写真集『東京自粛 COVID-19, SELF-RESTRAINT,TOKYO』|BOOK
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2021年1月8日

写真集『東京自粛 COVID-19, SELF-RESTRAINT,TOKYO』|BOOK

BOOK|東京自粛 COVID-19, SELF-RESTRAINT,TOKYO

コロナ禍の東京を撮影し続けた記録

写真集の中にときどき、その写真家の視点を疑似体験できるものがある。自分はこの光景を見ていたわけではないけれど、どこかで写真家の“目”とリンクしたように思えてくる瞬間。この写真集を見ているとあの時が蘇る。なんとも行き場のない不可思議な空間が家の中でも広がったのだが、東京という街でも異形の空気感が広がっていたことを写真家と共有できるのだ。

Photography TOKITSU Takeshi|Text by KITAHARA Toru

些細なこと、そんな言葉。
些細なことが些細ではなくなる時があるのだな、と思う瞬間。
手の温もり。例えば、人と会った瞬間に握手をする。
その手から伝わる温度は決して言語ではない。だけれど、言葉では伝えきれないことが伝わることがあったはずだ。
それを取り上げられた。誰が悪いわけではないのに。
手元から遠ざかっていく。誰の声も聞けなくなるのに。
自粛という言葉だけが鳴り響く世の中が訪れる。
画面の中にいる誰かと会話する。目の前にたとえ酒があっても、相手の気持ちは読み取れない。無邪気に笑える自分がそこにいない。別れ際がなく、プツリと切れるから、残された自分に涙が出る。リモートという二次元。気づいていなかった人の温もり。
2020年が終わろうとしている時間にこの原稿を書いている。紅白が無観客で開催され、嵐が21年の活動の終わりを告げているらしいが、それも無観客だという。なんと寂しい。なんと切ない。なんと虚しい。
暖簾に腕押し、糠に釘、豆腐に鎹(かすがい)、欲しかったのは感触であり、手応えなんだと思う。コロナ禍の東京はどこか無感触で、感情を置き忘れたようだった。
悪いことばかりではないのかもしれない。ぼくらは人の温もりを〝直接〟感じることが困難になったからこそ、そのありがたみを感じることができる。
そう、東京には溢れるほどの体温に満ちた人がいたはずなのだ。
『東京自粛 COVID-19, SELF-RESTRAINT,TOKYO』には「自粛」の街が描かれている。4月7日に発出された「緊急事態宣言」だが、そこに強制力はない。
だが、日本人らしい倫理観が街から人の姿を消していく。だが、人がいないわけではない。その一枚一枚の写真には人の匂いがしている。ひとりでもふたりでもそこには人がいる。東京は人がいて成り立つ街だった、そんなことがじわじわと視覚から気持ちへと染み出してくる。
ロックダウンされた海外の街。人がひとりもいない映像がテレビの画面から何度も流れていた。だけれど、東京の街に人は減ってはいたが、「いない」わけではなかった。「自粛」という言葉が人々にきちんと浸透したまるで「言い訳」のような街があり、そこではきちんと生きている人が描かれているのだった。
「不要不急」という言葉にフォトグラファーたちはどう考えたのだろうか? FacebookやInstagramでは家の中で身近なものを撮り続けたことをアップするのが多く見られた。だけれど、そんな中でも自粛の中にある街を撮り続けた人もいる。その場合に街に出るという行為は果たして? ドキュメントを撮るということは自粛という瞬間を撮る必要がフォトグラファーの心には確実にあったのだろう。
フォトグラファーはその「現場にいる」ことで撮影ができると考えれば、フォトグラファーにとっては不要不急とは無縁のことだったのだと言える。それは会食をしても「会食が目的ではなかった」というような後付けの言い訳ではない。あくまでも使命感にも近いものだったと思う。
さまざまな矛盾も映し出されている。街に人がいないのに献血を募る女性。メイドカフェの店員と思しき女性がスマホを手に宣伝に街に出る姿。
さまざまな光景をフォトグラファーの目を通して我々は見ることができる。矛盾とは無縁なピュアな姿もそこここにあったようだ。自粛の中でも逢いたい人はいる。その想いは「不要不急」と言葉を超越する。会えないからこそ愛は深まる。駅で会うカップル、新宿の街でデートするカップル、何気ない光景が眩しくも見えるのだ。
感染者数は増える一方でも街に人は途切れることがない今、この写真集を見ていると、自粛という規制が深める愛を垣間見るのもまた楽しからずや。といったところか。
この一冊がやがて数年、数十年の時を経る。そして、あなたの手元で再度開かれる。コロナ禍の東京が鮮やかに蘇る。自粛とはなんだったのか? と再度思う機会になるのだと信じている。
 『東京自粛 COVID-19 SELF-RESTRAINT,TOKYO』
時津 剛(PLEASE刊)ISBN978-4908722158
価格|4950円
URL|https://www.amazon.co.jp/dp/4908722153?ref=myi_title_dp
                      
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