ART|世界の名だたる音楽家たちのポートレイト展「The Soul of Music」ライカ銀座店サロンにて開催
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2015年2月11日

ART|世界の名だたる音楽家たちのポートレイト展「The Soul of Music」ライカ銀座店サロンにて開催

ART|写真展「The Soul of Music」ライカ銀座店サロンにて開催

ポートレイトフォトグラファー マット・ヘネック氏インタビュー(1)

世界の名だたる音楽家たちのポートレイトを撮り下ろしてきたドイツのフォトグラファー Mat Hennek(マット・ヘネック)氏による写真展「The Soul of Music」が、12月11日(日)までのあいだ、ライカ銀座店2F サロンにて開催される。来日したへネック氏に、作品にまつわるエピソードを聞いた。

文=OPENERS

写真=鈴木健太

コミュニケーションの延長に写真がある

──なぜポップミュージシャンではなく、クラシックの音楽家なのでしょう?

もともとキャリアはポップやロックのミュージシャンからスタートしているんだ。6、7年くらいかな? スティングや、トレイシー・チャップマンとかね。そういった華やかな世界のなかで撮っていることに興味がなくなったんだ(笑)。もっと地に足の着いた、というか。よりアートとしての写真を撮りたいと思いはじめた。それでクラシックの音楽家を撮るようになって、世界中のクラシック音楽のメジャーレーベルと一緒に仕事をするようになっていったんだ。一番はじめはケント・ナガノさんだったんだけど、それがとてもよかったということもあるかな。

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──ポップミュージシャンとクラシックの音楽家とのちがいとは?

クラシックの音楽家たちは、撮られることに慣れていない。だからナチュラルでピュアな表情を見せてくれる。かたやポップミュージシャンたちは撮られることに慣れているから、自分の一番いい顔、求められている表情をつくってしまうんだ。そういった意味で、クラシックの音楽家たちはつくられた顔をもっていないから、会話をしながら、仲良くなりながら進めて、最終的に写真へと仕上げていくことが重要になる。写真が第一の目的ではなく、コミュニケーションの延長に写真がある、という感じかな。

だから撮影はちょっとだけで、ほとんどが会話してる。僕はあまりシャッターを押さないタイプだしね。2時間話して、10分で撮影したこともあるよ。2時間でお互いを知り合っているから、そんなことも可能なんだ。信頼関係がない場合は、“NO”と言われてしまえばそこで終わり。信頼関係があるからこそ、最終的に自然な表情を見せてくれるんだ。

ポートレイトフォトグラファーにはもっとも必要な資質

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──信頼関係を築くコツとは?

ひとりの人間として、おなじ人間として話すことが重要。クラシック音楽に詳しいひとたちからすれば、彼らは“神様”のような存在。なかには“Sir”の称号をもつひともいる。普通ならもちろん名前を呼ぶときは“Sir”を付けなくてはいけないだろうし、敬語で話すべきひとたちだ。でも僕は“Sir”とは言わないし、おなじ目線で会話をするようにしてる。クラシック音楽に詳しくないからこそできることなのかもしれない(笑)。

たとえば彼らが100人のひとと順番に握手をしていくとして、99人は彼らを“神様”として扱うだろう。でも僕だけが、おなじ目線でフランクに話しかければ、僕に興味をもつよね。もちろん偉大な音楽家であることはわかっているけど、そこで“神様”として扱えば、それだけ距離ができてしまうんだ。

これはポートレイトフォトグラファーにはもっとも必要な資質だと思うんだ。上からでも下からでもなく、相手とおなじ目線で話すこと。以前、リチャード・アヴェドンというポートレイトフォトグラファーの仕事を見たことがあるんだけど、彼は自分の背後にカメラをセットし、ケーブルレリーズを手にもって、インタビューをしながら相手にはわからないようにシャッターを押していたんだ。それは非常に興味深かったし、勉強になった。カメラに集中するのではなく、“話していること”が重要で、カメラの存在が互いのあいだにないぶん、よりナチュラルな表情を撮ることができるんだ。

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ポートレイトフォトグラファー マット・ヘネック氏インタビュー(2)

“Soul”が見えてくるような写真

──画づくりのインスピレーションはどんなところから?

そのひとから感じるもの。どんなことを話しているか、どんなふうに話すのか。会話のなかで感じるそのひとの内面にインスピレーションを受けるんだ。彼らはコンサートでいろんな土地へ行くから、撮影できる場所にも左右されるけど、決められた環境のなかでかぎりなくそのひとを表現できるよう努めている。

今回の「The Soul of Music」というタイトルは、“Soul”というものが非常に重要なんだ。音楽で彼らの“Soul”は感じることができるけど、表情からも“Soul”が見えてくるような写真にしたかったんだ。

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たとえばトランペットを抱えた写真だけど、彼女は本当はバロックミュージックのスペシャリストなんだ。だけど会話をするなかで感じた、彼女のジャジィな部分を表現したかった。それから石の上で寝転んでいる彼の写真。あれはスタジオ脇にある空き地で撮影したんだけど、スタジオの3階から飛び降りた、というイメージなんだ。彼には少々クレイジーなところがあるからね(笑)。

もう一方で、ケント・ナガノの写真は、裸であることがポイント。彼はとてもシリアスなひとで、指揮者として舞台に立つときには詰め襟を着て、厳粛な空気をまとっている。だから“フリー”と“ダイレクト”をキーワードに、指揮者としての彼とは対照的なイメージを作ることで、彼の自由な姿を見せたかったんだ。そういうストーリーのある写真もあるんだ。

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それから、ローランド・ビリャソンの写真。彼はテノールのもっとも有名な歌手のひとりだと思うけど、プリマドンナのような格好をしてくれ、とリクエストしところ、このようなアクションをしてくれたんだ。そのすばらしい瞬間を写真におさめることができた。これは非常に珍しいと表情だと思うんだけど、それも信頼関係があったからこそ、奇跡のような瞬間に巡り合うことができたんだ。

坂本龍一さんもぜひ撮ってみたい

──今回ライカギャラリーでの開催ということですが、普段からライカは使っているのですか?

もちろん。いろんなライカのカメラを何年も使っているよ。ミドルフォーマットだったり、ポラロイドだったり。4種類ほどのなかからシチュエーションに合わせて選んでいるんだ。今回、日本にはライカM9をもってきている。ダイアリーのようにスナップを撮るのはいつもライカM9なんだ。それから、最近ドイツのライカカメラ本社とプロ向けのミドルフォーマット一眼レフカメラのライカS2カメラを使ったコラボレーションプロジェクトもはじまったんだ。ライカS2で撮影した作品だけを集めて、ドイツでは展示もおこなうことになっているけど、日本でも開催できればいいな。そうだ、もうひとつスペシャルなカメラがポケットに入ってた。これ、iPhone(笑)。カメラマンのなかにはiPhoneでは撮らないっていうひともいるけど、僕はiPhoneで撮影した写真を使ってパリで写真展をやるつもりなんだ。

音楽家にかぎらず、これからもいろんなひとと出会って、そのひとのプライベートフォトを撮っていきたいと思ってる。坂本龍一さんもぜひ撮ってみたい人物のひとり。OPENERSをきっかけに、彼に会えたらうれしいな(笑)。

──ありがとうございました。

The Soul of Music

開催期間|12月11日(日)まで

会場|ライカ銀座店2F サロン

東京都中央区銀座6-4-1

Tel. 03-6215-7070

展示内容|10名の音楽家のポートレイト作品14点

トランペット奏者 Alison Balsom(アリソン・バルサム)

ソプラノ歌手 Anna Netrebko(アンナ・ネトレプコ)

ヴァイオリニスト Renaud Capuçon(ルノー・カピュソン)

ヴァイオリニスト Hilary Hahn(ヒラリー・ハーン)

ピアニスト Hélène Grimaud(エレーヌ・グリモー)

指揮者 Kent Nagano(ケント・ナガノ)

ピアニスト Krystian Zimerman(クリスティアン・ツィマーマン)

指揮者 Sir Simon Rattle(サー・サイモン・ラトル)

ピアニスト Lang Lang(ラン・ラン)

テノール歌手 Rolando Villazon(ローランド・ビリャソン)

Mat Hennek|マット・ヘネック

Mat Hennek|マット・ヘネック
1969年フライブルク・ブライスガウ(バーデン=ヴュルテンベルク州)に生まれる。新聞社や放送局での勤務を経て、トリーアにあるEuropean Academy of Fine ArtsおよびベルリンのLette-Vereinにて芸術について学ぶ。彼の作品は『BBC Magazine』『コスモポリタン』『GQ』『マリ・クレール』『プレイボーイ』『ヴォーグ』などの出版物に掲載され、98年ベルリンにフォト・エージェンシーKasskaraを設立。クラシック音楽の美の世界を写真という媒体をとおしまったくあたらしい方向から表現。とくにドイツ・グラモフォン、Four Music、EMI、ソニー BMG、ユニバーサル・ミュージック・グループ、ヴァージン・レコードなど、大手レコード・レーベルの作品を多く手がける。このころからクラシック音楽家やミュージシャンのポートレート写真を多数手がけるようになるが、クラッシック音楽以外のジャンルでも、デヴィッド・バーン、リズ・ライト、スティング、トレイシー・チャップマンなどのミュージシャンたちの作品も手がけている。ポートレート写真と並行してメジャー・ブランドの広告写真も手がけるが、2006年からは美術作品としての写真に傾注。07年よりパートナーであるフランス人ピアニスト エレーヌ・グリモーとスイスに在住。

           
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