INTERVIEW|ロングランヒット映画2作が5月にDVD化、西島秀俊インタビュー(前編)
西島秀俊|NISHIJIMA Hidetoshi
ロングランヒット映画『東南角部屋二階の女』と『休暇』が5月にDVD化――
俳優・西島秀俊にインタビュー(前編)
2008年に公開され、ロングランを記録した映画『東南角部屋二階の女』と『休暇』がDVD化され、5月に発売される。リリースに先立って、この2作でそれぞれ主演と助演をつとめた西島秀俊さんにインタビューした。
インタビュー前編では、『東南角部屋二階の女』についてのお話をおおくりする。
『東南角部屋二階の女』は、真剣に生きることを避ける若者たちと、表舞台から退いたひとたちがおなじ場所と時間を共有し、おなじ想いを抱いていくまでの日々を描いた、心揺さぶられる作品だ。西島さんは、“死んだ父親の借金を背負い、古アパートが建つ祖父の土地を売ろうとしながらも、なかなか踏み切れない、優柔不断な男”、「野上」を演じ、加瀬亮さんやベテラン俳優陣とみごとなケミストリーを生み出した。
かたや、死刑囚を収容する拘置所を舞台に、生死に直面した人びとの苦悩や決断、哀しみや愛情が骨太に描かれた『休暇』では、“無口でなにを考えているのか分からない死刑囚”、「金田」役を、張り詰めた緊迫感のなか演じきった。
文=オウプナーズ写真=masacoスタイリング=藤井牧子ヘア&メイク=大橋覚(VANESSA+embrasse)
「映画を撮るってこういうことなんじゃないかな」。そう思えた撮影現場
映画公開時におこなわれた舞台挨拶で、「幸せで楽しかった」と共演者が口をそろえた『東南角部屋二階の女』の撮影現場。「幸せで楽しい」、それには「和気あいあい」以上の意味が込められていた。
『東南角部屋二階の女』を描いたのは、東京藝術大学大学院卒の27歳の女性監督、池田千尋さん。西島さんは、劇場上映された彼女の修了制作作品を当時観ていて、「すごい監督だなぁ」と思っていたそう。
そして撮影には、名映画カメラマン、たむらまさきさんを迎えたこの映画。彼の驚くべき撮り方とは?
「役者が演技をして、それを見てカメラポジションを決め、照明を組み、テストをやって、さぁ本番。っていう直前に、たむらさんは『いや、ここじゃない』って位置を変えるんです。それで、照明も全部組みなおして……。しかも、フレームにこだわった演技をするとたむらさんは怒るんです。『別にフレームから外れてもいいし、いなくなってもいい。役者は自由に動いていい』っていう」
なんと労力のいる作業だろう。
しかし、現場の誰ひとり、そのことを疑問に思わず「いや、むしろ、こりゃ楽しい」という雰囲気のもと、つくられていったそう。
「予定調和で映画を撮るんではなくて、映画ってもっと『なんなんだ』って……」
と、西島さんは当時を振り返る。映画が“すごい”ということを期待しているひとたちが集まって、撮られていった映画なのだ。「映画を撮るってこういうことなんじゃないかな」と彼が思えた現場。
そこから生まれた作品は、出演者たちの最高のセッションを魅せてくれる。
“言語化できないなにか”を感じて
撮影現場のようすをうかがうとなかなか“体育会系”な『東南角部屋二階の女』だが、作品は、ときにどうしようもない不穏な空気をともないつつも、終始穏やかに進んでいく。観客からの反響はどのようなものだったのだろう?
「この映画を観たひとは、すごく“なにかを感じてよかった”って言ってくれるんですけど、“その体験がなんだったか”ということをなかなか言語化できないみたいで……」
じっくり考えながら西島さんは語りはじめた。
「この作品は、ある事件が起きてそれに対してひとがどう動いてという類の“情報の映画”ではないんです。池田監督がおっしゃっていたように『日常に帰ったときに、作品がまだ生きていく』というか……」
あるようでないような不思議なリズムに淡々と引き込まれるまま104分が過ぎ、見終わったあとに、確実に“なにか”が残る。
西島さんはその“なにか”を「スタッフ同士とか、俳優と監督とか、俳優とスタッフ、または俳優同士……その関係がどんどん密になっていったところで生まれた」結果だと感じている。
「何かが残る映画」、
その“なにか”をうまく表現しようとしばらく考えこんだ後に、
「それはもう、見てもらうしかない!」
と、晴々しい笑顔で断言してくれた。
また、言うまでもなく、“超”豪華なベテラン俳優陣の演技も、この映画の見どころのひとつだ。西島さんは、成瀬巳喜男、小津安二郎、溝口健二、黒澤明といった名監督たちと仕事をしてきた香川京子さんをはじめ「すごい俳優さんたち」と共演して「格のちがいを見せつけられた」と言う。
「そんなすごい方々と共演させていただいて、その姿を目の当たりにして、それはすごく幸せなことで……」
観客からも、ベテラン俳優陣の演技に関する反響は多かったそうで、たとえば「香川さんのハミングする横顔のワンカットがすばらしかった」といった具体的な感想があったとか。
そんな、名俳優たちが画面のなかで演技をしているのを見られるだけで、一見に値する作品といえよう。
年数が経っていくと おっきくなっていく映画……
ところで、昨年の9月に封切られた『東南角部屋二階の女』、おなじく昨年の2月にロケ地山梨で先行上映された『休暇』。どちらの作品も徐々に上映される映画館が増え、つい最近まで上映されていたのだ。
なんと息の長い映画たちであろう。
撮影時からはずいぶん時間が経つが、
「まだ映画がスクリーンでかかってるんですよね。やっぱりそういう作品に参加できたことが、うれしいですね」。
そう語る彼は、「この2作は“息が長い”だけでなく、どちらも公開当初よりも、2年、4年、と年数が経ってくと、なんかこう、おっきくなっていく映画のような気がしていて……」
と、作品の秘める可能性をかみしめるようにコメントした。
さて、『休暇』は昨年9月に開催された第33回トロント国際映画祭でDiscovery(発見)部門に出品され、12月に行われた第5回ドバイ国際映画祭のコンペティション部門では、審査員特別賞受賞という快挙を獲得した。
国内に留まらず海外へもじわじわと影響をもたらしているこの作品のみどころとは? そして日本の映画界になくてはならない俳優、西島秀俊の演技論とは?
全州(チョンジュ)国際映画祭(4月30日~5月8日)正式招待作品
『東南角部屋二階の女』DVD 5月2日(土)
発売/販売 トランスフォーマー
監督 池田千尋
脚本 大石三知子
出演 西島秀俊/加瀬亮/竹花梓/塩見三省/高橋昌也/香川京子
<DVD仕様>
価格 4700円
本編 104分+特典81分
特典映像:メイキング・舞台挨拶・インタビュー・未公開シーン・予告編・フォトギャラリー
ストーリー
死んだ父親の借金を背負い、古アパートが建つ祖父の土地を売ろうとした、主人公の野上。理不尽な仕事から逃れようと突発的に会社を辞めてしまった、後輩の三崎。フリーの仕事もままならず、結婚でその不安を解消しようとする涼子。三崎と涼子は、偶然から野上が売ろうとしていた土地に建つ古アパートに住むことになる。
やがて、近くにある確かなものを見逃してきた彼らに、手にしたものも、失ったものも、いとおしく心の片隅に置くことで生きてきた人生の先輩たちとの出会いがおとずれる……。