京都府亀岡市に誕生した新蒸溜所が明かす、世界が「季の美」を選ぶ理由
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2025年12月11日

京都府亀岡市に誕生した新蒸溜所が明かす、世界が「季の美」を選ぶ理由

 

KINOBI|季の美

 
2025年10月7日、京都府亀岡市に「季の美 京都ドライジン」の新蒸溜所が本格稼働した。生産能力が7〜8倍に拡大する一大プロジェクト——しかしこの施設が示唆するのは、規模の話だけではない。そこでは100%再生可能エネルギーで施設が稼働し、伏見から名水が陸送され、職人たちが独自の製法を守り続ける姿がある。なぜ世界中のバーテンダーやスピリッツ愛好家が「季の美」を選ぶのか、その答えを探してみたい。
 

Text by TSUCHIDA Takashi 

小さな蒸溜所から始まった、世界を魅了する物語

 
2016年、京都市南区吉祥院。その小さな蒸溜所で生まれたクラフトジン「季の美 京都ドライジン」が、世界を驚嘆させた。米由来の口当たりがソフトなベーススピリッツを厳選。柚子、玉露、山椒、赤松——日本ならではのボタニカルを用い、11種類の素材を6つのエレメントに分類して個別に蒸溜する他に類を見ない製法を導入。その繊細で多層的な味わいは、2018年のIWSC(インターナショナルワイン&スピリッツ コンペティション)をはじめとする権威ある国際品評会で次々と最高賞を獲得していった。
 
さらに2021年、決定的な瞬間が訪れる。京都蒸溜所が「インターナショナル ジン プロデューサー オブ ザ イヤー」を2018年に続いて再受賞したのだ。その事実は、もはや単なる製品評価に留まらず、「季の美」の哲学を世界が認めた証となった。
 
世界80カ国以上でスピリッツブランドを展開するペルノ・リカール グループの目に、この京都発のクラフトジンがとまったのは必然だろう。2020年の資本提携を経て、グローバル市場での「季の美」の需要は、加速度的に高まっていく。同社のインテリジェンスチームが分析した結果は明確だった。2035年には、現在の7〜8倍の生産能力が必要になるというのだ。
 
だが、京都において規模を拡大することは容易ではない。アルコール度数の高い蒸溜酒は、京都市内において危険物取扱の対象となり、さらに市内は景観地区としての制約も多い。「季の美 京都ドライジン」の名にふさわしい場所を求めて検討を重ねた末、京都駅から快速で20分という利便性と、先進的なサステナビリティ政策を掲げる亀岡市に、答えが見つかった。
 
一面ガラス張りとなった亀岡市の新蒸溜所外観。正面に新たに導入された4基の蒸溜機が並んでいる。
 

何が「季の美」を、「季の美」たらしめるのか

 
新蒸溜所で目を引くのは、高さ14メートルの2階建て構造、ドイツ・カール社製のオーダーメイド蒸溜機4基、充実したボタニカル保管設備である。しかし真に心を打つのは、一つの事実だ。
 
新たな蒸溜所は、伏見の名水を、ここ亀岡市までトラック輸送しているのだ。
 
京都・伏見は古くから名水の郷として知られる。清酒「月の桂」を醸す増田德兵衞商店の仕込み水は、クリーンでマイルドな天然軟水として、「季の美」のアイデンティティを形作ってきた。
 
もちろん新蒸溜所にも井戸は掘られている。それでもなお、伏見の水を運び続ける理由……それは創業以来の味わいを守り抜くという、揺るぎない決意に他ならない。
 
配管が張り巡らされ、機能美を見せる。最新鋭の設備がここにある。
 
「『季の美』を造るために特化した工場」——蒸溜所オペレーションマネージャーの遠藤光祐氏はそう語る。ドイツ・カール社製の蒸溜機4基は、すべてオーダーメイド。旧工場から移設されたハイブリッド式蒸溜機2基と合わせ、6種類のエレメント(礎・柑・茶・凛・辛・芳)を最適な条件で蒸溜する体制が整えられた。
 
新蒸溜所にて製造を担当する蒸溜オペレーションマネージャーの遠藤光祐氏。
 
この製法こそが、「季の美」の真髄だ。多くのジンが一つのポットスチルですべてのボタニカルを抽出・蒸溜するのに対し、「季の美 京都ドライジン」は11種類のボタニカルを6つのエレメントに分類し、それぞれ最適な条件で蒸溜する。
 
山椒にとってベストな蒸溜条件は、玉露には適さない。玉露のための条件では、山椒の魅力を十全に引き出せない。各ボタニカルのフルポテンシャルを抽出し、それらを絶妙なバランスでブレンドすることで、完璧なハーモニーを表現するのだ。
 
「京都料理のような味わいを目指しています」と遠藤氏は言う。「派手ではなく、澄んでいてクリーン。でもしっかりと味わい深い。素材の味と職人の技が感じ取れる——それが私たちの製造コンセプトです」
 
完成したジンをベーススピリッツで薄める伝統的手法(コンパウンディング)を行わないのも、この哲学の一環だ。純粋な蒸溜のみで製品を完成させるため、蒸溜回数は他ブランドのジンに比べて格段に多い。
 
分別蒸溜ゆえに、他の蒸溜所に比べて多くのタンクが必要となる。
 

美しさは、見えないところにこそ宿る

 
「季の美」という名が意味するのは、「季節の美しさ」だ。日本の四季を一滴に凝縮するという志は、単に味わいだけを指すのではない。それは、持続可能な美しさへの希求でもある。
 
高さ14メートルの新蒸溜所は、その外観も美しい。しかし真の美しさは、見えないところにある。電気ボイラーの採用により、施設は完全な化石燃料フリーを実現した。使用する電力はすべて風力、水力、太陽光、地熱による再生可能エネルギー。これは環境への配慮という以上に、ブランドとしての明確な意思表明だ。季節が巡り続けるように、この蒸溜所も永続的であろうとする。
 
また施設内には、1624年創業の唐紙屋「雲母唐長(KIRA KARACHO)」が監修した伝統文様が随所に配されている。季の美のパッケージにも採用されているこの意匠は、伝統と革新の融合というブランドコンセプトを空間全体で表現する。
 
新蒸溜所の廊下・天井には、伝統文様が施されている。
 
ボタニカル素材の冷蔵・冷凍設備も充実している。マケドニア産のジュニパーベリー、京都産の赤松ウッドチップ、生の笹の葉——。それぞれが最適な状態で保管され、蒸溜のタイミングを待つ。遠藤氏がジュニパーベリーの実を指で潰すと、空間に満ちていたのと同じ華やかな香りが立ちのぼる。原料への敬意と、それを生かす技術。両者が揃って初めて、唯一無二の味わいが生まれている。
 
 

体験を通じて理解する、ブランドの深さ

 
2025年12月現在、新蒸溜所は一般客の見学を受け付けていないが、京都市内のブランドホーム「季の美 House」が、ブランドの世界観を体感できる場として機能している。1階のバー・ショップ、2階のセミナールームでは、2025年12月から1711年創業の「堀金箔粉」とのコラボレーションプログラムがスタート。ミニボトルのラベル製作ワークショップやカクテルテイスティングを通じて、訪れる人々は「季の美」が体現する京都のクラフツマンシップに触れることができる。
 
堀金箔粉との関係は、3周年記念の金箔入り「金の美」にはじまり、その後のレガシーコレクションへと続いている。西陣織の技術や四季の表現など、京都の伝統工芸との協働は、「季の美」が単なるスピリッツではなく、文化的価値を体現する存在であることを示している。
 
 

再発見という体験

 
この「季の美 House」で、改めて「季の美」を口にした。グラスに注がれた透明な液体から立ち上る香りは、京都の山々を吹き抜ける風のように清澄だ。柚子と山椒が織りなす和のハーモニーは、竹林に漂う霧を思わせる。そこには職人の技と京都の美意識、そしてブランドが抱く未来への責任が溶け込んでいた。
 
「季の美」がなぜ世界に選ばれるのか。その問いへの答えが、亀岡市に完成した新蒸溜所には確かにあった。それは、優れた味わいだけに留まらない。規模が7〜8倍になっても、伏見の水を運ぶ。最新の設備を導入しても、創業以来の製法を守る。世界市場での需要が高まっても、京都のクラフツマンシップに妥協しない——その一貫した姿勢こそが、答えだった。
 
ジンにおける“プレミアム”とは何か。それは価格や希少性を示すものではない。ブランドが守り続ける哲学の純度である。妥協なき誠実さが、一滴一滴に宿る。だからこそ世界中のバーテンダーが、スピリッツ愛好家が、この京都生まれのジンを選び続けるのだろう。
 
 
「季の美 京都ドライジン700ml」5500円(参考小売価格・税込)。11種類のボタニカルが優しく溶け込む「季の美」なら、食中酒としても完璧なマッチングを見せる。
 
 
→季の美 Houseでのセミナーの予約はこちらhttps://www.tablecheck.com/shops/thehouseofkinobi/reserve
取材協力

京都蒸溜所、ペルノ・リカール ジャパン
https://kyotodistillery.jp

 
 
 
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