フランス シャンパーニュ紀行|Chapter 1|Introduction & Bollinger ボランジェ
LOUNGE / EAT
2015年3月23日

フランス シャンパーニュ紀行|Chapter 1|Introduction & Bollinger ボランジェ

Chapter1|Introduction & Bollinger ボランジェ

幸福な時、悲しい時、シャンパーニュを口にします。
寂しい時に飲むこともあります。
誰かと一緒の時には欠かせない存在です。
お腹がすいていない時はちょっぴりたしなみ、空腹の時にはのむのです。
それ以外には、シャンパーニュには手を触れません。
のどが渇いていない限り。

――「マダム・リリー」ことボランジェ夫人
(1961年10月17日、ロンドン・デイリー・メール紙)

Photo&Cooperation by Kenichi SaitoEdit&Text by Yumiko Akita

intro_cathedral

世界遺産ランスのノートル・ダム大聖堂

intro_sg_327

シャガールのステンドグラス

7つのメゾンをめぐる旅

11月初旬、パリから東へ150kmに位置する晩秋のシャンパーニュ地方はすでに枯葉色に染められていた。各メゾンによって違いはあるが、この時期は、今年収穫されたぶどうを発酵させる重要なプロセスを経て、ワインの質を見極める第一段階のテイスティングへの準備がすすめられる時期にあたる。つまり、メゾンにとっては、収穫前から続いた緊迫感が少し和らぐ頃でもあり、訪問するにも適した時期なのだ。「大事なワインの仕込みで忙しい時期は断られる事もある」とはワインジャーナリストの斉藤研一氏。実際、数件のカルト人気を誇る小規模生産者はうまくスケジュールが合わず、来年の訪問へと持ち越される事になったという。

しかしながら、今回訪問したのは、自家栽培のぶどうと栽培農家と契約して得たぶどうやワインを使ってシャンパーニュづくりを行う、ネゴシアン・マニピュラン(NM)といわれる7メゾン。ぶどうに対するこだわり、安定した品質の高さで評価されている各メゾンの歴史、数世紀も前から存在する地下カーヴの広大さと近代的な醸造設備、何年も熟成させセラーに保存されたヴィンテージワイン、暖炉のあるサロンでの試飲…etc.この7メゾンは、シャンパーニュという奇跡の泡を理解するのに十分すぎるほど贅沢なラインナップである。

今回訪問した中で、一般のビジットを受け入れているところはルイナール、モエ・エ・シャンドン社だけである。この好機を得たビジットチームは、主催者でありワインジャーナリストの斉藤氏、通訳を含め計9人。拠点にしたのは、中世には歴代国王の戴冠式が行われ、シャガール作品のステンドグラス、ジャンヌ・ダルクで有名な、ノートル・ダム大聖堂のある街、ランス。この美しいゴシック建築だけでも見る価値があるというのに、ましてや名門シャンパーニュ・メゾンでのプレステージ・シャンパーニュの試飲の数々は、期待以上の侮れないツアーとなったのだった。計7メゾンの訪問で得た貴重な話とデギュスタシオン(試飲)を数回にわたって記録していきたい。

Bollinger ボランジェ
熟成感を求めた力強くスタイリッシュな飲み心地

わかりやすく言ってしまうと、シャンパーニュには女性的なタイプと男性的なタイプがある。前者はふんわりした丸み、やさしさを感じ、後者は圧倒されるような力強さとふくらみが表現されている。1829年創業のボランジェが後者のタイプを重んじるメゾンであることは、『007』のジェームズ・ボンドが愛飲していることでもわかる。例えば、今回訪問したメゾンの中では女性的でエレガントさを身上とするルイナールのブラン・ド・ブランを愛飲していると聞いたらキャスティングも変わっていたはずである。そうしたボンドイメージも手伝ってか、ボランジェを好む男(女)には、なぜか『トム・フォードのスーツ(『慰めの報酬』でボンドが着用)が似合ってしまうようなスタイリッシュさ』があるような気がしてしまうのは私だけではないはず。

007_bullet_327

007シリーズ『慰めの報酬』の公開を記念して昨年リリースされたコレクターズアイテムが飾られたサロン。ワルサーPPKの弾丸をモチーフにしたケースにはラ・グランダネ1999が仕込まれている。

ボンドも愛するグラマラスな風味の秘密

それに加えてボランジェスタイルの核ともいえる「樽発酵、樽熟成」することによるボリューム感とマッシュルームのような風味やクリーミーな泡立ちは、いやおうなしにグラマラスな気分を盛り上げてくれる。「樽発酵、樽熟成」を行うメゾンはシャンパーニュでは例外的で、繊細なケアとメンテナンス、スペースの確保や資力を必要とするため、そこまでのこだわりを見せるメゾンはクリュグやジャクソン、ジャック・セロスなど数社しかない。また、ボランジェではピノ・ノワール比率を6割、ピノ・ムニエを2割に抑えることをひとつのコンセプトとして掲げている。ボリューム感が出るピノ・ノワールを贅沢に使用し、フルーティでまるみを出しやすいムニエは必要最小限にとどめ、熟成速度が他のぶどう品種より早いピノ・ムニエは樽発酵をさせていない。ぶどうの特徴を損ないかねないからだ。

VVF_casks_327

発酵中の2009年ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ(VVF)

極めて高いといえる品質の秘密はそれだけではない。2009年11月時点で全体の60%のぶどうを自社畑(163ha)でまかない、そのうち85%がグラン・クリュにあたる。さらに、グラン・クリュとプルミエ・クリュのぶどうを使用する比率は、今回試飲した3年熟成のスペシャル・キュヴェでミニマム80%以上、最低5年の熟成を経て出荷されるラ・グランダネで100%(R.D.も同比率)というクリュ比率の高さにも表れている。つまり、ぶどうの質自体がとてつもなく高いのだ。そうでなければ,長年の熟成に持ちこたえるシャンパーニュはできないのである。

VVFと言われる奇跡の畑

「他に、ボランジェだけの特徴として何がありますか?」と聞かれ「フィロキセラの難を逃れたぶどう畑」について言い当てることができたら、なかなかのシャンパーニュ通である。試飲は叶わなかったが、ボランジェでは接ぎ木をせずマルコタージュという方法で古来のぶどう品種が植えられた2つの区画がメゾンのすぐ隣にある。1800年代にヨーロッパで大流行し、ほとんどが枯死したと言われるフィロキセラ(寄生虫)の難を逃れたピノ・ノワール100%でつくられたのが、ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズ(VVF)という奇跡のシャンパーニュとも言われる存在。通常でも10樽ほど、2009年は8.5樽のみという稀少な量ではあるが、他の畑からとれたものと同様、醸造途中でボランジェの品質基準に叶わなかったらVVFとして流通することはないという。

vvf_327

ヴィエイユ・ヴィーニュ・フランセーズの畑

2009年ヴィンテージの評価はいかに?

2009年、ブルゴーニュでは「グレート・ヴィンテージになる可能性が高い」という声が多かったが、ここボランジェでも「90%の確率でよい年になるだろう」と言われていた。もちろん「今の段階では」という一言を付け足されるのだが、それは、収穫の段階で糖度が科学的に分析された結果の読みであって、醸造の最中にエラーが出ることもあれば、何が起こるか予測不可能な部分がある、といった経験による用心深さからくるものだ。いずれにせよ、今年がグレート・ヴィンテージになるかどうかはもう少し時期を待たねばならない。

毎年のトレンドや目先の利益を重視し、グローバル戦略を余儀なくされる現在の経済システムにおいて、2世紀にわたる家族経営で守られてきた品質とスタイルは、貴重な意味を持つ。1941年に経営を受け継いだジャック・ボランジェ婦人である、マダム・リリーの確固たる信念により厳しい基準が設けられ、さらなる「品質とスタイル」が守られてきたことで、我々はいつでもグラマラスな気分を味わう事ができる。あの恋愛にも似た軽やかで複雑さを秘めた力強い余韻がいつでも手に入るのだから。

デギュスタシオン記録

Special Cuvée スペシャル・キュヴェ
ぶどう品種|ピノ・ノワール60%、シャルドネ25%、ピノ・ムニエ15%
参考価格|7875円

ボランジェ生産量の80%を占めるのがこのスペシャル・キュヴェ。3年以上熟成させ、クリュ比率80%以上のぶどうを使用。「コルドン(数珠つなぎ)状のゴールドの泡目が美しいですね。トースト香が口の中で広がり、ローストしたナッツやドライフルーツの風味が表れ、心地よい酸と共に甘く香ばしい響きで満たされてしまいます。このレベルの高さは値段的にいうとかなりリーズナブルな飲みごたえと言えます」と斉藤氏。

Bollinger Rosé ボランジェ・ロゼ
ぶどう品種|ピノ・ノワール62%、シャルドネ24%、ピノ・ムニエ14%
参考価格|1万500円

スペシャル・キュヴェをベースにアイとヴェルズネイのグラン・クリュ畑のピノ・ノワールでつくられた赤ワインを5〜6%加えている。タイトに引き締まった繊細な風味に色のパレットのように果実の風味が豊かに現れる。

La Grande Année ラ・グランダネ 2000
ぶどう品種|ピノ・ノワール65%、シャルドネ35%
参考価格|1万8375円

当たり年にのみつくられる、ボランジェのキュヴェ・プレステージ。樽発酵させた後、コルク栓をして5年以上の瓶熟成を経て出荷される。試飲したものは2009年1月にデゴルジュ(澱抜き)された8年熟成のもの。「まだ若く、あと5〜6年は待ちたい。ポテンシャルの高さとキメの細かさは出色」と斉藤氏。温度を上げてデキャンタするとカフェ・ノワゼットの香りが出てくるとか。

取材協力|
Bollinger
www.champagne-bollinger.com
サロン・ド・ヴィノフル
Tel. 03-5795-2553

日本問い合わせ先|
アルカン
Tel.03-3664-6591

           
Photo Gallery