連載|生方ななえ 第六回|「体に届くひとさじ」
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2015年5月28日

連載|生方ななえ 第六回|「体に届くひとさじ」

第六回 「体に届くひとさじ」

写真・文=生方ななえ

渡辺有子さん著の『風邪とごはん』。風邪をひきそうなとき、本格的になっちゃったとき、回復してきたとき、スタミナをつけたいとき、予防のため……とそれぞれの状況に応じたごはんが紹介されているレシピ本である。大根雑炊、ポロねぎのポタージュ、白身魚の梅蒸しなどなど、野菜中心かつ素材の味を大切にした料理たち。どれも体にやさしくてあたたまりそうなものばかりだ。誰かのために、自分のために、作ってみたい。そして風邪をひいていない、元気のある時にも食べたくなるレシピは、毎日の食事が健康な体をつくるということをあらためて気づかせてくれる。

レシピ本なのだけど、料理の写真を眺め、著者の添えられた文章を読みながらページをめくっていくと、ほっとするような懐かしさがこみ上げてきて、まるで心地よい物語を読んでいるような気持ちになるから不思議だ。おそらくこの本によって子どものころのことを思い出すからだろう。

生方ななえ|モデル|連載・第六回|風邪とごはん

風邪の時に限らずよく作っているお気に入りのスープ。

生方ななえ|モデル|連載・第六回|風邪とごはん

あまりにも美味しそうなので、風邪をひくことがちょこっと楽 しみになってしまう。

小学生のころ、風邪をひくことに憧れていた時期があった。風邪で学校を休んだ友だちから聞いた話がとても魅力的だったからだ。なんと風邪をひけば学校を休めるだけではなく、ぬくぬくのお布団の中で一日中過ごし、何もしなくていいという。しかも夏休みでもないのに当時大好きだったNHK教育テレビを寝たまま見放題、食べたいものはお布団まで家族が運んでくれるのだ。

なんて素敵。話を聞いているだけでうっとりした。いいな、いつか私もしたいな、と今後の風邪プランのことを考えながらわくわくしてみたり。雨の中を傘もささずに遊んでもケロッとしていた私は、何年も前にひいた風邪のことなどすっかり忘れていたのだ。

ある朝、起きようとするとノドが痛く、身体がホテホテしていた。念願の熱が出たのだ。しかし、どうも様子がおかしい。身体の節々はビリビリして痛く、息をするのもしんどい。テレビを見る気力はわかないし、食欲がないから食べたいものなんて思いつかない。こんなのは思い描いていた風邪とは全然ちがううぅ~と半ベソをかきながら、いつの間にか深く眠っていた。

しばらくして目が覚めると、なんとなく心細かった。

生方ななえ|モデル|連載・第六回|風邪とごはん

写真を眺めているだけでも心弾む。

熱でぼーっとしながらも母の姿を見つけるとほっとした。食欲がない私に母はすりおろしりんごを用意してくれ、食べたくなかったけれど「一口食べてごらん」と言われたのでスプーンですくって口に入れてみた。りんごの甘さがじゅわぁっと口のなかいっぱいに広がって幸せ気分になり、少し元気になった。

本書にも書いてあるが、“食べ物こそクスリに勝る回復のカギ”である。食べると本当に元気になるものなぁ。いまでも風邪をひくとまずはすりおろしりんご。きっとそれは私がおばあちゃんになっても変わらない。すりおろしりんごは体にいいのはもちろんだけど、“これを食べれば元気になる”という子どもの時の記憶から安心できるのだ。

この本を読みながらそんなことを思い出し、ぽかぽかとあたたかい気持ちになった。

生方ななえ|モデル|連載・第六回|風邪とごはん

風邪とごはん ─ひく前 ひいた ひいた後─
渡辺 有子 著
発行|筑摩書房
価格|1575円

料理家・渡辺有子による料理本。元気のないひとも作って食べられるもの、具合の悪いひとに作ってあげたいものが並ぶ、体調の悪い時のための、57のレシピを収録。

           
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