NEWS|生産者の思いと産物を届ける“食べる情報誌”に注目
NEWS|東日本大震災からの地域復興のあたらしいスキーム
生産者の思いと産物を届ける“食べる情報誌”
地域の特産品などの実際の生産物と、生産者の情報をセットで送る月刊情報誌『食べる通信』が東北で生まれてから約1年3カ月。その取り組みは四国、東松島、新潟、会津、神奈川、沖縄へと広がり、同様の仕組みが各地に生まれつつある。
今回、NPO法人JKSKが東北の震災後から継続的におこなっている被災地での交流会や、そこから生まれた事業を推進する「結結(ゆいゆい)プロジェクト」に同行して取材した。
Text by MINOWA Yayoi(環境ジャーナリスト)
日本の食を生産地から変える
『東北 食べる通信』ではひとりの生産者、産物を深くとりあげ、生産者の思い、生産過程から調理方法まで、タブロイド版の贅たくな紙面でじっくりと掘り下げる。紙面から生産者の息づかいが聞こえるようだ。
消費者に、食べものを育む日本の生産地と生産者に対する関心をもってもらい、継続したサポーターになることで、作り手をささえていく仕組みである。購入者は、食の幸を楽しむだけでなくFacebookなどのSNSを通じて、直接作り手と交流したり、生産現場を訪れるツアーなどにも参加できる生産者と消費者が、直接コミュニケーションをとれることも大きな特徴だ。
アメリカなどでも広がっているという地域支援型農業(CSA)※の考え方を基本としたものということだが、仕組みを考案したのは、NPO法人東北開墾代表理事の高橋博之氏だ。
高橋氏が『東北 食べる通信』を立ち上げた目的は、農家や漁師などの作り手の社会的地位を上げたいからだという。農業や漁業が盛んな地域であっても、農家や漁師になる担い手は減少する一方だ。
就職先を考える若者にとって、4Kのイメージが大きい第一産業は敬遠されることが多い。その結果、漁師は減りつづけ、現在はわずか17万人。それも高齢者が多いという。農家も年間10万人の離農がつづいている。
レストランのシェフがクローズアップされることがあっても、その素材を作っている生産者にスポットが当たることは少ない。私たちがスーパーへ行くときも、価格、鮮度、生産地域を確認するくらいで、生産者とは切り離されている。
高橋さんはこのような状況を打破するには、食の裏側にある生産者の姿をしっかり紹介し、生産者がリスペクトされる仕組みを作るしかないと考えた。それによって生産者の収入も増えれば、第一次産業をめざす若者も増えるはずだと。
「世なおしは、食なおし」。食べる通信のスローガンは、食を通じて世の中の仕組みを変えていく気概が感じられる。紙面の作りも説得力があり、今年のグッドデザイン大賞にノミネートもされているほどだ。
※地域支援型農業(CSA):Community Supported Agricultureの略。前払いなどによって、消費者が生産者を買い支える仕組み。
「食発見は街おこし」=『東松島 食べる通信』
『食べる通信』では、市町村単位での発行もある。それが宮城県東松島市で発行された『東松島 食べる通信』だ。
もともと、『東北 食べる通信』2月号で、東松島市の海苔漁師の相澤太氏が特集された際に、サポートをしたのが太田将司氏である。彼は東松島で市の特産品を扱うアンテナショップを運営しており、市の生産者との太いパイプがあった。
海苔漁師の相澤氏をとり上げた特集は、さまざまな反響があったという。生産者である彼自身が注目されたことはもちろん、相澤氏の海苔を扱う周りの地元のスタッフが生産者の想いを理解し、販売する誇りと「もっと売りたい」という意欲になってあらわれたのがとくにうれしかったという。
そのことで太田氏は、『食べる通信』は、作り手と食べるひとの距離を縮めるだけでなく、地元のひとの意識を変える力があると気づいたのだ。
『東松島 食べる通信』のスキームは『東北 食べる通信』とおなじだが、コンセプトが少し異なる。「食発見は町おこし」をスローガンにする。
「地元の人に地元の産物をよく知ってもらう。そしてそれを大事に大切にすることが町の元気につながっていけば」と太田氏は言う。
今年8月に創刊された『東松島 食べる通信』の第一号の特集は「真イワシ」。親子で定置網漁を営む大友康広氏が特集されたが、出荷は自然相手のもの。安定した出荷をおこなうのにかなり苦労をしたという。
消費者からは、「おいしかった」という感想だけでなく、「自然と向き合う大変さを知りました」というメールも。生産者の苦労は、消費者の心にも届いたようだ。
生産者と消費者を結ぶ『食べる通信』。全国各地での反響も大きく、今後さまざまな地域での展開が期待されている。