に抜群に合うし、なにより甕だし紹興酒がべらぼーに美味しい。今年はもう終わっちゃっただろうけど、上海蟹のシーズンもオススメ。
■大福園 東京都台東区浅草2丁目13-6
浅草には人気の焼肉屋がたくさんあって古くからのお店だと本とさやと金楽が有名だが、今いちばん気に入っているのはここ。気に入っている理由は色々あるけれど、予約が取れないこともほぼないし、畳の座敷の雰囲気も好きだし、いつも愛想が良いスタッフの方が元気に対応してくれるし、なんだか馬が合う。店の看板にはカルビのおいしい店と書かれているが、巷ではカルビもいいけどタンがおいしいという評判。かく言う自分もタン好きなので、そのタンに魅せられた。ほどよくジャンクだけどしつこくないタンは白米にも酒にもバッチリ。無類のセンマイ好きの自分の持論は、センマイがおいしい店は肉もおいしいっていうのがあるけれど、センマイもおいしい。肉には特上とか上とかのランク分けもなくて、肉と米と酒というシンプルなメニュー構成。その粋な姿も大好きなところ。
浅草には人気の焼肉屋がたくさんあって古くからのお店だと本とさやと金楽が有名だが、今いちばん気に入っているのはここ。気に入っている理由は色々あるけれど、予約が取れないこともほぼないし、畳の座敷の雰囲気も好きだし、いつも愛想が良いスタッフの方が元気に対応してくれるし、なんだか馬が合う。店の看板にはカルビのおいしい店と書かれているが、巷ではカルビもいいけどタンがおいしいという評判。かく言う自分もタン好きなので、そのタンに魅せられた。ほどよくジャンクだけどしつこくないタンは白米にも酒にもバッチリ。無類のセンマイ好きの自分の持論は、センマイがおいしい店は肉もおいしいっていうのがあるけれど、センマイもおいしい。肉には特上とか上とかのランク分けもなくて、肉と米と酒というシンプルなメニュー構成。その粋な姿も大好きなところ。
■lovat 東京都渋谷区東3-16-6 1F
恵比寿のちょっとはずれ、明治通り沿いのイタリアン。チャカつくことなく静かに、でも気がおけない仲間とはまわりを気にすることなく楽しく過ごせる空気がそこにあるのは、スタッフの方の距離感と愛嬌が絶妙だからか。メニュー数はそれほど多くなくてシンプルな構成ながら、どれを取っても素材も調理も最高。肉をメインにパスタも前菜もひと通り全制覇したくなる。スペシャリテは味はもちろんプレゼンテーションも上手で心を掴んでくる。流されずブラされず王道を行きながら変化を取り入れて、長く愛される、気取らず肩肘張らずの鑑のような店。
恵比寿のちょっとはずれ、明治通り沿いのイタリアン。チャカつくことなく静かに、でも気がおけない仲間とはまわりを気にすることなく楽しく過ごせる空気がそこにあるのは、スタッフの方の距離感と愛嬌が絶妙だからか。メニュー数はそれほど多くなくてシンプルな構成ながら、どれを取っても素材も調理も最高。肉をメインにパスタも前菜もひと通り全制覇したくなる。スペシャリテは味はもちろんプレゼンテーションも上手で心を掴んでくる。流されずブラされず王道を行きながら変化を取り入れて、長く愛される、気取らず肩肘張らずの鑑のような店。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman