ニックを捕まえてみろ(3)木っ端微塵になったニック
Lounge
2015年5月29日

ニックを捕まえてみろ(3)木っ端微塵になったニック

ニックを捕まえてみろ(Catch Nick if you can)

その3 木っ端微塵になったニック

成功のための賭け、3日後の悪夢。そして目にしたベアリングズ銀行破産……。
隠蔽されていた損失の総額は13億ドル。ニックは追われる身となった。

text by Brieux Férottranslation by SUZUKI Fumihiko

ウォールストリート・ジャーナルの一面を飾る

運命の一号が出る1ヶ月前、妻、リサの流産の直後のこと、ニックは阪神淡路大震災にすべてを賭ける決意を固めた。
『まさにマーケットが動くタイミングだったんだ』。

あらゆる金融商品が買い取り手を探していた。そしてニックはそれらを最安値で買い取った。他のトレイダーたちが被災した同僚や親類縁者を心配している間に……ニックは半ば祈るような思いで、マーケットが再び上向き、ポンドが山となって舞い込むのを夢見た。
しかし、3日後に彼を襲ったのは悪夢だった。ニックには「売り」の暇もなかった。日経(平均株価)は1000ポイント以上の急落。ニックは木っ端微塵になった。

そして1995年2月23日。ニックが最後の賭けに乗り出してから3週間後。例年通りのボーナスの支給を受け取る日の前日。上司の一人が架空口座88888番をクリックした。そしていささか興味をもってしまった。いや、かなり興味をもったというべきか……その時、ニックはいなかったのだ。ちょうど週末で、彼はボルネオにいた。ニックがウォールストリート・ジャーナルの一面に出くわしたのはそのボルネオで、だった。

《ベアリングズ銀行破産》

『誰かが下手を打ったと思ったよ。まさか自分のせいだとは思わなかった。銀行は私の損失を補填することくらいは出来ると信じていたんだから。でも、あの時はもう、私が、88888番がどうなっているのかを見たくないと思ってから、1ヶ月が経っていたんだ』。

とんずら、投獄、映画化決定

結果はすさまじいものだった。隠蔽されていた損失の総額は13億ドル。ベアリングズ銀行の総資産とほぼイコールであった。これでは銀行も破産は免れようがない。

問題のトレイダーの追跡が開始された。スコットランドヤードが捜査に乗り出し、彼の顔写真はあらゆる新聞の一面を飾った。ニックはボルネオに潜伏したのち、バンコクへと逃走。その後、ブルネイ、アブダビと移動するもフランクフルトの空港で逮捕となる。シンガポールへ送還されたニックには、裁判で、14年の懲役を科されるおそれもあった。

ニックは4年半をタナ・メラの刑務所で過ごすことになる。その間はアルコール漬けだった。愛情というよりも金目当てで、ニックの妻はスチュワーデスになり、頻繁にニックの元を訪れていた。しかし、それも夫の夜遊びの過去を知るまでの話……資産凍結の通達が、ニックの有終の美を飾る。

伝記的小説とそれを原作とした、ユアン・マクレガーが「ローグ・トレイダー」に扮する映画(『私はこの映画のコピーすら持っていない。こんな形で映画化されるなんて恥以外の何だというんだ!』)で大金を得はするものの、それだけがニックの全財産となった。
ニックはそれを返済すべき借金、10万ユーロ相当と……結腸癌の治療にあてた。合掌!

その4 新しい挑戦につづく
           
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