Japan Craft Sake Company主催「The Master of Craft Sake」VOL.5 黒龍酒造|INTERVIEW
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2017年11月20日

Japan Craft Sake Company主催「The Master of Craft Sake」VOL.5 黒龍酒造|INTERVIEW

The Master of Craft Sake VOL.5「黒龍酒造」

8代目蔵元・水野直人氏インタビュー

去る9月27日、東京・六本木にあるザ・リッツ・カールトン東京の日本料理「ひのきざか」にて、中田英寿氏率いる株式会社JAPAN CRAFT SAKE COMPAY主催によるイベント「The Master of Craft Sake」が開催された。世界でも名高い5つ星ホテルを舞台に、日本の各地で徹底したこだわりのもと酒造りを行う醸造家(マスター)を迎え、素晴らしい料理と空間で、特別な一夜を楽しむイベントだ。

Photographs by TANAKA TsutomuText by MAKIGUCHI June

黒龍酒造8代目・水野直人氏に聞く、黒龍の魅力

第5回となる今回は、1804年、江戸文化元年創業の黒龍酒造。初代蔵元・石田屋二左衛門が良質な水に恵まれた福井県吉田郡永平寺町松岡で清酒造りを始めて以来、「良い酒を造る」というシンプルながら最も大切な理念を守り続けてきた。用いられるのは、酒蔵の地下深くに流れる白山水系・九頭竜川の伏流水。その源流近くには酒米の田園風景が豊かに広がる。厳しい冬が酵母による酒の発酵をじっくりと促していく。そんな自然に恵まれた永平寺のお膝元で213年に及ぶ地酒造りを行い、プレミアム酒の流れを作ったとも言える黒龍酒造の代表・8代目水野直人氏に、日本酒そして、「黒龍」の魅力を聞いた。

―― 「黒龍」というと代表的な日本酒です。海外でも名前が知られていますね。

水野直人氏(以下、水野) 実は、海外への出荷量は全体の2~3%です。ただ歴史は長く、20年近く前から海外に出しています。最初、ワイン大国で日本酒がどれほど通用するのか知りたくて、フランスに置かせてもらうようになったんです。それがきっかけで、アメリカのインポーターと取引させていただくようになり、次にアジア圏への輸出が始まりました。最初、フランスへはハンドキャリーで自ら持ち込みました。まずは三ツ星レストランで食事をし、その後ソムリエに日本酒の蔵元だと話を切り出しました。客なので、ちゃんと話を聞いてもらえまして(笑)。どんな風に思われるのか興味があったので、まずは評価を聞きに行っていたという感じですね。

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―― 20年前というと、海外ではまだ「SAKEって何?」という時代ですね。

水野 海外では日本酒がまともに飲めない時代でした。そこで最初はパリの日本文化会館で、同じ福井の奥井海生堂という昆布屋さんと組み、日本酒と昆布の会を開催しました。今でこそ和食がもてはやされていますが、当時の日本料理は“なんちゃって”ばかり。昆布でちゃんと出汁をとることなんて知らないわけです。今や“UMAMI”は外国でも通じる言葉となりましたが、出汁も旨味も全く通じないところから試飲を行い、そこに日本酒を合わせることで和の味の普及に努めていました。

―― 草の根活動をなさっていらしたんですね。

水野 そうですね。ただ、ワイナリーの方やソムリエからの評価は、すでに高かったです。当時海外で飲まれていたのは燗酒がほとんどでしたから、日本酒はお料理を食べた後、最後に気付けのように飲むというイメージがあったようです。決して美味しいものではなくて、アルコールを摂取するというイメージが強かった。ですから、私が持ち込んだ大吟醸のような吟醸酒は、本当にびっくりされました。こんなに上品で繊細な日本酒があるんだと驚かれましたね。

―― 実は私自身も最近日本酒を飲む機会が増え、日本人ながら日本酒に多くの表情があることに驚いています。

水野 ありがとうございます。日本でも、昭和40年代にようやく冷酒文化が始まりましたし、普及していったのは昭和50、60年代。今は当たり前のように、みなさん冷酒でお飲みになりますし、吟醸酒、純米酒といった言葉も浸透していますね。そういった特定名称酒のカテゴリーを楽しんでいただける時代になったのは意外に最近のことなんです。昔は、そういった言葉自体がありませんでした。日本酒級別制度(酒税法上の分類制度。アルコール度数や酒質などから特級、一級、二級など級に分けられていた)が廃止されたのは、平成4年のこと。級別がなくなってから日本酒文化は劇的に変わりました。しかも、かつては級別に全国一律の価格で販売されていたんです。そういうなかで、黒龍酒造では大吟醸を先駆的に製造・販売していきました。日本でも海外でも、営業活動として行ったのは、冷蔵庫で冷やしてくださいねというところからだったんです。

The Master of Craft Sake VOL.5「黒龍酒造」

8代目蔵元・水野直人氏インタビュー(2)

―― 海外での日本酒人気は高まっていますが、国内でのお酒への注目度は変わってきているとお感じになりますか?

水野 人口が減少傾向にあり、アルコール全体の消費が減っていますが、地方の蔵元さん、いわゆる地酒メーカーさんがどんどん良い日本酒を作ってがんばっていますから、評価は高まっていますね。今、若手の蔵元、地方の蔵元さんが個性を打ち出してきて、いろいろなお酒を造り始めていて、現代的な酒造りというより、昔ながらの酒造り、いわば原点回帰のような酒造りを行っています。地産地消を意識して、ワインのように地元でとれるお米を中心にして造ったり、酵母や酒米を開発したりすることも盛んです。華やかな香りのわかりやすいお酒が流行し、皆が同じようなお酒を造っていた時期もありましたが、ここ最近は多様化していて、それぞれの蔵元の方針がきちんと固まってきたと言えます。

―― 日本酒文化が熟してきたのでしょうか。

水野 そうですね。面白い時代になってきたんじゃないかと思います。黒龍酒造について言えば、お酒の味自体はある程度確立しています。福井は越前ガニが有名で、白身魚がたくさんとれる地域ですから、繊細な甘みを持った淡白な食材が多い。そういった食材を生かすような日本酒にしたいと、お酒自体に香りと味が強調されるものではなく、上品で柔らかくほんのりとうまみが広がり、それでいてあと味のキレがすっとしている、そんなお酒を目指しています。お料理に寄り添うといったイメージですね。そのコンセプトからは、今もブレていません。今テーマとして掲げているのは、日本酒とお料理を一緒に楽しむ文化を作っていこうというもの。そのためには、ワインのように味や種類によってグラスを変えるといった演出も必要です。オリジナルのグラスや盃、燗酒をする道具、例えば錫のとっくりなどを作っているのはそれが理由です。

―― お酒を味わう道具が増えれば、楽しみも広がりそうですね。

水野 江戸時代にはお酒を楽しむいろいろなツールが、たくさんありました。当時は、お酒は常温で飲むもので、温めるというひと手間を加えた燗酒はおもてなしのお酒だったんです。料理屋にもお燗番がいたほど。そんな文化を復活させ、利便性ではなくひと手間かける楽しみをもっとご紹介できたらと思っています。最近はワイングラスでゆっくり日本酒を飲むというスタイルも人気です。日本酒を存分に楽しめるさまざまなスタイルをご提案して、“酒道”を作っていけたらと思っています。

―― 水野さんご自身はどんなふうに日本酒を楽しんでいらっしゃるのですか?

水野 私はお燗が多いですね。お燗は冬場だけのものではないんですよ。本当に日本酒がお好きな方は1年中楽しんでいらっしゃいます。お燗用ではなくても、大吟醸をはじめ何でもお燗にしてしまうんです。熱燗をさましながら、少しずつ飲むのもおすすめです。温度の違いで、味が変化していくのを楽しむこともできます。

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―― 黒龍酒造さんの今後は?

水野 大吟醸の祖であり、酒造りの師である私の父、先代(正人)の名前から一文字とって、正龍蔵という酒蔵を作りました。さらに製造量を増やすためではなく、より良い日本酒を造るため、様々なチャレンジを行うための蔵です。日本酒の多様性のため、研究を続けなければ、良き文化を継承することはできないと考えています。つまり伝統を守ることとは、新しいことを取り入れて品質を高めていくこと。和食と合うのは当たり前ですから、どんな料理をいただくときでも、日本酒がチョイスのひとつとして考えてもらえるよう、さらに良い酒を造っていきたいと思っています。日本酒はもっと評価されるべき素晴らしい文化。その素晴らしさをもっとお届けできるよう、今日のような会に参加し、客観的な視点を養っていきたいですね。今日のように、いろいろなお料理をわせて、同じお酒が温度変化によってどれだけ変化するか、合わせるお料理でどれだけ日本酒の楽しみ方がかわるか、感じていただけたら嬉しいです。

インタビューを終えて

今回、「ひのきざか」の和食を合わせたのは、前菜に合う透き通るような味わいの「黒龍しずく」、淡白な白身魚の旨味を引き立てる瑞々しい「黒龍 二左衛門」、貝やうに、いくらに合うなめらかな「黒龍 石田屋」。そして焼き物のような強い味の料理にも負けない華やかでリッチな「黒龍 八十八号」、さらに、燗酒である九頭龍の「大吟醸」と「純米」。食前酒としてふるまわれたマスカットのような爽やかな香りの「黒龍 吟醸ひやおろし」を含め、7種の飲み比べを行った。いずれも、きれいで、なおかつ熟成による奥行きのある味が、つつましくも印象的な日本酒ばかり。決して料理の味を損なわず、むしろ引き立てる味わいで双方の美味がふくらんだのは言うまでもないが、やはり一番驚いたのは、繊細な白身魚と「二左衛門」とのマリアージュ。これほどまでに、白身のあま味が引き出される組み合わせは初めてのこと。うに・いくらとの「石田屋」、漬け鮪のような濃厚な味わいと燗酒との組み合わせも至福で、もうお酒なしに料理を味わうのはもったいないと思うほどの豊かさを感じさせる調和だった。

問い合わせ先

Japan Craft Sake Company

http://www.craftsake.jp/

           
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