INTERVIEW|みうらじゅん『勝手に観光協会』単独インタビュー(後編)
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2015年3月19日

INTERVIEW|みうらじゅん『勝手に観光協会』単独インタビュー(後編)

みうらじゅん独占単独インタビュー
『勝手に観光協会』のこと、旅のこと、安齋さんのこと(後編)

旅行にさえ行けば、きっと楽しいことが待ち受けているにちがいない──。そんな私たちの思い込みを、みうらさんは「ちがう」と言い切ります。果たしてみうらさんが考える旅のおもしろさとは?
さらに『勝手に観光協会』の相棒・安齋さんへの思いも、みうらさんなりの熱いものが伝わってきます。

文=津島千佳写真=原恵美子

気持ち悪くないと意味がない

──旅行を重ねることで、なにか考え方に変化はありましたか?

『勝手に観光協会』でよく吊り橋に行くんですけど、僕は苦手だから1回も渡りきったことがない。でも少しずつ歩ける距離は延びてるんですよ。苦手ということは好きになる要素があるわけで、苦手だからおもしろいってこともある。
歳を重ねると得意なとこしか行かなくなるじゃないですか。そこにつまらなさがあると思う。苦手なところへも行って経験値を積むと、比較対象ができておもしろくなってくる気がするんですよね。あそこよりこっちがいいとか。“好き嫌い”なんて童貞のころにつけた自己判断なんで、最近は苦手克服に疑ってます。
好き嫌いで判断することを何年か前にやめたら、いま大抵のことに興味がなくなりましたね。得意分野をやりすぎて、苦手分野がごっそり残ってて。できる限りネタが落ちていないところに行くことにいまは興味があります。

──みうらさんにとっての旅とは?

高校時代は、「おかんとの距離をいかに離すか」だったし、いまなら「嫁といかに離れるか」ってことでしょ、旅行って距離ですから。
旅はその土地に行けばおもしろい、っていう前提があるじゃないですか。それが足かせですよね。でも実際行くとがっかり、なんてことはよくあることでね。それでも女子との旅行だと夜のご褒美のセックスにごまかされて、「つまんない」って言われないようリードしなきゃいけなくて、苦しい目に遭ってきたわけですよ。

でも気の合う男友達ならごほうびがない分、つまらないこともおもしろいんですよ。ぴったりくる相棒に巡り会うっていうのは難しいけど、すごい重要でね。だから安齋さんやいとうせいこうさん、(田口)トモロヲさんとなら、ちょっとくらい痛いの我慢するから、セックスしてもいいと思うもん(笑)。でもそう思えるひとと旅に行けるのは、本当に幸せですよ。安齋さんと一緒だからつづけられるし、つづけたいし。

──たしかに『勝手に観光協会』のおもしろさは、みうらさんと安齋さんの中年男2人というところも大きいと思います。

『見仏記』では、いとうさんともユニット組んでますけど、ずいぶんといろんな旅館でゲイ疑惑を受け、何度重ね敷きの布団を見てきたことか。オヤジ2人で旅行するのがどんだけ不都合か、ってことですよね。あらぬ誤解を受けますから。
それならそれでいいと思って、あえて手をつないでまわったりもしましたね。そしたら京都の仁和寺で『見仏記』の文庫本をもった女性にサインを求められて、思わず手を離した仕草がものすごくゲイっぽかったですけど(笑)。

──その手をつなぐ、というのが安齋さんの場合だと、お揃いのブレザーやスカジャンを着ることなんですね。

そうです。やっぱり気持ち悪くないと意味がないですよ。サブカルって、ひとから誤解されて、世間から差別を受けることが“認知される”ってことですから。理解されちゃったら立場ないですから。

──12年も安齋さんと一緒に行動して、彼のひととなりは理解できるようになりました?

ある意味夫婦ですから、相手のずるさも汚さもお互い知ってます。仕事してる気にならないっていうのが、安齋さんの魅力なんで、楽しんで旅行してますよ。みんな安齋さんに対してそう感じてるんじゃないかな。「自分のほうがしっかりしなきゃと思わせられるって、どうなのよ」って(笑)。ロケの同行カメラマンも安齋さんのことが大好きで、安齋さんと話したいばかりに、撮影してるのに見切って入ってきますから。

安齋さんと一緒にいると、自意識がなくなるんですよ。でも「まだみうらくんには自意識がある」って、沖縄で血みどろの大げんかをしましたけど。翌日ぶすっとしながらカヌーに乗ってる2人の姿は、誰が見てもおもしろいと思う。新しい旅行番組の提案なんですけどね、仲が悪くなっていく状態を映し出していくっていうのも。従来のものにはないところですからね。

『みうらじゅん&安齋肇の勝手に観光ポスター展』記念メダリオン

© 2009色即ぜねれいしょんズ

解散はブレイクしたひとがやるもの

──最新作は京都に行かれたみたいですね。

舞鶴の方へ行って、天橋立ユースホステルに泊まったんですけど、そこは8月15日(土)公開の『色即ぜねれいしょん』の撮影で使われている場所でね、そこの巡礼もかねて。

──全国各地をまわっていて、地方のさびれた風景とかに感じるものはありますか?

さびれた風景よりも、そこにあるものをもっと再利用すればいいのにと思いますね。新たなものを導入するんじゃなくて、ゆるキャラみたいに既にあるものを使って活性化するほうがエコだし、って“エコ一筋”の俺は思います(笑)。
みんなが忘れたものを引っ張り出して、再利用するのが日本人は下手ですよ。『勝手に観光協会』で宮崎の歌をつくってるのに、東国原(英夫)さんからは何の連絡もないし。宮崎のことを思うなら、使っていただきたいですけどね(笑)。

──今後も、ゆるーく『勝手に観光協会』をつづけていきますか?

『勝手に観光協会』って日本だけとは謳ってませんから、狙ってるのは世界です。エジプトとかアメリカ全州の曲をつくりたいですね。大きく出てますから、こっちは(笑)。
いままでの活動で期限決めたことなんてないし、解散なんていうのはブレイクしたひとがやるものなんで。僕らはそんなブレイクもしてないし、辞める理由がまったくないんですよ。
くまなく各地を見て、その先にあるものを知りたいですね。でも津々浦々見終わったら、死ぬような気もしますけど(笑)。

──『勝手に観光協会』の目指すところは?

安齋さんと老夫婦のようになりたいですね。沖縄のけんかも「やった!」って思いましたもん。大島(渚)と野坂(昭如)も“マイク事件”がないと、グッとこないじゃないですか(笑)。そこで親友としての仲を深め、次のステップを目指すというか。
そういう仲をじゃまして、親友をとっちゃうから、親友の嫁が嫌いなんですよ。──こうやって話せば話すほど気持ち悪いことになってると思うんですけど(笑)、精神的ホモなんですよね。それは譲れないんです(笑)。

このあいだロケで「夫婦ですか?」ってきかれたのもひとつの到達点ですね。肉体関係もないのに、それが気持ち悪く出てるのも『勝手に観光協会』のテーマです。

──ありがとうございます。

みうらじゅん&安齋肇の勝手に観光ポスター展
会期│2009年8月16日(日)まで開催中
時間│12:00~20:00
会場│LAPNET SHIP
入場料│無料

LAPNET SHIP
Tel. 03-5411-3330
http://www.lapnet.jp/

© 2009色即ぜねれいしょんズ

映画『色即ぜねれいしょん』
8月15日(土)シネセゾン渋谷、新宿バルト9、吉祥寺バウスシアターほかにて全国公開
原作│みうらじゅん『色即ぜねれいしょん』(光文社)
監督│田口トモロヲ
脚本│向井康介
音楽│大友良英
キャスト│渡辺大知(黒猫チェルシー)、峯田和伸(銀杏BOYZ)、岸田繁(くるり)、リリー・フランキー、堀ちえみ、臼田あさみ、石橋杏奈ほか
http://shikisoku.jp/

青春×旅×音楽、僕らの世界が少しずつ変わりはじめる
僕の名前は乾純。京都の仏教系男子校に通う高校一年生。友達には「イヌ」って呼ばれてる。ボブ・ディランに憧れてる僕は、ロックな生き方を目指してるけど、学校では文科系は肩身が狭いし、家では優しすぎる両親が心配してくれるし……ロックとはほど遠い平凡で退屈な日々に悶々としていた。あの夏休みまでは……。
「フリーセックスの島行かへん?」。友達のその一言から僕の世界が少しずつ変わりはじめる。ギターケースと旅行バッグを手に夜汽車とフェリーを乗り継いで向かったのは、隠岐島。そこで僕らを待っていたのは……。

           
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