ART|エスパス ルイ・ヴィトン東京『Urban Narratives ―ある都市の物語―』
ART|エスパス ルイ・ヴィトン東京
Urban Narratives ―ある都市の物語―
ルイ・ヴィトン表参道ビル7階のアートスペース、「ESPACE LOUIS VUITTON TOKYO」では、1月26日(土)から5月6日(月・祝)まで、 第6回目の展示として『Urban Narratives ―ある都市の物語―』が開催されている。今回は、キュレーターのナナク・ガングリー(Nanak Ganguly)率いる新進気鋭インド人アーティスト4名の作品を展示している。
Text by Winsome Li(OPENERS)
4人のインド芸術家の視点で社会の実情をアートに映す
今回のグループ展はインドのコルカタ(西ベンガル州の都市)を拠点とする4人のアーティスト、 アディプ・ダッタ(Adip Dutta)、スネハシシュ・マイティ(Snehasish Maity)、セカール・ロイ(Sekhar Roy)、ピヤリ・サドゥカーン(Piyali Sadhukhan)の作品が展示され、キャンバスからマルチメディア・インスタレーション、映像まで、多様なジャンルの作品を通じ、自由な創造性を表現した。
まずはスネハシシュ・マイティ。彼が発見したさまざまな社会問題を突きつけ、二次元で表現しきれないアイデアを三次元の作品、「Mask(マスク)」と「Anna - Silent Voice(アンナ―無言の声)」に落とし込んだ。「Mask(マスク)」と題したインスタレーションは、プラスティック ボトルで作り上げた「マスク」の中にインドの街を映したビデオが流れる。インドの街のノイズ、人ごみなど、あるいはスネハシシュ氏による「私たちの共通の苦しみ」を表している。健康に害がある成分が混ざっていたとしても、コストが安いのでこういったボトルはインドで大量に使用されている。そして、「Anna - Silent Voice(アンナ―無言の声)」は古新聞紙を積み飾り、現代のガンジーとも呼ばれる、インドの社会運動家アンナ・ハザレを絵のような形で見事に表現した。
セカール・ロイの「Skyline(スカイライン)」は巨大なインスタレーションで、英国植民地時代のコルカタの街並みを表わした。当時、英国政府の支配により、コルカタは高層ビルなどモダンな建築物が一気に増えた。一見現代的な都市だが、目に見えない社会問題がまだまだ存在している。セカール・ロイはその現状を絵画の形でインスタレーションに表現し、コルカタ住民が貧困生活に苦しんでいる顔を描いた。
今回の芸術家4人のうち、唯一の女性アーティストが、ピヤリ・サドゥカーン。彼女はジェンダーの退廃といった課題に目を向けた。サドゥカーンはひとりのインド女性として、インド社会における男女の差別問題に対する自分の気持ちを作品に落とし込んだ。主な作品は、8台の女性像を円形に並べたインスタレーション。女性像の胸周りと脊髄周りはある種の増殖物に隠されている。社会によって与えられた「protection(保護)」という意味だ。女性像は3つの絵画と接続し、筋肉がついた女性の体が3つの絵になっている。女性のアイデンティティーが“筋肉のカモフラージュ”で隠され、自己防衛、自由を求めるフェミニストとしての想いが表現されている。
アディプ・ダッタの作品は社会問題とは離れている。彼はオブジェ制作者として創作活動をしているアーティストで、ありふれた物が作品のモチーフとなる。平凡な使い方をされる物の美的な魅力を認識し、ありのままに繊細な絵や拡大した彫刻に変身させた。会場の外に展示された巨大ヘアクリップは、女性用のごく普通のヘアクリップを最大規模まで拡大し、まるで発掘された化石のようなイメージで完成させた。「モノ」の純粋さと美学をストレートに作品で取り上げることが彼のアートだ。
コルカタの物語を体験する
これらの作品は、アーティストの自分の国に対する思想が強く表現されている。キュレーターのガングリー氏にとって本展示は、社会に深く浸透するヒエラルキー(階層制度)、その結果生まれる征服支配、規則として定められた考え方がもつドグマ、性別間の不公平さ、バイオレンス、そしてそこから生まれる混沌としたインドの生活、差別から生まれる堕落、こうした要素がぎっしり詰まっている。「観客はこのスペースに訪れ、作品を見て、自分自身が感じたことが私たちのメッセージとなる」とガングリー氏が語った。インド人の目線から構築された空間の中、現地でしか感じられない雰囲気と新鮮な発見がもたらさせるだろう。
Urban Narratives ―ある都市の物語―
東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル 7F
日程|2013年1月26日(土)~5月6日(月・祝)
時間|12:00~20:00
Tel. 03-5766-1094
www.espacelouisvuittontokyo.com
Adip Dutta|アディプ・ダッタ
1970年生まれ。コルカタのラビンドラ・バラティ大学で視覚芸術修士号(MVA)を取得。現在は同大学の視覚美術学科の教員。これまでに、アート・ドバイでの『In pain I redeem love』(2012年)、コルカタのエクスペリメンターでの『I have a face but a Face of what I am not』(2012年)を含む、5回の個展を開催。加えて、コルカタのハリントンストリート・アートセンターでの『Writing Visuals』や、コルカタのエクスペリメンター・アートギャラリーでの『Tell Tale; Fiction Falsehood & Fact』など数多くのグループ展にも出展。
Snehasish Maity|スネハシシュ・マイティ
1971年生まれ。バローダのマハラジャ・サヤジラオ大学で美術学修士号を取得後、インド政府よりジュニア・リサーチ・フェローの地位を与えられ、1999年にはカナダよりエリザベス・グリーンシールズ基金賞を受賞。これまでに3回の個展を開催したほか、『第40回・第41回ナショナル・エキシビション』(インド)、『大阪プリント・ビエンナーレ』(日本)や、ロンドンのネルーセンターで開催された『現代インド美術展』をはじめとする国内外の多くのグループ展に出展。
Sekhar Roy|セカール・ロイ
1957年生まれ。コルカタ芸術工芸大学を卒業後、2000年にはインド政府よりシニア・フェローの地位を与えられる。ニューデリーのギャラリー・エスパス、ドイツのゾーリンゲンのギャラリーをはじめとする多数のアートギャラリーで個展を開催しているほか、ドバイのバガス・アートギャラリー(2007年)や、合衆国ヒューストンのNABC(2006年)などでも2人展を開催。そして、コルカタのエマミ・チセル(Emami Chisel)で開催された『視覚的冒険(Visual Venture)』や、スカンジナヴィアン・ギャラリーで開催された『現代インド芸術を見に行こう』など、インド国内外の多数のグループ展に参加。
Piyali Sadhukhan|ピヤリ・サドゥカーン
1979年生まれ。2006年にヴィシュヴァ・バラティ大学で美術学博士号(MFA)を取得後、2007年にはインド政府よりジュニア・リサーチ・フェローの地位を与えられる。「コージ・コルカタ」が2012年に開催したワークショップをベースとしたインスタレーションプロジェクト、『デルタのデザイン:神話創造の探索』や、2010年に開催されたインスタレーションプロジェクト『Boat』、エマミ・チセル主催の『Logged』をはじめとする多くのプロジェクトに参加しているほか、数多くのグループ展にも出展。