I WANNA BE A PHOTOGRAPHER 第2回
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2015年5月21日

I WANNA BE A PHOTOGRAPHER 第2回

Bernard MATUSSIERE

ベルナール・マチュシエール 写真家

text by IIZUKA Hidemi

© Bernard MATUSSIERE

2冊の写真集

数ヶ月後、その日本人画家がスタジオを訪れた。

画家の手には撮影のための絵画ではなく、画家が手にしていたのは2冊の写真集だった。画家からその2冊の写真集を見せられたベルナール氏だが、タイトルや写真家の名前が日本語で書かれてあったので、もちろん誰の作品集なのか知ることが出来なかったが、その前になぜその日本人画家が2冊の写真集を持ってきたのかを理解するまでに数分かかった。その後大きな不安とプレッシャーがベルナール氏を襲うことになった。

「この2人の写真家とは話はつけてある。好きなほうを選べ!」
日本人画家からそう言われたベルナール氏は、どのくらいの時間をかけたのか覚えていないほど、その2冊の写真集を最初から最後まで何度も何度ページをめくった。ページをめくる間、写真家や写真の内容、どちらの写真家が自分にあっているかを考えようとしたが、ただベルナール氏の頭の中には、この日本人画家は本当にやってしまった! どうしよう! なぜ興味があると言ってしまったんだ! パリを離れなければいけないのか? パリジャンではなくなってしまう! 仕事はどうする、スタジオは? そしてミュレール氏は? ガールフレンドは? 家族は? 日本? 日本語は? どうしよう! アーどうしよう! とだけページをめくるたびに思った。

もちろん写真集の内容の素晴らしさに圧倒されたベルナール氏ではあったが、それよりも人間として、男として、パリジャンとして、ここでどう対処をしたらいいのか、どう判断しなければいけないのか、ということがベルナール氏を強く襲った。

© Bernard MATUSSIERE

あみだくじ人生

結局ベルナール氏はその2冊の写真集から1冊を選び、男2人の約束(ベルナール氏は約束とは思ってなかったことであるが)を果たすことになる。ベルナール氏がその1冊の写真集を選んだ理由は、ファッションや女性のヌード写真が多かったと言うことであって、それ以外の何か特別な思いがあったわけではなく、それ以上に責任を取らなくてはいけないという“義務感”と、好きなヌード写真が多かったという“偶然”からの結果であった。

まるであみだくじで何かの順位を決めるようであった。

その選択結果がベルナール氏の人生をどう変えるかなど裏付けるものなどなく、ただあったのは1冊の素晴らしい写真集、驚き、義務感、男同士の約束、偶然、と日本に行かなくてはいけない状況におかれた大きな不安だけであった。

© Bernard MATUSSIERE

ベルナール氏が選んだその写真集の表紙には、1人の写真家の名前が日本語で書かれてあった。

写真家 立木義浩、と書かれてあった。

日本人写真家ということだけは理解していたベルナール氏であった。

さらに続く

© Bernard MATUSSIERE

           
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