ニックを捕まえてみろ(1)ニックを知っているかい?
ニックを捕まえてみろ(Catch Nick if you can)
その1 ニックを知っているかい?
タイトル
ニック・リーソンって知ってるかい? そんな名前をいわれたって誰かと思うだろう? だけど知っているはずさ。
すぐに思い出すんじゃないかな。ブレット・イーストン・エリスの小説から出てきたみたいなヤツだよ。
いまやニック・リーソンはアイルランドD2クラブ、ゴルウェイ・ユナイテッドFCのマネージャー。
イギリスでも最高に有名な銀行のひとつを倒産させておいてこれだ。
text by Brieux Férottranslation by SUZUKI Fumihiko
ユアン・マクレガーが演じたアイツ
『ニックはいないよ。香港へ出張に行ったんだ』
ゴルウェイ・ユナイテッドFCの電話担当は眉ひとつ動かさないでそういった。
「しかしなんだって、アイルランドD2クラブのジェネラル・マネージャーなんていう偉い人物が、わざわざアジアにまで仕事にいかなきゃならないんだ」って?
じつは、ニック・リーソンはアジアに詳しいんだ。
とくにシンガポールとシンガポール・インターナショナル・マネタリー・エクスチェンジ(SIMEX(サイメックス))っていう金融取引所には詳しい。
なんせニックはそんじょそこらのマネージャーとはワケがちがう。
ニックは「ローグ・トレイダー=詐欺師投機家」。
『トレイダー(邦題:マネー・トレーダー 銀行崩壊)』っていう映画でユアン・マクレガーが演じたアイツなんだ。
つまり、ニック・リーソンっていうのは、イギリスビジネス銀行のなかでも最高に誉れ高い、ベアリングズ銀行を1995年に、せいぜい3年程度で破産に追い込んだ男なんだ。
ウェストハムで50ポンド
ワットフォードの庶民的な界隈に生まれたニックは“真面目に働くよりもむしろサッカーに夢中なろくでなし”だった。
しかし、抜け目ないのがこの男。「シティ」の使いっ走りになると、つぎは雑用係、最後はベアリングズ銀行の管理職のあいだに紛れ込んでしまう。
仕事は『債権の仕分け』だった。こうしてオフィスに座ると、事態は一気に加速する。1992年には若干25歳にしてシンガポールでの取引部門の代表になる。
当時のトレイダーの大半がそうであったように、ニックは金融業界の新製品(ニックがやっていたのは先物取引)のことを勉強したことなんてなかった。しかしすぐにコツをつかんでしまう。はったりで大量の金をかせぎだした。
『基礎的な会計術についての質問をくらってたら、やばかったね』
黄色と黒の縞の上着とキチガイみたいなネクタイで着飾って、ニックは初年度から、たったひとりでベアリングズ銀行の『金融商品』部門の業績の10パーセントを稼ぎ出す。
けれども、彼のよろこびは、ウェストハムとかマンチェスターシティに賭けて、50ポンド稼いだときのほうが大きかったのかもしれない。
『あのときは、本当によく仕事をしたよ。なにもかもうまくいっていて、サッカーで遊ぶ時間もあったんだ』