第19章 白人国家でなくなるアメリカの複雑な事情
第19章 白人国家でなくなるアメリカの複雑な事情
文=今 静行
先進国中ぐんを抜く、アメリカの人口増加とその背景
アメリカの総人口は、2006年にはじめて3億人を突破しました。先進国をみると、人口減少傾向が当たりまえで、増えている国でも微増程度です。先進国のなかで唯一、高いペースで人口増加しているアメリカですが、そこにはヒスパニック系やアジア系移民が大きく寄与しているのです。中南米のスペイン語圏出身のヒスパニック系アメリカ人の出産率の高さには目を見張るものがあります。
1000万人以上といわれるアメリカの不法移民の約8割がヒスパニック系ということが、総人口増加の大きな一因となっております。
ここにひとつの数字をあげておきましょう。ひとりの女性が一生に産む子どもの数(合計特殊出生率)は「2.0人」と高い水準なのですが、人種別にみると、白人が「1.8人」、アフリカ系アメリカ人(黒人)が「2.2人」に対し、ヒスパニック系は「3.0人」と突出しています。出生率の高い移民、とりわけヒスパニック系の流入が人口増加に寄与していることがわかります。
アメリカ商務省国勢調査局による将来人口推計によれば、2015年には人口は3億2000万人となり、2050年には4億人を超えます。ゴマンとあるさまざまな統計のなかで、もっとも精度が高いのは、人口動態統計といわれています。あと40数年で4億人の新しい国家が誕生することになります。
政治も経済もヒスパニック主導へ
人口4億人を超える新しい国家とは、移民を主とした少数民族と白人の割合が、ほぼ同じ人口になり、それ以降は確実に逆転することを意味します。白人優先から、有色人種がイニシアチブをとる国家になるのです。宗教も思想も、嗜好なども違うひとびとの国になるのです。
当然、政治、経済面を中心にかなりの変化が起きるでしょう。まちがいなくヒスパニック系アメリカ人の政治パワーが増大し、経済活動もヒスパニックを無視できないどころか主導権を握る国になるでしょう。繰り返すようですが、ヒスパニックやアジア系移民とその子孫たちが多数派となり、アメリカという国家を動かしていくのです。
一般的にいって、人口の増加は経済規模を拡大させ経済成長に大きなプラスとなります。既にアメリカでは、ヒスパニック世帯の動向が、消費や住宅投資に強い影響をあたえるとして、企業は積極的に動き出しています。たとえばアメリカの大手金融機関であるバンク・オブ・アメリカは、ヒスパニック系市場の開拓を新たな収益源として動き出しております。一例ですが、身分証明をもたない個人を対象にクレジットカード発行を開始しました。
また、ヒスパニック系を対象にした住宅ローンの取り扱いをはじめた銀行もあります。これまで信用リストなどを警戒し取引に消極的だった各行も、ヒスパニック系の急増を無視できなくなったのです。
金融関係ばかりでなく、各企業も市場拡大に乗り出しています。新たな収益源を見逃すわけにはいかないのです。
ヒスパニック系人口は約4500万人と、アメリカ全体の約15%に達しております。白人に次ぐ最大の民族で、消費につかうおカネは数年以内に年1兆ドルに達し、住宅購入費用も2000億ドル以上の巨額にのぼるという民間調査もあります。
大きく変わるアメリカについて、私たち日本人は、移民国家の延長線にあるだけ、と思い続けているようです。アメリカ国内がこれだけ変化しているのです。日本も傍観者であっては、取り返しのつかないことになりかねません。大きなうねりに、早く気づいてほしいものです。