新連載・生方ななえ|ホンの一服 『YAWARA!』
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2015年4月28日

新連載・生方ななえ|ホンの一服 『YAWARA!』

新連載・生方ななえ

第一回 「あのころ」

はじめまして。オウプナーズで本にまつわる連載をはじめることになりました生方ななえです。
本を通して得た私の考えや経験などをお話できればと思います。

写真・文=生方ななえ

私は幼いころから飛び抜けて背が高かった。
どのくらい高かったかというと、つねに2学年上の身長で、小学6年生のときには170センチまで伸びていた。170センチでランドセルを背負う小学生。ちょっと、いや、かなり目立った。今ふり返ってみると「そんな状況を楽しんでみたら?」と思うのだが、当時はそれどころではなく、どうやったら身長が伸びなくなるのだろうかと真剣に考えていた。少しでも身長を低く見せようと猫背にしてみたり、寝ているあいだに背は伸びると聞けばダンボール箱の中で寝ようとして母を困らせたり。最高にして最大のコンプレックスだった身長──だが、「伸びるものは仕方がない」という現実を受け入れて、私は思い切ることにした。逆転の発想として、身長の悩みをプラスに捉えることにしてみようと考えたのだ。そして、さらに将来は身長を活かした職業に就けばいいのだとひらめいた。

これはなかなかいいアイデア。うまくいけば長身であることも好きになれるかもしれない。となると、スポーツ選手あたりか……とひとり感慨深く考えていたところ、ファッションショーの映像を目にすることがあり「コレだ!」と思った。

──わたし、モデルになりたい。

そのときから夢はモデルになった。とはいえ、田舎に住んでいた私にとってそれはとても非現実的で雲を掴むような話だった。それにくわえて自分に自信がないことから気後れする気持ちもあり、自分の夢を家族以外に公言することはできなかった。

sub

群馬県渋川市の現代美術館「ハラミュージアムアーク」にあるオラファー・エリアソンの作品「Sunspace for Shibukawa」。太陽の光がプリズムレンズを通じてパヴィリオン内部にさまざまな虹を映し出す

そんな思いをひとり抱えていたころに、出会ったのが『YAWARA!』。柔道マンガである。

わくわくするストーリー展開とスピード感溢れる描写にすっかり魅了された。夢中になって読んだ。「柔よく剛を制す」という含蓄ある言葉、複雑ではないけれど単純でもない交錯する人間模様と主人公の揺れ動くこころ、そのなかで起こっていく(文字どおり)体当たりの経験の数々に、私は一喜一憂し、その成長に自分の姿を重ねあわせた。感動のあまり、まだ思春期真っ只中だった私は、将来の夢であるモデルを「柔道に変更してもいいかもしれない……」とまで考えたりもした。

今となってはそのころの思いを甘酸っぱいような、くすぐったいような不思議な感覚をもって眺めることができる。目の前で起こる出来事に逡巡する主人公の姿は、私のこころのようすそのものだったのかもしれない。

──『YAWARA!』の最後、主人公は少女から大人の女性となってひとつの決断をする。
私も、モデルという道を決断したときがあった。単に夢見るだけではなく、その実現のために踏み出す勇気を与えてくれた本は、そのときも私の傍らにあった。私の人生は、本とともにある。

book

『YAWARA !』
著者│浦沢直樹
発行│小学館コミック

定価│509円(ビッグコミックス)すてきな恋に憧れる普通の女の子・猪熊柔は、じつは祖父・滋悟郎の指導を受けた柔道の天才少女。そんな彼女がオリンピックの金メダルと国民栄誉賞、そして日本スポーツ界のスーパースターになることを目指す!?

生方ななえ|UBUKATA Nanae
8月17日生まれ。数々のファッション誌、国内外の有名ブランドコレクション、広告に出演するトップ モデル。
2009年1月号より女性ファッション誌『Grazia』(講談社)の新ミューズとして登場。 最近はTVやラジオにも出演するなど、幅広く活躍中。 その健康的な美しさは、日本発信の世界に通用するアジアンビューティーとして、多方面から注目を浴びている。ファッションのみならず書籍、映画、舞台、陶芸などに精通している。

オフィシャルBlog
http://blog.excite.co.jp/grazia-nanaeubukata
TEN CARAT Plume
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