INTERVIEW|川村元気×12人のレジェンドが繰り広げる“大人の学校”
INTERVIEW|レジェンドが繰り広げる“大人の学校”
『仕事。』著者・川村元気インタビュー
12人12色の仕事術
『告白』『モテキ』などのヒット作を生み出した映画プロデューサー、川村元気氏が12人のレジェンドと対面。そしてこんな質問をぶつけた。「わたしとおなじ年のころ、なにをしていましたか?」はたして仕事で人生を楽しく、世界を面白くしてきた彼らの仕事術とは?
Photographs (interview) by SUZUKI KentaText by TANAKA Junko(OPENERS)Cooperation by Yuka Okada
大人にも学校が必要だ
2013年から雑誌『UOMO(ウオモ)』に掲載され、反響を呼んだ連載「仕事の学校」。これは仕事で世界を面白くしてきた巨匠たちに教えを請う、いわば“大人のための学校”だ。教授に名を連ねるのは、宮崎駿氏、糸井重里氏、杉本博司氏、坂本龍一氏など錚々たる12人のメンバー。そして生徒代表として彼らに体当たりしたのは、映画プロデューサーの川村元気氏である。
「働きはじめると『習うより慣れろ』とか『背中を見て覚えろ』とかいう言葉で片付けられて、学生のころみたいにだれも教えてくれなくなる。だけどぼくは常々、大人にも学校が必要だと思っていて。ひと通り仕事ができるようになって、ここからどうやってもっと面白くしていこうかと模索しているいまだからこそ、レジェンドたちにもスペシャルな話を聞くんじゃなくて、若かりし七転八倒時代にどうやってブレークスルーしたり、リカバリーショットを打ったり、単純にどう遊んでいたのか。そういうことを、とにかく素朴な読者に近い目線で聞いてみたかった」
その言葉通り、川村氏は巨匠たちを前にしてもひるむことなく、果敢に質問をぶつけていく。「やりたいことって、どうやったら見つかりますか?」「失敗が怖いんですけど、どうしたらいいですか?」「世界で勝負するためには、日本人にはいまなにが必要ですか?」といった具合に。そんな真剣勝負から見えてくる巨匠たちの素の姿こそ、この本の一番の魅力といえるだろう。
「12人に共通していたのは、みんな現役だっていうことですね。神棚にあがって『昔、ぼくこういう仕事していました』という人はひとりもいなくて、『次はこういうことをしたい』ってことしか言わなかった。それからどの巨匠も、昔のことをよく覚えていますよね。負の感情や苦い経験さえ、捨てずに飲み込んで力にしている。ぼくはもともと“断捨離”とかいう言葉があんまり好きじゃない。だからこそ仕事も諦めないでやっているし、過去の恥ずかしいこととか辛いこととか、全部自分のなかにあるから作れているってことを再認識させられました」
35歳の川村氏にとって、向き合った12人はふたまわり以上年の離れた大先輩ばかり。目下のライバルではなく、あえてその上の“超強敵”と話をしてみたかったのだという。いやがおうにも緊張してしまいそうなものだが、彼はあくまで自然体でその勝負に臨んだと話す。
「できるだけ近い距離で話を聞こうと思って対談に挑みました。イメージとしては学生のときにすごく仲が良かった先生。与えられた2時間でなんとかそこに近づきたかった。全力で好きな人たちばかりだったから気持ちは伝わると信じて。ただ予習は一生懸命しましたね。予習があって、授業があって、復習があって。ぼくが通ったプロセスを、読者に追体験してもらいたいなと思って、そういう作りの本にしました。それにしてもこの本、究極の若気の至りかも。だってわきまえていたら、宮崎監督にいきなり『なんで自分の作品で泣いたんですか?』なんて聞けないですよ(笑)」
ところでこの本、ビジネス書の体裁をとっている。仕事がテーマになっているのだから、当然と言えば当然かも知れないが、読み進めていくと、ほかのビジネス書とは一線を画しているのがわかる。ひとつの「答え」を一方的に示すでもない。「こうすればいい」という指南があるわけでもない。そこにはレジェンドたちが辿ってきた、12人12色の道のりが、飾らない言葉で綴られているだけだ。
「ぼく自身、あんまりビジネス書を読まないんですよね。というのも、多分仕事の答えはビジネス書には書かれていなくて、自分で見つけるしかないと思っているから。いまって本当に複雑な時代だと思うんです。人それぞれ職場の環境や価値観もちがうし、ひとつのメソッドですべてを解決することができなくなっている。根源的な話になりますけど、行き詰っているときは、自分の体やこれまでの歴史がアラートを鳴らしているってことだし、つかみかけているものがあるときは、自分に脈々と流れつづけているものがそれを叫んでいるってこと。仕事をしながら仕事のなかで答えを見つけていくしかないということを、巨匠たちが身をもって示してくれたような気がします」
かくして一年間にわたる教育課程を終え、晴れて卒業の日を迎えた川村氏。そのどこかに、読む人それぞれの未来の形があるんじゃないか、と彼はいう。この秋、近未来の自分を探しに、あなたも「仕事の学校」へ足を踏み入れてみてはいかがだろう。
川村元気|KAWAMURA Genki
1979年横浜生まれ。上智大学を卒業後、東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『寄生獣』(11月29日公開)などの映画を製作。2010年、米『ハリウッド・リポーター』の「Next Generation Asia」にプロデューサーとして選出され、翌2011年には優れた映画製作者に送られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。2012年発表の初小説『世界から猫が消えたなら』は映画化が決定。最新著作は『ブルータス』で連載された小説『億男』(10月15日発売)。
『仕事。』
著者|川村元気
ゲスト|山田洋次、沢木耕太郎、杉本博司、倉本聰、秋元康、宮崎駿、糸井重里、篠山紀信、谷川俊太郎、鈴木敏夫、横尾忠則、坂本龍一
発行|集英社
定価|1400円(税抜)
単行本・電子版で発売中
http://www.shueisha.co.jp
http://ebooks.shueisha.co.jp/detail.php?book=sg948141