ブラックフォレスト蒸留所にて、見て感じてきたこと|MONKEY 47
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2020年8月3日

ブラックフォレスト蒸留所にて、見て感じてきたこと|MONKEY 47

MONKEY 47|モンキー フォーティセブン

徹底したこだわり、ブレない個性。小さな蒸留所が創り出すスタイルそのものを味わいたい

コロナ禍にある現在では、まるで遠い昔のように思えるのですが、わたくし、2020年2月に「MONKEY 47」の故郷、ブラックフォレスト蒸留所訪問という貴重な機会を得て、ドイツへの弾丸旅行に行ってきました。この記事は、その訪問記となります。

Edit & Text by TSUCHIDA Takashi

そもそもブラックフォレストってどこ?

ブラックフォレストとは、ドイツの南西に位置する地域一帯。日本でも“黒い森”という名で通っています。なぜ黒いのかって? この地域は、針葉樹が多く、葉が太陽を反射しないために黒く見えるからです。
この地域は、古くから蒸留が行なわれてきた地域。現在も、家族経営レベルの小さな蒸留所を含め、およそ2万もの蒸留所がこの地域に点在しています。ただし、この地域で作られてきたのは、シュナプス、リキュール、フルーツブランデーが主な生産品。地元産のフルーツ、草花、ハーブなどのボタニカル資源が豊かなこと、そして森の水資源が豊富であることが背景にあります。つまりブラックフォレスト地域一帯に蒸留所が発展してきた歴史があり、それゆえ高度な蒸留技術がこの地で育まれてきたのです。
「MONKEY 47」に話を戻します。2015年に新装されたブラックフォレスト蒸留所は、大きく分けて4つの建物で構成されていました。製造棟、蒸留棟、貯蔵棟、ビジターセンターです。ただし外観はこの地方らしい家屋そのもの。ここが世界最高峰のクラフト・ジンの蒸留施設とは、外からは想像できませんでした。
ところが屋内に一歩足を踏み入れると、そこは近代設備が整った、清潔で美しい作業現場となっていました。なかでも圧巻はポットスチル。そのスタイリッシュで、他に類を見ないフォルムは、機能美に溢れていました。ポットの背の高さは、それだけクリアな蒸留をさせるためのもの。さらには芳しい香り、スパイスやボタニカルの材料を感じさせる工夫が施されていました。

製造棟

ところで、皆さんジンの作り方ってご存知ですか? わたくしはここで初めて教えてもらいました。ジン製造のキモは、浸漬と蒸留に尽きるようです。なぜなら、ベースとなるスピリッツは通常、専門業者から購入するものだからです。ワインやウイスキーと大きく異なるのがこの部分。なかにはベースのスピリッツも自ら製造するブランドはあるそうですが、それはあくまで少数派。なぜならベースのスピリッツでは味、品質面における差異がほとんど生まれないからです。
したがって「MONKEY 47」の製造現場でも、香りと味付けのキモとなる浸漬(しんせき)作業からはじまります。なんせ47種類! ものアイテムが使用されるのですから大変。もちろん、こんなにもたくさんの材料を使用するジンは他にありません。
製造棟では、毎朝6:30から地元スタッフによってフルーツのピーリングが行なわれます。オレンジ、グレープフルーツは、実ではなく皮を使うからです。そのほかペパーミント、クミン、ペッパー、シナモン、ナツメグ、ラベンダー、セイヨウトウキ、ドイツトウヒ、コリアンダー、アカシア、クランベリーなどなど。
そしてジンのキモとなるジュニパーベリー(※ジュニパーベリーを使用するスピリットのことをジンと呼びます。だから、ジュニパーベリーはジン作りのキモ)はホールの状態で仕入れ、蒸留所で粉砕。そうすることで乾燥を防ぎ、アルコールに浸漬した際により高い香りが抽出されます。ちなみに、47種類の材料のうち、およそ1/3は地元のブラックフォレストで採取されているものを使用しているとか。世界最高の素材を追求しつつも、地元愛に満ちています。

ブラックフォレスト蒸留所にて、見て感じてきたこと

続いては、フルーツやボタニカルを専用のジャーの中でベースとなるスピリッツに漬け込む作業。電動ミキサーを用いて、粉砕された原材料およびフルーツの皮を漬け込み、掻き回します。専用の青いジャー(40リットル)1樽からは、約120本のドライ・ジンが作られます。
ちなみに「MONKEY 47」で使用するベーススピリッツは、サトウキビから作られたモラセス由来のアルコール度数約94%スピリッツ。これにブラックフォレストの湧き水を注ぎ、アルコール度数約70%にまで落としています。アルコール度数が高すぎると、無駄な香りまで引き出されてしまうためとか。浸漬工程は、36時間かけて完了です。

蒸留棟

ブラックフォレスト蒸留所には、オリジナルの蒸留器が設えられていました。100リットルの銅製蒸留器4つからなる、きらびやかな蒸留器は特注品。2015年に新設されたものです。
カーターヘッド式(※)をベースの設計としながら配置を変えた、まったく新しい蒸留器では、繊細なアロマを段階的に分離しながら抽出することができ、これによって「MONKEY 47」の絶妙な香りのバランスが作られます。
※カーターヘッド式蒸留器は、スピリッツを加熱させた蒸気をバスケットに入れたボタニカルに通すことで香り付けを行なう蒸留器のこと。
ボタニカルを浸漬させたスピリッツの蒸気がラベンダー、レモンピール、グレープフルーツピールの入ったバスケットを通り、ろ過、凝縮されることで蒸留液が抽出されます。
温度によって段階的に変わる香りを、マスターディスティラーが蒸留液を慎重に適量ずつ取り出し、ブレンドすることで香りにコントラストが生まれます。
ブラックフォレスト蒸留所では、従来型の1000リットル蒸留器に代わって、100リットルの小型のものを採用しています。温浸のため銅の表面率を最適化、蒸留サイクルに合わせてボタニカルの香りの抽出を微調整することを可能にするためです。
※4台の蒸留器には一つひとつ、歴史上有名なサルの名前が付けられています。
King Louie、Cheetah、Herr Nilson、Miss Baker

King Louie: ジャングルブックに登場するサル
Cheetah: 映画ターザンに登場するサル
Herr Nilsson: 長靴下のピッピに登場するサル
Miss Baker: 初めて宇宙に行ったサル
蒸留液は再び製造施設に戻り、伝統的な陶器のなかで3カ月間熟成されることで、まろやかさとバランスが生まれます。その後、ブラックフォレストの湧き水を加え、アルコール度数を47%まで下げます。また「MONKEY 47」は独特で複雑な香りの幅を保つため、蒸留後にろ過を行なわないことも特徴です。
※ボトリングは、蒸留所外で行なわれています。

貯蔵棟

このスペースでは、「MONKEY 47」の製品開発への取り組みも垣間見えました。貯蔵庫には、様々な液色のジンが保管されています。そして、異なる品種の木樽での熟成が実験的に行なわれています。まるで、ウイスキーのようです!

ビジターセンター

スタイリッシュなディスプレイが施されているビジターセンター。ここでは、訪れた人々に、ウェルカムドリンクとして「モンキートニック」が振る舞われます。定番のドライ・ジンやスロー・ジンはもちろん、限定ボトル、冊子『MONKEY DRUM』、陶器製のオリジナルタンブラー、エプロン、ミニボトルの販売もありました。
また同施設の2階は食事ができるスペースとなっていて、ここではドイツの伝統的な料理をいただきました。ドイツの農家のスペースをスタイリッシュにデザインした空間は、こだわり満載。ドイツの有名なフィリップ・マインツァー事務所が設計を担当、モダニズム溢れる家具ブランドe15(https://www.e15.com/en/)のファニチャーが使用されています。
さて、以上が蒸留所見学の全内容でした。社員たった26人で、製造工程すべてをハンドリングしているとは驚きですが、逆に、小回りを効かせることで、「MONKEY 47」は少量生産・超高品質を保っていくのでしょう。モノづくりの現場は、どんな場所でも面白いものですが、とりわけブラックフォレスト蒸留所は、こだわりが清々しいほどに貫かれていて、日本の茶道に通じる“背筋がシャキっと通っている”印象を持ちました。自分たちのブランドを愛していて、誇りを持っていました。プロ意識で、自分の仕事をしていると感じました。
酒とは、その味とともに、世界観を共感し、ともに浸るものだとわたくしは思っています。その楽しみを「MONKEY 47」は、これからも与えてくれるに違いありません。わたくしたちを迎えてくれたチームの暖かさに触れ、そう感じました。コロナ禍が収まった暁には、そしてブラックフォレストに行くチャンスがあったら、皆さんもこの蒸留所をぜひ訪れてみてください。きっとわたくしと同じ思いを抱くはずですから。そしてミシュランの当たり地域と言われるブラックフォレスト一帯の星付きレストランを、一軒一軒、堪能していくのも素敵だと思いますよ。
問い合わせ先

モンキー 47 / ペルノ・リカール・ジャパン
Tel.03-5802-2671
http://www.pernod-ricard-japan.com/