大門酒造 伝統の継承者としての新たなる挑戦|DAIMON BREWERY
LOUNGE / EAT
2018年5月15日

大門酒造 伝統の継承者としての新たなる挑戦|DAIMON BREWERY

EAT|大門酒造

伝統の継承者としての新たなる挑戦

伝統を守り抜くということは、並大抵のことではない。それを守るために何かを手放さなくてはならないこともあるだろう。かつては予想だにしなかった新しいもの考えを取り入れる必要も生まれるかもしれない。だが、失われたら二度と手に入らない大切なものを次世代に残すためには、時代に応じた英断というものが必要になる時がある。1826年から続く造り酒屋の大門酒造にとって、この数年で下された大きな決断は、まさに英断と呼べるだろう。伝統を守るための覚悟と言い換えてもいいかもしれない。

Text by MAKIGUCHI June

歴史を彩る新たなる門出

2017年10月1日。“日本酒の日”であるこの日、大阪の交野にある大門酒造には、国内外から日本酒好きが集まっていた。地元の人々、国内の日本酒愛好家に加え、海外の投資家も駆けつけていた。

6代目蔵元兼杜氏を務める大門康剛氏にとって、大門の酒を愛する彼らと直に接することのできるこの大門フェスティバルは待ちに待ったもの。大門酒造の新たなる出発を表明する日でもあったからだ。

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創業者・半左衛門喜之の名前からつけられた酒半という屋号を持つ大門酒造。生駒山系のふもとに位置し、文政九年(1826年)より、山からの豊かな湧き水と、豊かな自然に育まれた肥沃な地で育まれた米から、酸味の効いた飲み口のさわやかな酒を造り続けている。

日本酒を通じて日本の文化を体感できる酒蔵になりたいという思いが込められた「DAIMON」シリーズは、大切な人との時間やくつろぎの空間など、様々な食事シーンを彩るにふさわしく、国境を越えて様々な料理とのマリアージュを意識した4種がラインナップされている。

一方、190年以上の歴史を感じさせる、伝統的な日本酒のうまみを感じさせる美酒が「利休梅」シリーズ。清少納言が、枕草子で「野はかた野、、、」とその情緒ある自然を讃えた交野が原。大阪府の北東部、奈良との県境に位置するこの地は、古くから稲作が栄えた土地であり、その恵みと豊かな文化の継承を存分に感じさせる日本酒だ。いずれも、2018年からラベルをリニューアル。実は、そこに新たなる門出への秘めたる決意が感じられるのだ。

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「DAIMON」シリーズ

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「利休梅」シリーズ

実は、日本酒の国内消費量は減少している。おや、と思われる方も多いだろう。昨今、海外での日本酒人気が頻繁に伝えられているし、入手困難と言われる銘柄も多い。プレミアム酒と呼ばれる純米酒や純米大吟醸酒など地酒の類は人気が高まっている。

だが、日常的に楽しむ酒としては、ビールやワインなどの消費量が多い。日本人にとっても、もはや日本酒は日常的な酒ではなくなって久しいのだ。長年にわたる日本酒文化の衰退がたたり、大門酒造も一時経営危機に陥った。敷地内には立派な酒蔵をはじめとする伝統的な建物があるが、それらを失う寸前までいったのである。

そんなとき、頼もしい助っ人が現れた。大門酒造の歴史と伝統を生かしながら、文化を継承していくため共に再生を目指そうとする仲間たちだ。

大門酒造を救ったのは、香港を中心とした個人投資家たち。日本酒が好き、日本の食文化に可能性を感じている、日本の伝統に敬意を抱いている、歴史ある日本文化に関わることに興味がある、など理由は様々。だが彼らに共通しているのは、我々日本人が、存在していることを当たり前に感じてしまっている伝統や文化に、大きな敬意を表してくれているということだ。

伝統的な日本文化の担い手たちの多くは、外からの干渉を嫌う。つまり、大門の決断はこの業界ではかなり特別なものなのだ。それを可能したのは、大門康剛氏の視野の広さだろう。

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6代目蔵元兼杜氏を務める大門康剛氏

大門氏は若い頃に世界を放浪したという、杜氏としては異色の経験を持つ。

日本を外から眺め「世界に日本酒と日本文化の素晴らしさを伝えたい」という思いが募り今に至ることから、伝統文化の継承者として自分が最もすべきことが明快で、決断に迷いがなかったのだろう。

つまり“良き理解者に国境はない”ということを知っているのだ。

Page02. 良い酒を造るためにすべきこと

EAT|大門酒造

伝統の継承者としての新たなる挑戦 (2)

良い酒を造るためにすべきこと

現在、代表取締役CEOとして大門酒造の経営を取り仕切るのは、米国出身のマーカス・コンソリーニ氏だ。日本文化に造詣が深いこと、京都の町家再生プロジェクトに関わった経験があること、実家が飲食ビジネスを展開していることなどが、大門の新たなる挑戦への大きなチカラとなっている。

「日本では、長い歴史があるものが人知れず失われていく。海外であれば、大門酒造ほど歴史がある酒蔵が危機にあるとなれば、大きな話題になるはずなのに。

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代表取締役CEOマーカス・コンソリーニ氏

日本では、誰かに助けてほしいと声を上げることが、格好悪いことだと思われているのかもしれません。だから、静かに消えゆく伝統も多いのでしょう。伝統的な文化に憧れを持つ者にとっては、驚くべきことです。古いものを壊してしまったらもう取り返しがつかない。損失の重大性がよくわかっている大門酒造には、助けを求める勇気があったのです。

もし、国内で手立てが見つけられないなら、海外に目を向けて欲しい。喜んで手を差し伸べる人々が海外には多くいるのです。それほど日本の文化を敬愛している者は多い。今回の大門酒造の件が、良いモデルケースになってくれることを願っています」

日本人が考える以上に、日本文化を敬愛している人々は海外にもいるのだ。

今年6月には、昨年10月に仕込みを始めた新しいシリーズ「山」も完成する予定だ。大門酒造の周辺に広がる水田で実った酒米と、生駒山系の湧き水を仕込み水にした、地元の素材のみで作られた純米大吟醸。酒蔵の背後に聳え立つ山々に敬意を表してその名がつけられた。また、200年近い大門の歴史で初めて、年代物の古酒や季節限定の酒も販売を予定しているというから楽しみだ。

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新たな出発を果たした大門酒造は、良い酒を造ったその先も見据えている。現在は、江戸末期に建てられた仕込み蔵を改造したレストラン「無垢根亭」を週末限定でオープン。地酒と料理を味わえると人気を集めている。

また、ジャズや落語のイベントも定期的に開催するなど、日本酒のある楽しい生活をさまざまなスタイルで提案。毎週金・土曜日には、酒蔵見学・試飲ツアーも行っている。この4月には、昨年の10月1日に第一回目が行われた「大門フェスティバル」の第二弾も開催された。今後は4月と10月の年2回、地元の食と大門の酒を楽しめるイベントを開催していくという。

「いいお酒を造るのが生き残る道。やるべきことをやるだけ。何をすべきかはわかっている。問題はそれが実現できるかどうかなんです」。昨年10月のフェスティバルで、大門氏が語ったその言葉が印象的だった。

良き理解者を経て、やるべきことができる環境を整える。それも、伝統の継承者が背負う大事な使命なのだ。多くの伝統が“環境”を失って消えていく中、大門酒造が選んだ道は、今の日本が伝統とともに生きるためのひとつのヒントになるのではないだろうか。


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大門酒造株式会社

大阪府交野市森南3-12-1
http://www.daimonbrewery.com/

           
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